第九話
「ぐわはははははははっ!! 見たか!? 流石は超古代カガク兵器よな! イクシードの連中が虫けらのように吹っ飛んでいたではないか! ぐわはははははは! 愉快! 愉快よな!」
超古代カガク兵器『ゲンシバクライ』の爆発から数分後、カムナ・アバルト皇帝率いるアバルト帝国正規軍十万は、イクシード王国と帝国の国境沿いにまで陣を後退させていた。
「はっ! 我々も初めてその兵器の威力を目の当たりにいたしましたが、素晴らしい破壊力でありました! これで我らの勝利は確固たるものになりましたな!」
「うむうむ! そうであろう! だいたい我がアバルト帝国がイクシードのような小国に負けるなどあるはずがない!」
急場の作戦会議室をこしらえたアバルト軍の中心で、皇帝は丸太の椅子にどっかと座る。
「はっ! まったくもってその通りであります! しかし・・・」
「なんだ?」
「いえ、その・・・爆発の直後に巨大な竜の姿を見かけたましたので・・・」
「報復が怖いと?」
「は、はい・・・」
「なーに、それはいらぬ心配だ。なにせ我らにはコレがあるのだからな」
そう言って超古代カガク兵器を手の中で楽しそうに転がす皇帝。
「皇帝陛下。私は陛下のように優れた人間ではなく無知な人間でございます。ですからこれからお尋ねする質問にどうかお答え願えませんでしょうか?」
「ふむ、申してみよ」
「はっ! その兵器について詳細を教えていただければと・・・」
「ふむ。そのようなことか。よかろう」
「ありがとうございます!」
「コレはな・・・」
皇帝は球体状の黒い物体を地面に置き、自分の子供を自慢するように話す。
「我らアバルト帝国の遥か昔の祖先たちが作った『カガク兵器』というものだ。お前たちもコレの正式名称は知っておろう? 超古代カガク兵器。『カガク』とはな、今で言う魔法のようなものだったと伝承にある。我々人族はエルフ族が扱う魔法を使うことができぬ。しかし、『カガク』とやらで作られたモノを使えば、我ら人族でも簡単に火や水、雷、飛行、といった神秘を簡単に使役できたと言う。そして、我らが祖先が作った『カガク』兵器の中で、特に破壊能力のあったモノがこの『ゲンシバクライ』であり、その破壊力の凄まじさから禁忌とまでされた兵器だ。そして、もう一つのコレが『テレポーター』だ」
皇帝は懐に手を入れると、四角く角ばった黒い物体を取り出した。
「コレはいついかなる場所であっても、人やモノを自分が定めた目的地へと瞬時に移動させることができるという究極の移動兵器だ。コレを使って五百人の兵をイクシードへ送ったこともあったが、そのときはたった一人の兵にやられた。まあ、送った兵がクズばかりであったからそれも仕方ないことだがな。なんせ奴らはあの裏切り者、アセリアの部下であったからな!」
言って腹を抱えて大声で笑う皇帝。
そのとき皇帝は完全に油断していた。
背後から迫る人影に気づかず笑う。
笑う・・・。
「私の部下を愚弄するなっ!」
皇帝の首筋に冷たく鋭利な刃先が突きつけられる。
「な・・・!」
「貴様は・・・!」
慄く皇帝と兵士。
彼らの目の前には黒い甲冑を身に纏ったアセリアが鋭い眼光で皇帝を見下ろすように立っていた。
「よくも・・・よくも罪の無い民たちを殺してくれたな! 貴様には王としての、否! 人としての心はないのか!!」
「ふふ、よく言う。国を裏切った貴様がよくもまあそのようなことをのた打ち回れるものだな!」
「黙れ! 貴様のせいで民は・・・ほぼ全滅した・・・」
「そのようなこと、わしには関係ない」
平然と言う皇帝にアセリアの怒りは限界に達した。
「帝国はもうすぐ滅びる!」
「いいや滅びなどしないさ。わしが皇帝である限り、帝国は滅びん」
「貴方はまだそのようなことを言っているのか。いつか私が言っただろう。民あっての国だと! それを・・・」
「なあ、本当に貴様は民あっての国だと思っているのか?」
「なに? 当たり前だ!」
「それじゃあ今、民を人質に取れば貴様はその物騒なモノをわしからどけざるおえんわけだな?」
「なにを・・・」
皇帝は不敵な笑みを浮かべると、手に持っている四角く角ばった黒い物体を強く握る。
「我が民たちをここへ導け」
その言葉と共に閃光が駆け抜けた。
アセリアが目を開くと、そこにはイクシード王国で保護されていたはずの民たちが呆然と立ち尽くしていた。
彼らにはなにが起きたのか全くわからないのだろう。
突然の閃光に駆けつけたアバルト帝国軍に皇帝は、
「民を取り押さえろ。抵抗すれば殺しても構わん」
静かに告げる。
「さあ、どうする?」
「くっ・・・! 卑怯な・・・!」
「くくく・・・。拘束しろ」
アセリアはなんの抵抗もできずに、ただ拘束されるのだった。
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