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ACT.04 海王渉の条件

海王渉、レース関係者であれば誰もがその名前を聞く

若き天才、飛び抜け、圧倒的に速いドライバー、フォーミュラーワンの席に最も近い男

海王渉が参加したレースで、2位になれれば御の字、フォーミュラカートにおいて、彼に勝てるものはいないと思わせる程であった

ジュニア・フォーミュラチームやSGT強豪名門学校やチームにスカウトされるのは当然であった

プロのレーサーのキャリアを積むとなれば、ジュニア・フォーミュラか改造ツーリングカーを使用するSGT強豪名門のどちらかの道を進むであろうと思われていた

海王グループのご子息であるなら、資金面にも恵まれている故に、フォーミュラ系の道に進むと思っていたが意外なことに、彼はフォーミュラ系チームのスカウトを全て拒否、彼はSGTの強豪名門校のどこかに入るということを明確に声明した

当然、SGT強豪名門校は彼をスカウトしたが…彼はある条件を出して、その条件を飲んだ高校に入ると言い出したのだ

"わがまま" "思い上がっている" "舐めている" 彼とスカウトの話をした者はそう話していた

無論、同じ地区の我が明堂学園も、彼を喉から手が出る程欲しいドライバーであった故に、彼と話し合いの席につくことになった


海王家 応接室


「これはもはや屋敷ですねぇ…銀堂さん?」


通された応接室は、ザ・金持ちというのがわかるほど大きな部屋で、執事さんに紅茶を出されておもてなしされていた


「こういうのは慣れないか?槇乃?まあ、流石は海王グループというべきか、明堂一族と劣らないものがあるよ」


そういえば、銀堂監督も明堂一族の一人だったや


「海王渉、一体彼はどんな要求するんですかね?」

「さあな、流石にそこまで他所のスカウトには聞くことは出来なかったがな…だが、私達はどんな要求だろうが彼を手に入れる。金を出せというのであれば、いくらでも用意してやるつもりだ」


ここまでなりふり構わない程、近年の明堂学園モータースポーツ部門の成績は芳しくないという事実があった。強豪かつ名門明堂一族ということで多数のスポンサーも付いているが、それに見合う成績を出せていないと言われても仕方ない、前回の後期全国大会でベスト4入り。近年、表彰台に上がることがないのだ

銀堂監督の指導力や我々のコーチ陣の指導力は申し分ないと自負はしているが、名門明堂というのが曲者なのだ


「黒堂家の圧力は勘弁してもらいたいものですよ。確かに明音は優秀で速いドライバーですがね…ほかの生徒の士気は良くないし、向上心がどうにも…」

「去年、辞めていった新入生に言われたよ"ここでは、実力でシートに座らせてもらえない"余程、黒堂の圧力がかかっていたんだろう。それに気づけなかった指導者として、悔しい限りだ」


実力主義を掲げる銀堂監督にとって、一族栄光主義を掲げる黒堂家、そして本人は罪はないが、明音の存在は疎ましと感じていた


「槇乃、今の明堂学園には、速いドライバーより、なにかこう…状況も環境すらガラリと変えてしまうような、これまでにいない別種なドライバーが必要なんじゃないかと思うんだ」

「別種ですか?」

「海王渉は確かに天才と呼べる速いドライバーだ。海王グループのご子息相手じゃ、黒堂家も手出し出来んだろう。だが、私が必要な人材はそういうことじゃないのかなって」


銀堂監督が求める人材、彼自身も明確な人物像はまだわかっていないようだ


「なるほど、今までのスカウトに来た監督さんとは違うみたいだ」


応接室の扉の前、話を聞いていたのか、海王渉が私達の前に現れた

彼のレース映像や写真は見ていたが、実物の雰囲気で、もうわかる。コイツは速いドライバーだと言うのは


「盗み聞きするつもりなかったんですが、気になるお話をされていたのでつい」

「いや、こちらも、少し失礼な話をしたか」


渉が応接室の席に座ったことで、スカウトの話が始まった。正直、イメージというか、聞いていた話とは違った印象で、礼儀礼節、言葉使いも、受け答えも丁寧に答える。銀堂監督も、この時は肩透かししたようだった


「…モータースポーツ部門の特待生として、受け入れるですか…」

「ああ、君は学校での成績も良いほうだからな。明堂学園としては特待生として受け入れる。無論、最初から一軍のドライバーとしてな」

「他の学校のスカウトも、おおよそそういう内容でしたね。明堂学園なら近場だしな…」


これは、食いつけると思っていた矢先


「自分をスカウトするのであれば、条件があります」


渉は条件を提案してきたのである、おそらく、これが他校が断っていることなのだろう


「君を受け入れるのなら、余程無茶な条件でない限りは聞こう」


銀堂監督の言葉に、海王渉はニヤつく、その言葉を待っていたぞとばかりに


「山岡徹也、彼を明堂学園モータースポーツ部門に入学されるというのであれば、自分は文句なしに貴方達のスカウトの話を受け入れます」

「…山岡、徹也?」


銀堂監督がこちらに顔を向けて「知っているか?」という感じだったので、私も首を横に振った。無名のドライバーか?


「すまない、山岡徹也というのは一体どういう人物なのだ?私も聞いたことのない名前だからね」

「知らないのも無理はないと思いますよ。彼は別に公式な大会に出ている訳じゃないですから、スカウトの範囲はジュニアジムカーナ、レーシングカートで成績を残した者をピックアップしているんじゃないんですか?」

「全くの無名のドライバーを入学させろと?君とその山岡徹也とはどういう関係なんだい?友達か?」

「友人であり、そしてオレのライバルであり、オレを救ってくれた人だ。アイツがいなければ、自分は車競技の世界から辞めていました」

「…無名のドライバーか…」


銀堂監督が悩んでいるのはわかる。明堂学園のスカウト基準は公式戦で成績を出した者、全くの無名の選手を特別扱いで入学させるのは、コスト面を考えても、経営陣を納得できる材料がない。だからこそ、海王渉をスカウトしてきた他校が断った条件がそれだとしたら


「悩んでいらっしゃるようでしたら、こう言えばいいですか。オレは1on1方式の対決で、山岡徹也に負け越しているという事実を」

「君を負かすようなドライバーだと!?」


監督共に、机から身を乗り出してしまう程の衝撃だった。少なくとも、フォーミュラカートの公式戦彼が負けたことはない。そんな彼が負けることがあったのかという事実は信じられないのだ


「まあ、1on1という独自のルールが採用がされてるレースだとな、そういうことはあり得るか…そうか、君は敗北を知っているのか」

「敗北を知っているから、勝利の価値がわかり、渇望し、目標になれる。アイツはそういうことをよく言っていました。銀堂さん、これまでにいない、別種ドライバーが必要なのだとした、山岡徹也はまさしく貴方達が欲するものを持っています。徹也を明堂学園に入れるのは、オレを得る以上のメリットはあると断言します」


話し合いは、銀堂監督が「前向きに考える」っと、保留という形でその日は終わった

渉から、「近日に山岡徹也の実力を見れる機会がある」という日にちと、場所を教えてもらった


戻って、明堂学園モータースポーツ部門教員室にて


「Yガレージ主催の走行会か…なるほど、山岡という姓は、Yガレージの社長の親族だったか」

「監督、やはり彼を見に?」

「海王渉が一目置いている人物なら、無視できんだろう…それに、興味もある」


そして数日後、Yガレージの走行会に銀堂監督の同行として来ることになった

走行会には、近隣のSGT2000クラスや1200クラスに参加している大学や団体チームも混じって行われていた

私と監督が観客席着いた頃には、フリー走行が行われていた

明堂のドライバーを指導するコーチとして、実力を見る力はあると自負はある

正直、この走行会に参加しているドライバーのレベルは中の上と言った所だろうか、ただ一人を除いてだ


「白の32Rの走り、いいですね監督。なんというか余裕というか」

「わかるか槇乃、あの32Rには自在に操れるという気品を感じられるような走りをしている。なるほど、あれがそうなのか」


ピットに入り、R32から降りてきたのは、海王渉と同い年のぐらい背丈と体格と顔つき

「山岡徹也は、綺麗で左右異なる瞳」

渉が言ったように、宝石のようなオッドアイの瞳を持つ青年であった


「あれが、山岡徹也…」


思わず見惚れてしまう、遠目で関わらずにだ。人を惹きつける魅力が、あの青年にはあった

人を惹きつけるのは、さまざまだが、彼はまさしく雰囲気だけで惹かれる

フリー走行が終わると、1on1の模擬戦が行われた

無論、彼もヤリスに乗り換えて参加していたが、私の目から見て、走行会に参加しているドライバーより確かに巧さはあるが、速いという訳でもない

先行してヤリスに、後追いのスイフトの1on1の試合を見てそう感じた


「なんというか、彼の走行ラインおかしくないですか?1on1だと、理想の走行ラインを走れない状況はあっても、もっと攻め込んでいけそうな」

「…気づかないか?彼、とんでもない高度な走りをやっているんだよ」


私と違い、監督は徹也の走りに気づいたようだ


「彼は意図的に、相手のオーバーテイクを仕掛けるタイミングや、得意なコーナーを見極めて、気持ちよく走れないように仕掛けている。これは相手にとっては不快だろう、自分の走りをさせてもらえないのだからな」

「ジャマータイプのドライバーということですか?」

「いや、ジャマータイプに近いが…彼の場合はまるで相手の動きを予想予測して走っているのではないか?将棋やチェスのように盤面に対して、戦術的な駆け引きを組み込んだ走り…」


戦術や駆け引きは、レースに必要なことだが、まだ中学生の彼がそんなことを考えて走っているとは思えない


「…槇乃、彼と1on1をやってみてくれないか?」

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