ボス猫様
この町ではどこにでも猫がいる。警察官の私が新米のころ赴任してきて思ったことはそれだ。歩いていて猫が目の前を通り、書類をまとめていても机の上に猫が乗ってきて、酔っぱらいの保護をしても酔っぱらいの近くに猫が数匹にゃーにゃーと鳴いているのだった。
先輩の警官に話を聞くと昔からこの辺りは野良猫が多いこと、またボス猫様がそれらをまとめているらしい。
「ボス猫様ですか」
「そう、ボス猫様。この町の人間はそう呼んでいる。どんなことでも解決してしまうんだ。ああ、勘違いするなよ。神社に祭られているとかそうゆうのじゃなくてだな、そこに学校があるだろうその裏山に小さな祠があってそこに住みついている猫なんだ」
「ふーん。ちなみに今までどんな事が解決したんですか?」
「そうだな。例えば俺の場合は落とし物を見つけて欲しいと願うと祠にいつの間にかあったり、仕事の部長がやりずらいと相談しに行ったら次の日から上機嫌になったりしたかな」
「なんか本当に神様みたいですね」
「そうなんだ。ちなみに部長にこの事は言うなよ」
そんな話をしていると一人の少女が泣きながら交番に入って来た。手には小さな紙の様な物を持ち、所々に小さなひっかき傷を負っていた。入って来ると少女は私たちに小さな紙きれを差し出してきた。
「タマがねいなくなちゃったの」
少女が持っていたのは紙切れではなく写真だった。そこには小さな猫と少女が映っていた。先輩はその写真を受け取ると「ふむ」とその写真を見て唸った。猫探しは結構警官に頼まれる仕事の一つだ。しかし、これほど厄介な物もない。なにせ人間と違って場所に検討もつかないし名前を呼んでもにゃーとしか返ってこない。さらに見つけたと思って主人に渡しても違うと言われることすらある。前の街ではそんな事があったので私は少女には悪いが住所と電話番号だけを聞いて親御さんに引き取ってもらおうと考えた。
しかし、先輩が口を開く。
「分かった。おじさんたちに任せて今日は帰りな。明日の夕方までには見てけおくから学校が終わったらここに来てくれな」
「えっ、おじさんたちが見つけてくれるの?」
「もちろんだとも」
少女はそれを聞くと泣き止んだ。
「お父さんとお母さんに聞いても分からないし探せないって言ってたよ」
「大丈夫。おじさんたちには秘策があるんだだから今日は今日はもう帰んな」
先輩はそう言うと少女の頭を撫で笑った。しばらくして泣き止んだ落ち着いたその子は少し不安そうに交番を出ていった。
「先輩、本気ですか?猫を明日までに探し出すなんて。無理とは言いませんけど何かあてはあるんですか?」
「さっきまであてについては話していただろう。餅は餅屋、猫はボス猫様に頼るんだよ」
「いや、でもに猫に頼るんですか」
「まぁついてきなよ」
先輩は引き出しからパトロール中の不在案内板を出しドアにかけたそして裏山に向かったのだった。
裏山というよりは小さな丘の上に祠はあった。先輩は駆け寄りその小さな祠をコンコンコンと三回ノックした。すると後ろの方からのっそりと猫が現れた。猫の柄は虎柄ででっぷりを太り夕方の今まで寝ていたようで薄く開いた目を擦す寝ながらゆっくりとそこに寝そべった。先輩はポケットから写真を取り出した。
「ボス様、この猫を探しているんですけど知りませんか?」
猫はツンとその写真から目を背けてまたウトウトと舟を漕ぎだす。先輩は「しょうがない」と言ってポケットからチー鱈を取り出した。猫の前に置くと猫はのっそりを目を開けた。スンスンを匂いを嗅ぎそれを食べ始めた。10本ほどあったチー鱈が半分ほどに減った、猫は写真を見ながらニャーを鳴いた。
「お願いします」
先輩は写真を猫の近くに置くと頭を下げた。それを私はただ見ていた。先輩がそのまま帰ろうとしたので私も行こうとした。
「よし帰ろうか。猫様もやってくれるそうだ」
私たちは猫様から少し離れた所で先輩がしゃべった。
「えっ、あれでいいですか?猫にご飯あげただけじゃないですか」
「いいんだよ、きちんと返事もしてくれたし。問題ない」
私は半信半疑であった。先輩は猫に交渉がうまくいったと思っているのか鼻歌を歌っていた。
次の日、先輩と私は交番にいた。特に事件もなく暇を持て余していたので私は書類の整理、先輩は昼寝をしていた。書類の整理をしているといつの間にか猫が勝手に机に乗っていた。ニャーと一声鳴くと寝ていた先輩の方に飛び移った。先輩は「うわっ、寝てないですよ部長」と言って椅子から落ちて尻もちをついていた。猫は先輩にニャーと一声発するとドアに向かって行った。先輩がドアを開けるとそこのは猫がいた。
「おお、さすがボス猫様だ。仕事が早い」
私は驚いた。そこには昨日写真で見た少女の猫がいたのだ。先輩はその猫を拾い上げると机の日向部分に置いた。探していた猫はそのまま寝てしまった。足元にはいつの間にかいた猫がまたニャーと一声鳴くとどこかに行ってしまった。私はその光景にポカーンとしていた。先輩は得意げにこちらを向いて
「ほらな。見つかっただろ」
「信じられないです。こんな事ってあるんですね」
「まぁな、探しものと困りごとはボス猫様に頼ったほうが良い」
そう言うと先輩はまた寝てしまった。
夕方、少女が猫を取りに来た後私は家に帰りそのことを妻に話した。
「へぇー、面白いわね」
「だろ、びっくりしたよ。けどそうすると一つわからない事があるんだよな」
「ん?分からない事?」
「先輩が部長の事でボス猫様に相談しに行った話だけど探し物は分かるとしても猫が部長のご機嫌をとるなんてできるるのかなって思ってさ」
「ああそれなら聞いたことがあるわよ。部長さんって裏山の近くに住んでいる方よね。最近、あの辺って子猫が沢山出るらしいのよ。それから交番に行くのだからかわいいものを見て和んでいるんじゃないかしら」
妻は笑って言った。