第十話
ぷかぷかと水面に浮かぶような感覚。
あまりにも気持ちがよくてずっとこうしていたくなる。
でも遠くから誰かが私を呼んでいるような気がする。
けれど、そんなこと私にはどうだってよかった。
もう私、疲れちゃった。
このまま静かに眠らせて・・・。
「・・・・・・っ!」
もう、うるさいな。
なにを言っているのかは聞こえなかったけれどとにかくうるさかった。
だけど、その声がすごく必死になにかを伝えようとしていたから、私はもう少しだけ、その声に耳を傾けることにした。
「うう・・・ん?」
ぼやけた視界の中で最初に目に映ったのは涙目で自分を見つめるエリスだった。
「エ・・・リス?」
どうしたの?
と、言おうとしたリーシャだったが、リーシャの声を聞いたエリスは慌てた様子でどこかへ行ってしまった。
そのすぐ後にどたどたと大きな物音がしたかと思うと、リザ、メディー、ラクス、エリス、トレインがやってきた。
「大丈夫かリーシャ!」
「なに・・・が?」
未だ頭と視界がはっきりとしないリーシャはリザの質問の意味が理解できなかった。
「覚えていないのですか?」
ラクスの不安そうな声にエリスはリーシャの頭に両手をかざす。
エリスの両手からは暖かな緑色の光が発せられている。
「大丈夫。脳に異常はないです。たぶん、あの大きな爆発で・・・」
そうエリスが言った瞬間、リーシャは全てを思い出した。
「爆発・・・? あの爆発はなに!? いえ、それよりみんなは無事なの!? それに私はあの爆発でどうして生きているの!?」
「リーシャ様落ち着いてください」
メディーがリーシャの手を取り優しく言う。
「まずは現状報告から聞いていただきます」
「え、ええ・・・」
メディーのおかげで少し落ち着きを取り戻したリーシャはいつものように返事をする。
「まずは我が軍の被害ですが、死者は誰一人出ていません。ただ、あの爆発で獣人族と人族の部隊が重症を負い、戦闘不能状態です。そして、エルフ族と羽翼族の被害はゼロ。しかし、この両部隊は現在負傷者の治療を行っていますので、同じく戦闘不能状態です。従って今現在の我が軍の戦力は私と私の竜人族部隊、ラクスとエリス。羽翼族の黒き翼が八名。対して帝国軍の戦力は帝国正規軍が約十万と圧倒的な戦力差です」
「ちょっと待って。帝国民は? 四十万近く人がいたはずよ? その帝国民も戦力に加わっていれば・・・」
「帝国民は我々の保護下にあります・・・」
「そ、そうなの? いえ、よかったわ。でも、そうなると食料の心配が・・・」
「その必要はありません」
「どういうこと?」
「帝国民約四十万の民はあの爆発でほぼ全滅しました。残っているのはわずか百人にも満たない数です」
「え・・・? そ、そんな・・・。だって、私たちは全員無事だったんだから・・・」
そのときリーシャへと音も無く忍び寄る影があった。
「誰!?」
「落ち着いてください。あなたに危害は加えません」
煤けたコートに悪魔の仮面を被った男はそう言うと、ゆっくりと仮面に手を這わせていく。
「皆さん、お久しぶりです」
仮面をはずした男はにこやかに笑って言う。
「あなたは・・・!」
リーシャ、リザ、メディー、ラクス、エリス。五人は仮面をはずした男の素顔を見て息を呑んだ。
なぜならば、男の正体は・・・。