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KTO日蝕号  作者: RAMネコ
2/12

第2話「当て擦りの対艦戦」

『こちら王国軍事同盟所属、ヘラクレスⅲです。本艦は貴スペースドックで建造中の艦についての臨検を望みます。何卒、ご理解とご協力のほどよろしくお願いします』


血の気だけで勝てるか!


KTOの戦艦が警告を発しながらドックに近づいてくることを、放送していた。彼らはこのドックで建造しているのが何か、気がついている!


だが、キビ王国政府はKTOと茶番したのではないのか。あるいは、ここで建造されている戦艦は完全に帳簿外の一隻なのか?馬鹿な、宇宙戦艦なんだぞ!


「日蝕号が目覚める」

「なんだって、七篠」


七篠が奇妙なことを口にするのを聞いた。日蝕号が目覚める。なぜ今わかる。予兆はなにもなかった。


「外れた勘じゃなさそうだ」


足元が揺れる。いやドック全体が軋みをあげていた。ロックされていた日蝕号とやら、各部のサイドスラスターを吹かしているのだ。燃料が既に積み込まれているのか。


ドックの異常な圧力を検知したのだろう。自動システムが隔壁を封鎖し、各部に収納されていた簡易宇宙服のロッカーを弾けたように開け放った。救命ボート用のハッチに誘導するようリグラインが光る。


「早く着ろ!死ぬぞ」


もたもたする七篠にも与圧服を着せた。


「最悪、日蝕号とやらがドックを破壊しても最低、救助隊が着くまでは、もってくれるか」

「それより、日蝕号に乗ったほうが安全」

「おい」

「ボートがある。日蝕号が救難ビーコンに対するガイドビーコンを出せば、ボートはガイドを辿って日蝕号に入るわ」

「七篠!お前、何を言ってるんだ?」


遅かった。


ボートは、日蝕号の要救助のガイドに従い飲み込まれていく。誰が出しているんだ。余計なことを!


待て、建造中なんだぞ。誰が乗っている?あるいは、何が載っていない。


「七篠!お前は絶対にボートから出るな!約束しろ」

「なんで」

「俺のこの眉に誓え。いいか、絶対だ」


七篠の動きを封じるには、右眉だ。真っ二つ万歳。


俺は戦艦内を走った。とはいえブリッジは走るには遠すぎる。何せ1000kmもあるのだ。目的は適当な端末で、ケーテルを接続した。防壁が心配だったが、問題なく情報を話してくれる。


「無人戦艦、なのか」


日蝕号が『呼んだ』異常の答えを見つけようと、僅かな時間で調べた結果は、この艦には聞いたことのないものばかりであるということだ。キビ王国製ではなさそうだ。


それでも、日蝕号が人間を不要としたシステムを前提にしているのではないか、ということくらいは理解できた。


「戦略戦術統合AIーーこいつか」


勝手に動き始めたのなら、勝手にKTO戦艦に迎撃しかねない。キビの惑星軌道で対艦兵器の流れ弾など、数億人が一瞬で消し飛んでしまう。


「もしもし!聞こえてるか、AI」


AIの名前がわからない。


「ソフトスキンを視認。私には貴殿の意見を尊重する準備がある」

「よかった、耳と口があったか」


話せそうだ。


「すぐに動きを止めろ」

「本艦はただいま自衛行動中であり、それは国際的に保障された権利の範囲内である。よって本艦がプロセスを中止する充分な理由たりえない」

「馬鹿野郎、惑星軌道で戦うヤツがあるか!」

「損害判定の処理計算では、本艦の損失とキビ星系植民人は不等号の関係にあり、優先されるべきは本艦の生存である」

「……わかった。敵艦は王国軍事同盟の宇宙戦艦ヘラクレスⅲだ。使用火器は?」

「通常の対艦チャートに従い、プロトンビームとシールドを併用した近接砲撃戦を主体とする」


惑星キビは完全に破壊されてしまう。戦艦の陽電子凝集光砲なんて、一撃で亜大陸を蒸発させるんだぞ。それが三連装だ。大陸が完全に破壊され、海に逸れたとしても大気は燃えあがり、気温が数十度は上昇する。宇宙戦艦の強固な磁場障壁なら耐えられるが、キビに要塞並みの惑星規模の障壁発生装置はーーない。


「ヘラクレスⅲは陽電子凝集光砲を使わない」

「好都合である。我々は敵の最大火力を封じられれば、極めて優位に戦闘を開始可能」

「違う!KTOが見越してるのは戦後の生存戦略、お前は短絡的すぎる。ヘラクレスⅲを轟沈させたとしても、同型艦、それにKTOに参加した戦艦が幾らでもくる」

「肯定する。しかし今戦わなければ、本艦は破壊され、それは死である」


ーー死?


「戦い方も色々だ。ヘラクレスⅲもお前も、惑星軌道だ。対艦兵装が惑星に深刻な被害をだしかねないいじょう、使うのはMMUか大型ミサイルだ」

「脅威ではない」

「そうだ。KTOだって馬鹿じゃない、地球が本気を出してくる前に同盟国の軍事力をあげて対抗したい筈。今回のはまあ事故みたいなものだ。戦うが、損害を出さず、出させず、実力を証明して降伏する。そうすれば、キビ政府の手から離れるが、KTOの鹵獲艦として組織の後ろ盾を得られる」


AIが熟考している間に、ボートに乗っている七篠と通信を繋ぐ。あちこち歩いて迷子になってはいないだろうな?万が一高速機動なんてされたら、艦中央付近以外は生身だと挽肉になるぞ。


「七篠!ボートにいるのか?」

「山中君?一人は気が滅入るんだけど」

「あとでケアする。それより軽い戦闘になりそうだ。ボートがロックされているハンガーは大丈夫だと思うが、壁に叩きつけられて挽肉になりたくなければその区画から外には出るな」

「了解、了解。……」

「どうかしたのか?いつもよりも投げやりな口調だが」

「ん、ちょっとね」

「自分の行動をやっと後悔してくれたか」


KTO所属のヘラクレスⅲが接近してくる。「終わったらゆっくり話そう。いっぱい怒ることがあるぞ」と俺は通信を切った。


「戦闘避難所へ誘導する」

「ありがたい。腰を浮かべて戦闘に巻き込まれたくはないからな」


俺は壁の厚みを感じるーー対艦戦闘では無意味だろうーー部屋のシートに背中と尻を固定した。


「ヘラクレスⅲの目的はあくまでも本艦の臨検にあることを忘れるな」

「迎撃チャートの変更が必要か?」

「チャートの予定はなんだ」

「敵艦の射出するMMU群に対してPICの弾幕で寄せつけない」


PICは単極子砲だ。単極子の砲弾が自己崩壊し、反発することで重い質量の物体を広範囲に満遍なく撒き散らす対空兵器である。MMUには有効だろう。有効すぎる。臨検の第一陣は生存不可能だ。


「却下、皆殺しにする気か」

「ならば本艦は代替案を要求する」

「KTOには生きて帰ってもらう。忘れるな。ならば古今東西国境での事件に学ぼうじゃないかーー本艦の反応炉に火を。可能だな?」

「短時間なら充分な量を確保している」


ーーどこからだ?


「ならば緊急加速だ。ドックを破壊し体当たりでのぞめ。ミサイル如きで戦艦は沈まないし、急速に接近する戦艦に移乗するには強襲魚雷は必須。まだ準備もできてはいないだろう」

「普通に降伏するという選択肢はないのか?」

「さっきまでの好戦的な思考はどうした?たぶん、KTOはこの艦が無人だと思っている。人間の制御下に入っていない金属の化け物だ。人間が操っていると証明できれば、あとは寛容さに期待しよう」


失敗しても、ヘラクレスⅲに大した反撃は不可能だろう。こっちはキビを背に人質だ。ならば穏便に解決できるなら、解決してしまえばいいのだ。


「アンカーアームのロックを外す。壊してかまわない、力づくでいけ」

「了解。対艦ミサイル“ヒュドラ”を全弾発射する」

「ドックの持ち主には悪いことしたな」


拘束から解き放たれた最大出力で加速する鉄塊は、ヘラクレスⅲとの間合いを急激に縮めた。


「警告、警告、警告」

「騒ぐな!所詮はミサイルだ、戦艦がその程度で沈むか。対抗ミサイル戦だ」

「先のアンカーアーム破壊で、残弾無し」

「きっぷが良すぎるぞ。電磁障壁の出力をあげろ。形を偏平に伸ばして、ミサイルの推進剤放射を磁場で拘束するんだ」


多少は、自動回避システムで不規則な軌道をとったミサイルが逸れた。だがそれ以外は電磁障壁に衝突し、急激に障壁強度を低下させる。定石の弾頭か。本命の装甲侵食弾頭が直撃したとき、小惑星とぶつかったエネルギーの数倍の力が巨大なクレーターを穿った。


「旧時代とは性能が違うか、流石に」


やることは単純だ。加速して、ぶつける。当たってくれよ。


「ヘラクレスⅲも気づいたか!ロボ!遷移軌道修正、食いつけ!」


1000km級と1000km級の重力の渦潮が、ヒビ割れた装甲をギシギシと締めあげているようだ。


眼前、というにはあまりにも無機質的な、形を作った輝点としてモニターに表れるヘラクレスⅲとーー衝突した。


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