第十五話
悪魔の仮面と煤けたコートを被った男が地を駆ける。
「間に合ってくれ!」
リーシャの身体はカムナが放った爆発の影響で未だに痛みが残っていて、満足に動くことができなかった。
そんなリーシャを庇うように一組の男女が奮闘している。
女は蝶のように華麗に舞いながら敵兵を惑わし、男が蜂のように激しくメスを投擲する。まさに獅子奮迅の働きだった。
「彼らは一体何者だ?」
リザの間の抜けた声にエリスが答える。
「誰だっていいですよ! あの人たちは隊長を守ってくれています! だからいい人たちです!」
鼻息荒く言うエリスにラクスも頷く。
「私もそう思います。今の状況で隊長を守ってくれているというだけでも彼らは信用するに足る人物です」
「ふむ・・・そうだ、なっ! ええい、鬱陶しい! 次々と虫のように出てきよって!」
リザは心底うんざりした顔でアバルト兵を斬り捨てて言う。
「メディー、お前は彼らをどう思う?」
「・・・・・・」
「おい、メディー!」
「・・・・・・」
メディーはリーシャの前で敵兵たちと奮闘している女を凝視していた。
「そんな・・・。一体何がどうなっているんだ?」
亡くなられたはずの国王様が現れた。
これは有り得ないことだ。
そして、あの方が今私の前に生前と変わらずに、凛々しく、美しい姿のまま現れた。
常に私の目標であり続けた女性。
強く、優しく、美しい、女性の中の女性。
私の・・・姉様・・・。
「お前は王でありながら民を、人を殺しすぎた」
「我が国の民をどうしようと、それはわしの勝手だ」
「そうか。もう、お前とどんなに問答しようとも時間の無駄だな」
「ああ、そうだな」
カムナはチラリと男の背後に視線をやる。
「殺せ」
その命令で男の背後に忍び寄る兵が男の胸を剣で貫く。
だが・・・。
「どうした?」
男は顔色一つ変えず平然と言う。
「な、なぜだ・・・」
「なぜ死なぬ!」
「なぜだろうな?」
男の馬鹿にしたような物言いにカムナは再び兵に命令する。
「こ、殺せ! 何度でも殺せ! そやつが死ぬまで何度でも殺せー!」
男の身体は兵たちの剣で幾度も幾度も貫かれた。
だが、男は死ななかった。
「どうして死なぬ! どうしてだ!」
「死者である私がこの程度の攻撃で死ぬわけがないだろう。お前が私を殺したんだ」
「ぎ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
そのとき、この世のものとは思えぬアバルト兵の断末魔が鳴り響いた。
「な、何事だ!?」
取り乱すカムナ。
「来られたか」
「なに? 誰だ!? 誰が来たというのだ!」
「我ら亡霊の王・・・だ」