帰り道
その後、2人は一緒に家へ帰った。どちらから言い出したということもなく、ただ何となくそんな流れになったのだった。
校庭の横を通る時、彼は誰かに見られていたら不味いなという気持ちで少し緊張していたが、有難いことに生徒たちは部活で精一杯な様子だった。
校門を出ると、お腹が痛いと言っていたのが嘘のように松岡さんは楽しそうに話し始めた。話題は彼女の家族の話と、飼っている柴犬の話だった。
家族や犬の話をしている時の松岡さんは、普段の大人びた様子からは想像も付かない、あどけない十代の少女に変わっていた。彼はそんな彼女を、ただ驚きを持って見つめていた。そしてその瞬間に、何か特別なものを感じずにはいられなかった。
彼女と話しながら帰ると、普段見慣れた景色がまるで違う世界のように見えた。
実のなり始めた銀杏の葉の間から見える木漏れ日は、何かを祝福するようにキラキラと光り輝いていた。
「もう秋だね。銀杏のにおいが結構してる。」と彼は言った。
「確かに。この匂いがすると、秋って感じだよね。」と言って松岡さんはうなずいた。
「小学生のころ、この実をよく踏んづけて遊んでたなあ。」
「あれ、踏むとすごく臭んだよね。」と言って、彼女はくすりと笑った。
いつも買い食いをする揚げ物屋の横を通り過ぎた時、おかみさんが2人に気付いて彼に小さくウインクをした。彼は少し恥ずかしくなって、気付かなかったふりをした。彼と松岡さんはそんな関係ではなかったけれど、勘違いされるのは意外と悪い気はしなかった。
そうしている内に2人は彼の家の前に着いてしまった。彼がじゃあと言おうとした時、松岡さんはニコッと笑って
「良かったらもう少し話さない?」と言った。