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第五話 機内の状況

冬休みが終わりましたので更新が滞ると思います。

 時は士郎が旅客機を去った直後に遡る。


「ッ!しまった!」


 士郎が行った突然の行動の衝撃から立ち直った怜はすぐさま旅客機の出入り口を確認したが士郎の姿を確認することは出来なかった。士郎の自分勝手さに怒りを覚えたのは一瞬で、すぐにいつもの彼の行動を思い出し、怒りの感情の代わりに諦念の感情が沸き上がって来た。それに今後のためにも同級生たちに取り乱したところを見られるわけにはいかなかった。


(過ぎてしまったことは仕方がない。まあ、月城君なら大丈夫だろう。後で指導は必要だろうが・・・彼に対してやっても時間の無駄になる気がする)


 “唯我独尊”と呼ばれる同級生の自由行動をどうやって諫め、直させるかを考えるだけでため息が漏れる。

 そんな生徒会長を目尻に鉄志は柄にもなく今後の方針について真剣に考え込んでいた。


(士郎の奴、情報を絞れ取れるだけ搾り取ったらこの集団から抜ける気満々だよな。俺はどうすっかなぁ。でもなぁ、これだけの人数の集団なら安心できると言えば出来るんだよなぁ。あー、でも、言い方は悪いけど足手まといになりそうなやつらも多いんだな、これが。マジでどうしよ。うーん悩ましいところだぜ。・・・ああ、ダメだ!頭がこんがらがって来るぜ!)


 普段やらないようなことをやると人間こうも上手くいかないものなのかと頭を掻きむしる。

 姫はそんな状態の幼馴染が心底鬱陶しく、また安眠妨害も甚だしい存在に現実(※偏見)を突き付けてやろうと面倒くさそうに口を開く。


「急に何?キモイ。五月蠅い。黙れ脳筋」


「辛辣だな!?あと、脳筋は関係ねぇだろ!それに五月蠅くもしてねぇ!!」


 五月蠅いと言ったにもかかわらず怒鳴り散らす愚かなる幼馴染をどう黙らせるか考え、そして更なる現実(※姫の主観)を突き付ける。


「存在が五月蠅い」


「酷過ぎじゃね!!?」


 眠そうな目を擦りながら自然に、そして常識であるかのように人を罵る人物が己の幼馴染であることを呪いつつ(通算約三万回目)、鉄志は怒鳴り声をあげる。しかし、鉄志の冷静な部分は姫の言う通りにして黙るという選択肢を取った

 何故なら姫はもう一つの二つ名として“毒舌の眠り姫”と呼ばれるほどの毒舌の持ち主であり、いじめっ子も泣かす恐怖の化身にして柔術と空手の使い手で家の周囲の地域の不良共を纏める女番長(無自覚)なので、触るな危険な人物であるからだ。反抗して痛い目を見たのは一度や二度ではない。

 姫は自分が危険人物だと思われているとは露知らず、騒音の元凶が黙ったことを良いことに二度寝をしようと瞼を閉じた。

 体格は良いのに幼馴染三人の中で最弱な鉄志は触らぬ神に祟りなしとばかりに思考へと戻っていく。ただし、頭の中がこんがらがってきても暴れないことをしっかりと心に刻んだ。


(えーと、何処まで考えたんだっけか?・・・あっ、そうそう、この集団から抜けるかどうかの所までだった!あれ、全く進んでなくねぇか?まあ、いいか!あとで考えることにしよう!!そんな難しいことを考えるより今はジョブの事を理解しないとな!・・・・ん?何か忘れてるような・・・・っ!)


「ああああああ「うるっさい!!」グハッ!」


 鋭い一撃が溝内へと綺麗に決まり、上半身を屈め悶絶する。鉄志の呼吸を読み、的確なタイミングで打ち出された拳は痛烈なダメージを彼に与えた。幼馴染が悶絶しているのを見て満足げな笑みを浮かべている姫は悪魔としか言いようがない。それでも内臓が傷つかないように手加減してあるのはさすがと言える。

 だが、鉄志もいつまでも蹲っているという訳ではない。長年の間鍛えられてきた彼の溝内からは痛みが引き始め、まだ残る痛みに顔を顰めながらも元の座っている姿勢に戻った。


「あ、あのなぁ、五月蠅くしたのは悪かったけどよ。もう少し手加減してくれも良かったんじゃないか?」


「必要ない」


「此処まで来ると逆に清々しいなぁオイ!」


「褒めても何も出てこない」


「褒めてねぇ!!」


 褒めていないのに褒められたと思える幼馴染の思考回路に怒号を上げる。普通そんなことをすれば周囲から疎まれるのは確実なのだが、彼に集まったのは同情の眼差しだけであった。


「いや、まあいいや。そんなことよりもお前、ステータス確認したのかよ?」


「すてー、たす?」


「オーケーオーケー、今の感じで良く分かった。取り敢えず、お前の今の強さが分かるから心の中で唱えてみ」


「・・・脳外科行く?」


 いつも辛辣な事を言ってくる幼馴染が心配そうに憐れみの目を向けてくるとギャップがあるが、若干鉄志を馬鹿にしているような感じがあり、若干彼の眉がピクピクと何かを我慢するように動いた。


「ハァ、お前は会長の話聞いてなかったのかよ。四の五の言わず一回やれ」


 いつにもなく真剣な鉄志の声音に流石の姫も只ならぬことが起こったことを理解し、心配そうな顔から一転真面目な表情―ほぼ無表情なので鉄志や士郎にしか違いが分からないが―になり、頷いた。

 そして、その眠そうな目は驚愕で大きく見開かれることとなる。非現実的な出来事が目の前で起こったのだ、無理もないだろう。思わず振り返って鉄志の顔と自分のステータス画面を二度見した後、自分の頬を抓る。


「痛い」


「当たり前だろ。げんz「リアルな夢」つって、現実逃避も甚だしいな!?」


 痛みを感じても現実だと認めない幼馴染に鉄志は思わずツッコミを入れた。彼も姫の気持ちを理解できないわけではない。だが、理解しなければ状況は好転しないどころか悪化する可能性の方が高いのだ。無理にでも理解してもらう他ない。


「・・・・・・・まじ?」


「マジもマジの大マジだ」


「最悪」


 異世界にいるという非現実的な状況に思わず悪態をついてしまうのは仕方がないことだろう。ただし、彼女が最も嘆いているのは家に帰れない事でも親に会えない事でもなく、お気に入りの別途で寝れなくなってしまったことだが。

 流石の姫も頭を抱えていることに鉄志は小さな安堵を覚え、同時に彼女の嘆いていることがどうせくだらないことなのだろうなっと心の片隅でため息を漏らした。極まった問題児はどこに行こうが自分のペースを崩すことが無いのだから仕方がないことだろう。


「・・・それで、お前の職業は何だった?」


(セイント)級“眠れる聖女(ソメイユ・サン)”。これって凄い?」


「お、おう、すげーぞ」


 (セイント)級の職業であることをまるで如何でもいいことのように淡々と告げられ、内心自分の職業が(セイント)級であることを喜んでいた鉄志は動揺し、声が裏返ってしまった。それと同時に問題児である姫が強力な職業(ジョブ)を引き当てたことに今後の不安を感じていた。

 その後の姫の質問に対しても鉄志と士郎が集めた情報で答えることが出来た。他の生徒たちもある程度の情報交換を終えたのか、士郎が出て行った時から始まったざわめきも収まっている。生徒たちの落ち着きを見て再び怜が発現しようと口を開きかけたタイミングで、座席の後ろの方―二年九組の座席で一人の男子が手を上げながら立ち上がった。


「二年九組の安藤 海斗だ。会長、発言いいか?」


「ああ、月城君のような自分勝手なものじゃないのならどうぞ」


 会長の言葉に小さな笑い声が起こった。無論、今の非常事態で笑っている場合ではないが、未来に絶望し、衰弱していくよりかは幾分かマシだろう。海斗もそれが分かっているのか肩を竦めた。


「残念ながら俺はあいつ程自由奔放には成れないな。・・・それで、言いたいことなんだが、十組の奴らが居ねぇ」


「何ッ!!?」


 異世界に転移してしまった事実が発覚した時よりも騒がしくなる機内。流石の怜も動揺を隠せず、咄嗟に指示を出すことが出来ない。この状況を解決したのも海斗だった。


「テメーら、うっせーぞ!俺の話はまだ終わってないんだよ!!」


『・・・』


 海斗の怒声に生徒たちは静まり返った。日焼けした黒い肌の大男の怒気は彼らを威圧するには十分過ぎた。流石に彼も気まずそうな顔になったがすぐに表情を引き締め、話を進める。


「突然大声を出して悪かったな。だけどよ、起っちまった事を気にしても性が無いだろ?まず俺らが問題視するべきは混乱してたとはいえ居なくなってたことに気付けなかったってことじゃねぇのか?」


「・・・確かに。奈良先生、十組の担任教師の小山先生はどちらにいらっしゃいますか?」


「確か、我々が気絶する前にトイレに行くと・・・ッ!女性の先生方の中の誰か、お手洗いを確認してきていただけますか!?」


 二年六組の担任で学年主任の奈良 平蔵は教員の点呼をしたときに居なかったにも拘らず、気が付かなかったことを思い出し、即座に指示を出した。


「私が行ってきます!」


 二年七組と二年十組の副担任をしている柏木 由利子が即座に名乗りを上げ、機内にあるお手洗いへと向かった。それを確認した平蔵はその厳つい顔に厳しい表情を浮かべ、口を開いた。


「直ちに各クラスごとにまだ忘れていることが無いか、そして各生徒の職業の系統と階級を確認し、学級委員は三十分後にそれを各自の担任に報告!!先生方、我々も自分のクラスの近くにいったん移動しましょう。生徒からの報告も含めて今から四十分後に緊急会議を開きます!獅子堂、その会議にはお前も出て貰う。何か今後の行動ついて意見があるなら纏めておけ!」


『はい!!』


 平蔵の指示にその場にいた全員の息の揃った返事が機内の空気を揺らした。先ほどまで緊張感の無かった姫も目を覚まし、その顔にも薄っすらと緊張の色が見えていた。問題児の表情の変わり様に鉄志は思わず流石“鬼軍曹”だと感心してしまった。

 “鬼軍曹”奈良 平蔵、身長188cm、年齢五十三歳、空手部の顧問をしており、黒髪に混じって見える白髪以外はその年齢を感じさせぬ引き締まった筋肉を持つ英語科一の武闘派教師。また、姫と同じく空手の他に柔術も修めており、その実力は姫をも凌ぐ。その指導は厳しく生徒から敬遠されているが、その厳しさに隠れている優しさがあり、一部の生徒からは強く支持されている。士郎が出て行った時には田中教諭が先に動いたため機会を失ったが、士郎の行動を諫められる数少ない教師でもある。

 そんな“鬼軍曹”からの指示によって開始されたクラス会議兼職業報告会は滞りなく進んでいき、教員と生徒会長の緊急会議へと移行した。まず、会議冒頭で各クラスで報告されたことが伝えられた。

 まず、忘れていることについては、十組の生徒とかかわりが薄いものに至っては名前もおぼろげになっていたこと、そして、気絶する寸前、十組の生徒の座席の下に魔法陣のようなものが突然現れたことが報告された。

 次に二年五組から二年九組までの生徒のジョブの統計は以下の通りになった。なお、士郎発案の暗殺者系は物騒だということで隠密系へと変更された。


下級(ロー)

戦士系11名

剣士系10名

騎士系8名

格闘系10名

投擲・狙撃系6名

魔法系9名

神官系5名

指揮官系2名

隠密系5名

生産系6名

農業系7名

商人系3名

鑑定系1名

合計83名

中級(ミドル)

戦士系3名

剣士系4名

騎士系4名

格闘系3名

投擲・狙撃系3名

魔法系3名

神官系2名

指揮官系1名

隠密系3名

生産系5名

農業系3名

商人系2名

鑑定系3名

合計39名

上級(ハイ)

戦士系2名

剣士系3名

騎士系2名

格闘系2名

投擲・狙撃系2名

魔法系2名

神官系3名

指揮官系1名

隠密系2名

生産系3名

農業系1名

商人系1名

鑑定系0名

合計24名

達人(マスター)

格闘系1名

投擲・狙撃系1名

隠密系1名

農業系1名

商人系1名

鑑定系1名

合計6名

(セイント)

騎士系1名

魔法系1名

神官系1名

生産系1名

合計4名

君主(ロード)

剣士系1名

合計1名


 教員の職業系統と階級は以下の通りになった。


・奈良 平蔵 指揮官系達人級

・田中 和成 指揮官系上級

阪東(ばんどう) 愛華 戦士系聖級

・柏木 由利子 農業系上級

・工藤 恵美子 神官系上級

・須藤 麟太郎 騎士系上級


 教員は全員が上級以上なので引率者としての面子が潰れなかったと言える。また、このことによって今後の治安の維持も幾分かしやすくなった。

 その後の話し合いで決まったことは以下の通りだ。


・この巨大な木に対して鑑定を行うこと

・戦闘のできるものを先に地上に降ろし、安全を確保したのちに非戦闘員を降ろすこと。

・クラスごとに時間を区切り夜警をすること。

・石器を作ること。

・周囲の木を伐採し、柵を作ること。

・水源の探索と食料の確保をするために、隠密系の生徒に周囲を散策してもらうこと。

・昼食は機内に残されていた機内食を食べること。

・それぞれの系統の階位の最も高い者をその部門長とし、定期的に集まり会議を開くこと。


 緊急会議が終了し、平蔵によって生徒たちにこれらの指示と方針が伝えられた。






 

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