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KTO日蝕号  作者: RAMネコ
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番外編「日蝕号と大佐」

思い切ったことをする。


略帽で乱れた髪を整えながら、モニターに現れるラザフォード上級大将を待つ時間は緊張だ。


「フォークストン大佐、接収は上手くいったか」

「はっ。予想外の収穫ではありましたが、キビ星系で三隻の戦艦を確保することに成功しました」

「二隻ではなく、か」

「木花咲耶姫号、虹輪号ーー日蝕号です」

「王国政府が流した情報にはないな」

「総督府の諜報機関も掴んではいなかったことを確認しました」

「ありえるのか?1000km級だぞ」

「日蝕号が極秘建造されていたのは、確かに首都星軌道なのですが、どうにも謎が多くありすぎます」

「危険性は低いのか?もし……」

「人間が制御していました」


モニターの先にいる上司は少しだけ、口を閉じ、


「安全装置として貴官を常駐させる。アップロードを怠るな」

「はっ。ーー話は変わってヘラクレスⅲの修理と補給に関してなのですが」

「日蝕号と交戦したらしいな」

「損害や消耗自体は大したことはありません。ただ、予定外の戦闘で失ったものを請求しておかないと不安でして」

「ふっ、用心深い。ついでに、キビ王国からの参画艦用の補給品もすでに送っている」

「はっ。感謝を、ラザフォード上級大将」

「ところで、日蝕号を動かしたのは子供らしいな。AIが補助したとはいえ、大した度胸だ」

「その度胸のある人間ですが、今回の日蝕号クルーの募集に参加していたのでリクルートしました」

「随分とクローン、それも学生が多いな」

「キビではあまり、風当たりのよろしくない連中のようです」

「よろしい。戦場に居場所を探すのは、よくあることだ。問題ないだろう」


本当にそうなのでしょうか?


私は言いかけた言葉を飲み込み、通信が切れた直後から頭を強く働かせた。


ニューカーマインの建造した戦艦は公式には三隻だ。これは他の星系国家よりも50%高い軍事力を象徴していて、一線を超えている。


だがキビ王国政府も、三隻めを建造していた。目的は何だった?キビ側はまったく知らない、と言ってはいたが……やはり気になるな。


初戦を予定通り、木花咲耶姫号と虹輪号はKTO艦隊との演劇に付き合ったが、やはり何か含んでいるものがあるのか。それは別にいい。問題はどこの何と繋がっているか、が問題なのだ。


その点では、想定外の日蝕号の監督に赴任できたのは幸運だったか。……学生に舐められないよう、いかつい軍人の義体を選んだが、少々やりすぎたか。もう少し友好的な、そう女性型でも……。


ーーコンッ!


ーーコンッ!


古風だな。ドアのノックに対して私は「入れ」と許可した。


「フォークストン大佐殿!私は山中祐樹、日蝕号の代表責任者として抜擢された旨を報告に参りました」

「わかった。早かったな。ならばKTOの指示は全て、貴官を通すがよろしいかな?」

「はっ!大役でありますが、よろしくお願いします」


体育会系の子供か?


「要件はそれだけかな?」

「はっ。いいえ、大佐殿」

「……」

「……」


祐樹とやらは、なかなか口を開かないーーあぁ、そうか。


「発言を許可する」

「はっ」


内心で私は、くすりと笑ってしまった。顔は、岩のような不変の不機嫌さだろうが。


「日蝕号の今後の航行予定を教えていただきたいのです。恥ずかしながら我々の多くは、軍用艦に不慣れであり、猛訓練を施したとしても満足な運用は極めて難しいのが現状です」

「睡眠学習で、経験をプリントすればいい。速成はどこの軍でもやっている」

「はっ。しかしそれだけではまるで能力が足らないのではないかと、愚考いたします」

「ほう。ーー続けろ」


私は略帽を被りなおした。


「キビ星系で過去にあった、四・一大逆事件では、テロリスト集団が記憶転写装置で大量の速成兵を仕立てあげました。しかし速成兵は期待された経験の記憶程の成果をあげられず、キビ正規軍でも重大なテーマになったんです。正規軍でも同じカリキュラムを使っていたからです。

後に、シン・レポートの発表で記憶を転写されただけでは能力の20%も発揮できないとされました」

「具体的な解決法の目処はたてたのか?」

「はっ。研究はされていますが、原始回帰といっていい手段であります」

「よろしい。祐樹に一任する。やってみろ」

「はっ!」

「話がこれいじょうないのなら、下がってよし」


祐樹、といったか。部屋をでた男の、妙なやる気に少し当てられた。


KTOはキビ王国市民から見れば、どこからも侵略者だ。その侵略者を相手に、最善の能力を発揮できるようにうかがう……いや、自分の目的の為に、主人を使うことを躊躇わないタイプだな。となれば彼の目には、KTOが主人に相応しいと思わせた、か。


あの手のタイプは、主人が主人として立っているうちは従順だ。弱れば噛みつくが、そこは上手くやるしかないだろう。


「ふふふ」


笑いが溢れる。やはり、女の義体のほうがよかったか。快楽で沈めてしまう、という手段が使えないのは……いや、男色家として開発してしまうか?面白くないな、それは却下だ。私の趣味じゃない。


KTOの戦略方針を思い出す。


キビ星系の制圧は成功した。となれば、他星系に対する戦略的初動にも高い確率で成功していることだろう。低強度の抵抗を見せる星系への攻撃に移行するのだろうがーーその前に、『想定外に失敗した星系』に対して、キビの戦艦が投入される可能性がある。


艦隊戦には流石にならないだろうから、良い実戦訓練になるな。

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