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第六話


「んっ・・・」

 ここは?

 「よかったー! 目が覚めたならもう大丈夫です!」

 誰だ? 妙に人懐っこいな。

 「あなたは誰だ?」

 「私? 私はエリス! エリス・ティンベルト!」

 「エリス・・・あなたが私を助けてくれたのですか?」

 「そうだが、正確には違う。傷を癒したのはエリスだがな」

 別の女性の声が聞こえてきた。

凛とした、透き通るようなその声はどこか母様に似ていた。

 「お前を発見し、ここまで連れてきたやつがいるんだ」

 「その方はどちらに?」

 「今は会えない。それより、貴様。我が国の者ではないな?」

 鋭いな。

 「ええ」

 「何者だ?」

 「名前は・・・いえ、まだ名乗れません」

 「そうか・・・」

 それだけ言うと女性は先を促すような目で私を見つめる。

 「私はアバルト帝国の者です」

 私が名乗った瞬間、女性は腰に提げた剣を抜き、私の首筋に鋭く尖った刃先を突きつける。

 「アバルト・・・だと?」

 「はい」

 「なぜ・・・アバルトの兵が我が国にいる?」

 「助けを請いにきました」

 「どういうことだ?」

 「お願いがあります」


 王宮前には国中の民が集まっていた。

 俺の横ではリザさんが俺のことを今日からイクシード王国の正式な民として迎え入れる、と集まった国民に発表している。

だが予想通りというか国民の反応は最悪だった。

国民全員から殺意の篭った眼差しで睨みつけられて、俺はもう泣いてしまいそうだった。

 「男を我が国に迎え入れるとはどういうことですか!」

 「そんなこと認められるはずないじゃない!」

 「男は壊すことしかしない! そんな男を迎え入れるなんて!」

 予想していたとはいえ、ここまではっきり拒絶されたり非難されるのはかなり悲しい。

 「トレイン」

 「なんですか?」

 「下がるぞ」

 「え? でも・・・」

 「いい。下がるぞ」

 そう言ってリザさんは、俺の手を引き王宮内へ戻るのだった。

 「すいません」

 「なにがだ?」

 「あの・・・俺のせいでリザさんまで悪く言われてしまって・・・」

 「ああ、そんなことか。気にするな」

 「すいません」

 「気にするなと言っているだろう?」

 「でも・・・」

 「気にするな」

 そう言ったきり黙ったままのリザさんと俺は、この王宮に担ぎこまれた兵士の容態を見に行くべく歩いていた。

兵士のことはすでにリザさんにも伝えているので知っている。

 「トレイン」

 先行していたリザさんが足を止める。

振り向いたリザさんの表情は真剣そのものだった。

 「お前もリーシャから男たちがこの国でなにをしたのか聞いているだろう?」

 「はい」

 「民も今日から男を正式な民の一員として迎え入れますと言って、はいそうですかというわけにはいかないんだ」

 「リザさん?」

 「だから・・・だな。まあ、その、あれだ」

 「わかってます」

 「そう・・・か。まあ、大丈夫だろう。気長にやろうじゃないか」

 「はい」

 さっきまでは確かに落ち込んでいたはずなのに、今は自然と笑みが溢れる。

 

 「陛下!!」

 兵士が寝ている部屋の前に到着してすぐにメディーさんが真っ青な顔で走ってきた。

 「こちらにおいででしたか・・・」

 「どうした?」

 「実は・・・」

 「ふむ・・・」

 メディーさんはリザさんの耳元でなにやら話をしている。

 「アバルトが?」

 「はい」

 「わかった」

 「陛下、どうなさるおつもりですか?」

 「さて、どうしたものか・・・」

 リザさんは顎に手をやりため息をつく。

 いったいどうしたんだろう?

 「あの・・・」

 俺がリザさんに声をかけようとしたときだった。

 「トレインくん!!」

 焦り顔のメルヒストさんが息を切らせてやってきた。

 「ど、どうしたんですか?」

 「ベルたちを見なかった!?」

 メルヒストさんは俺の両手をがっしりと掴み、潤んだ瞳で俺を見つめる。

 「ベルたちですか? ベルたちとはここに連れてきてもらってから会ってないですけど・・・」

 「そ、そう・・・」

 明らかに落胆した様子のメルヒストさん。

 「ベルたちがどうしたんですか?」

 「いないの・・・」

 「え?」

 「ベルたちがどこにもいないの!!」

 「いないって・・・だって俺たちがここに着いたのは三時間以上も前ですよ?」

 「でもいないの!!」

 取り乱したメルヒストさんは、俺の両手を掴んでいる手を離し、その場に崩れ落ちた。

 「私が・・・私がベルたちを迎えに行ってあげていれば・・・」

 「落ち着け、リーシャ」

 リザさんがメルヒストさんの肩にそっと手を置いて言った。

 「落ち着いていられるわけないでしょ!? 三時間よ!? まだ三つや四つの子供たちが三時間も行方不明になっているのよ!? それに、すぐそこまで敵が近づいてきているのよ!? 早くあの子たちを安全な場所へ・・・」

 敵? 

 「あの、隊長ー・・・」

 いつの間に現れたのか、ティンベルトさんがメルヒストさんに声をかけていた。 

部屋のドアが少し開いている。

ティンベルトさん、本当にあなたはいつ現れたんですか?

 「ベルちゃんたちなら・・・」

 「ベルたちがどこにいるのか知っているの!?」

 「えっ!? あ、はい。でも・・・」

 すごい剣幕で詰め寄るメルヒストさんにティンベルトさんは怯んでいる。

 「隊長!」

 そんなメルヒストさんの下へ、尻尾の生えた可愛らしい女性がやってきた。

尻尾が生えてるってことは、この人は獣人族か?

 「こんなときになに!?」

 「えっ!? いえ、その・・・」

 ティンベルトさん同様、彼女もメルヒストさんの剣幕に怯んでしまった。

 「すまない。隊長の代わりに私が聞こう」

 すっかり怯んでしまった獣人族の女性にそう言って、メディーさんは優しく微笑んだ。獣人族の女性はそんなメディーさんを見て顔を真っ赤に染める。

だが、すぐになにかを思い出したのか首を横に振る。

 「ほ、報告します! 羽翼族監視班が王国近隣にて大勢のアバルト兵を発見! その数・・・およそ五十万!」

 「くそっ、やけに早いじゃないか・・・」



そろそろ佳境です。

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