第七話
トレインたちがアバルト兵の襲撃報告を聞く三十分前。
「今日の夕刻に皇帝はアバルトの全戦力を持ってイクシード王国に攻め込んでくる」
「何だとっ!?」
メディーは驚愕に目を大きく見開き、エリスは声を出せずにいた。
「それは本当なんだろうな?」
メディーはアセリアの首筋に剣を突きつけた状態で冷たく言う。
「本当だ」
アセリアは自身の首筋に剣を突きつけられながらも、臆することなくメディーの顔を正面から見据えて答えた。
「くっ、なんということだ・・・っ!」
メディーは構えていた剣を鞘に収めると、眉間にしわを寄せる。
「しかし、何故敵であるお前がそのような情報を我が国に教えるのだ? 奇襲とは本来なんの準備もしていない者に対して効果を得られる戦術であって、情報を得た我らにはなんの効果もないぞ? 貴様、一体なにが目的だ?」
「アバルト帝国を救ってほしい・・・」
「なんだと?」
「いや、正確には帝国の民を救って欲しい!」
「それは・・・どういうことだ?」
「皇帝は今回の行軍に戦闘経験のない民を無理矢理徴兵させたんだ・・・」
「なっ・・・」
「そればかりか、皇帝は今回の戦争の先陣をその民たちに取らせるつもりだ・・・」
「なんてことを・・・!」
メディーは歯をぐっと噛み締め、拳を握り締めた。
「私の願いは一つ。アバルト帝国を潰してくれ! そして・・・民たちへの攻撃をなんとか止めてもらえないだろうか? 民たちの中にはまだ年端もいかない小さな子供もいるんだ・・・」
「・・・・・・」
悔しさからか、悲しさからか、アセリアは涙を流して敵であるイクシード王国の兵に頭を下げた。
「貴様の名は?」
アセリアは涙を拭い、顔を上げる。
そして、大好きだった母から授かった名前を誇るように言う。
「我が名はアセリア。アバルト帝国騎士隊隊長、いや、元帝国騎士隊隊長、アセリア・ネイロンド・アークス・フォックス!」
「フォックス・・・まさか、お前は・・・エミリア様の・・・」
「どうかしたか?」
アセリアが怪訝な声で言うと、
「い、いや・・・」
と、狼狽しながらも答える。
「やはり・・・敵である私の願いは聞き入れてもらえないのであろうか?」
「そう・・・だな。貴様の言う通りだ」
「そうか・・・」
「だが・・・努力はしよう・・・」
「ほ、本当か!?」
「ああ、約束する。民たちには敵も味方もない。部下には今の話を伝えておく。だが、確約はできない。部下の命もかかっていることだからな」
「ああ! それでも十分だ! ありがとう!」
アセリアはメディーの手を取り心からの感謝の言葉を送った。
それから約三十分後。
メディーがリザへと報告に行ったあと、アセリアは部屋で横になっていた。
もとい、エリスがアセリアを無理矢理ベッドへ寝かしつけたと言ったほうが正しい。
「こんなことをしなくても私は逃げないぞ?」
「別に見張っているわけじゃないですよ。アセリアさんはケガ人なんですから私が看病するのは当然じゃないですかー」
本当に人懐っこい娘だ。
私の話を聞いていなかったわけじゃないだろうに。
それとも敵国の騎士隊長だとわかっていないのだろうか?
私が目の前の可愛らしい羽翼族の少女を見てそう考えているときだった。
「ベルたちがどこにもいないの!!」
急に部屋の前が騒がしくなった。
「もうー、ケガ人がいるっていうのにうるさいなー! あ、アセリアさん、私ちょっと見てきますね!」
そう言ってエリスは部屋を出て行った。
そしてそれから数分後、
「ほ、報告します! 羽翼族監視班が王国近隣にて大勢のアバルト兵を発見! その数・・・およそ五十万!」
そんな声が聞こえてきた。
くそっ!
予定よりずいぶん早い!
やはり皇帝はあれを使ったのか?
あの魔の兵器を・・・・・・。
なが〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い、お付き合いありがとうございます。