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異界と魔物が現実世界へと転移した異界(ダンジョン)攻略物語  作者: 地雷原のちわわ
過去編 -災厄の始まり-
19/96

第4話 -始まりの火曜日-

 話し合いの結果、なるべく見通しの良い開けた通りを選択しながら徒歩で進むことにした。


準備を整える。といっても心の準備だが……


「よし、まずは俺が先に出るから、夜空さんは左右の経過階、白縫君は後方確認をお願いねぇ」


「わかりました」


「佐々木さん、気をつけてくださいね。進んだ先の角で鉢合せるとも限らないですし……」


「大丈夫! こう見えて毎朝遅刻ギリギリのところを走ってきてるから逃げ足だけは速いのさぁ」


ぐっとちからこぶを見せるようにポーズして見せる佐々木。


「……」


そういうことでも、ないのだが場を和ませようとしているのは伝わる。


過度な緊張は、動きも判断も鈍らせる。


知ってか知らずか、俺たちを不安にさせないようにしてくれているのだろう。


鉢合せした瞬間に逃げ足がどううまく働くのかよくわからないが、職場の先輩後輩の関係上でリーダーは佐々(ささき) 朋昭(ともあき)にいざという時の方針を委ねることにした。


「まあ、とりあえず出発するとしようかぁ」


了解の返事をし、目的地である現在の避難場所、日之崎高校を目指して歩き出す。


道中は特に何があるわけでもなくさっきまでの騒動が嘘のように静かで閑散としていた。


人っ子一人いないとはまさにこのことだ、行き交う車や歩行者の姿はない。


いつもなら誰かしら歩いていてもいいはずなのに誰もいない。


しかし、外を伺っているのかチラホラと家の中に人がいるのだけはわかった。


しばらく歩き続け、何も起きない中十数分が経過した。

突然先頭を歩いていた佐々木が立ち止まりつばを飲み込むように緊張をあらわにする。


何事かとその理由をさぐるように夜空と佐々木の前を見た瞬間に理解した。

目をそらす。


夜空は、声が漏れそうな口を両手で塞いだ。


なぜなら、見た先にはうすく赤黒いペンキで塗りたくられたような痛々しい血痕が残されていたからだ。


血は乾ききっており、ここで誰かが襲われたのが少し前だと考えられる。


そんな痕を見て3人は緊張を高める。


この近くにあの黒くて大きな化け物がいると思うと生きた心地がしない。


あれから順調に歩き続けてはこれているものの、いつどこで襲われてもおかしくはない。


緊迫した状況を、この血の跡が、ここは危険だとささやいてくる。


人の不幸……ではあるが幸い血痕は、向かう方向と違う方向へと伸びていた。


引きずられたのかどうかは想像したくない。


けれど、このまま先に進んでも血痕の主とは出くわさずに済みそうだ。


慎重に歩みを進めていたところで3人の耳を貫くような声が響いてくる。


「ぁああああああああああああ」


聞こえる場所は、ここから少し離れた所だ。

建物の1つか2つ先で誰かが、あの化け物に食べられたのだろうか、それとも……


前に歩く夜空は、その悲鳴を聞きいた途端に体が反射的に反応し、震えるような小声で囁いた。


「助けてあげられないでしょうか……?」


できれば助けてあげたい。

先頭を歩く佐々木も肩を震わせていた。


「俺達じゃ何も出来ない……行ったとしても怪物たちの餌になるのが関の山だ……ごめん、残念だけど助けられない……」


震える声で佐々木も前を歩きながら答えた。


「うん……」


何も言えなかった。

見て見ぬふりを押し通すことしか出来ない。


なんとも利己的で無力なことだろうか。


きっとここで我先にと助けに行く人こそが命を落とすのだろう。

そんな考えが頭の中を過ったが無情にも自分の助かる道を優先して行動する。


生存本能は、抑えられないものなのだと改めて自覚した。

歩いて50分くらいは経過しただろうか。


あの生物の不気味な気配があるため近くをうろついているような感じはする。


けれど、幸い出くわすような最悪の事態は避けられていた。


もうすぐで目的地に着く。


少しだけしか流れてはいないはずの時間が長く感じるほどに緊張していた。


そして、目的地が近くになるに連れ焦りが生まれる。


段々と人の声が聴こえてきた。


集団で集まっているような音だ。きっと日之崎高校が避難所として機能していたんだ。


3人は精神的にも疲れ切った体にムチを打つように走り出す。


あと少し! あと少しで助かるんだ。

そう思っていた。


そして、走る横目に見慣れない物体の前を横切ったのを確認してしまった。


その瞬間3人の足音の他に鈍く地面を蹴る音が近づいてきているのに気づく。


見つかった!!


「走れえええ!!!」


叫び、必至に走った。


だが、いきなりスピードを上げて走ったせいなのか前を走る夜空がつまずき転んでしまう。


高校はすぐ目の前なのに、こんなところで死んでしまうのだろうか。


────助けたい。


脳内を、ただ純粋な言葉だけがふっと湧いてでてくる。

だが、震える足がそれを拒み思うように体が動かない。


「情けない!」


小声で強く自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

二人とは出会ってそれなりの付き合いはある。


ずっと一人で誰かと仲良くなるなんてことが無いまま生活してきて、せっかく職場でも仲良くなってきたのに……


最期は、退職でもなく目の前で殺されて終わるだなんてあんまりだ。


俺は今、死ににいくんじゃない。


最善の手を打って生き伸びるんだ。


そう自分に言い聞かせ夜空の背後で立ち止まった。


振り向くと眼前に走ってくる謎のせいぶつは、体長4mはあるだろう人型をした黒いやつだった。


それは、店の前で襲われたときのやつと同じ種類の指揮棒状の長く鋭い爪が特徴的の生物である。


「なんだ……走っていたんじゃん……」


零れた言葉はむなしく。

静寂に消えていった。


理不尽だ。

最善の手なんてあるわけがない。


やつを目の前にして半ば、あきらめの意味を込めてこぼれたセリフは「魔物みたいだな……」そうつぶやき覚悟を決めた。


そして佐々木に向かって「頼んだぞ!」と声をあげ、夜空が「え?」と何が起きたのか理解するより先に佐々木のいる方向へと思いっきり持ち上げ突き飛ばした。


軽いのか、それともアドレナリンドバドバの体が無理をしているのかわからない。


人ってこんなに軽く持ち上げられたっけ?っという疑問も今は、些細なこと。


────ころんだ挙げ句に思いっきり投げ飛ばされるとか、そんな体験はそうそう出来ないよな。。


こんなときでさえ変にふざけたような思考が邪魔をする。


しおらしくないところは自分らしいか、ただの楽観主義者なのか。


今となっては心理テストをやろうにも、その心理状態を推し量る時間なんて許されてなどいない。


黒い生物が目の前に来た。


怖い、死にたくない。


長く伸びた手がふり降ろされるのを見送り、たぶん……自分の人生に悔いはない! そう心の中で思いながらゆっくりと目をつぶった。


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