07 野外戦闘実習
蒼穹にくっきりと浮かび上がる、新緑の稜線。
……ばしゅぅぅぅぅぅぅーーーーーっ!
時折、噴煙のようなしぶきとともに、もうもうとお湯が吹き上がる。
陽の光を受けてキラキラと輝く雫に、いくつもの虹がかかる。
ところどころにある穴から、定期的に吹き出すこの間欠泉。
それこそがこの、『お漏らし山』の名物であった。
そんな、絶え間なく濡れ光る木々の山の麓には、20台ほどの魔導トレーラーが並んでいた。
後部に寝かされる形で積まれたゴーレム、騎士たちが次々とジャッキアップしている。
起立したゴーレムから順に地面に降り立ち、彼らは広場に会してそれぞれの武器を自慢しはじめた。
『見てくれよ、コレ! パパに頼んで買ってもらった、最新式のクロスボウだぞ!』
『そんなの、大した威力じゃないだろ! それよりもこっちの長弓のほうが凄いぜ! ぶっとい柱みたいな矢で、騎士でも一撃で串刺しにするだからな!』
『今日の相手は墓標なんだから、そんな装填に時間のかかる武器だと1匹も仕留められねぇぞ! 相手は亀みたいなものなんだから、飛び道具だっていらねぇよ!』
『そうそう! このナックルダスターが一番だぜ! 先っちょについたトゲトゲで、ゴミどもをギッタギタのミンチしてやるんだ!』
この世界に流通しているゴーレムには、コクピット内で発した声が機体を通じて外部に拡声されるという、マイクとスピーカーのような機能が付いている。
これを通称、『ボイス』という。
さらに、搭乗しているパイロットの様子が、コクピット内のカメラのようなものを通じて、機体の頭部より上の空間に映し出される機能もある。
これを通称、『フェイス』という。
このふたつの機能のおかげで、彼らはゴーレムごしにテレビ電話のような会話ができるというわけだ。
ちなみにではあるが、そのふたつ機能は墓標にはないものとされている。
モーターショーのように、勢揃いした高級ゴーレムたち。
それらは同じものはひとつとしてなかった。
スポーツカーのように流線型のデザインだったり、戦車のように四角くゴツかったり、丸っこくてカラフルだったりと、形状もカラーもバリエーション豊富。
しかしその頭部に映し出されている『フェイス』はどれも、年端もいかない子供たちであった。
そう。彼らこそが今回、4PP第12隊を狩りにやってきた、『カルフール王国立第四 騎士中学校』の生徒たちである。
みな貴族や軍人、豪商などの豊かな者たちなので、騎士も既製品ではなくてオーダーメイド。
運搬用の魔導トレーラーや、整備士なども専属で雇っており、ゴーレム乗りの環境としては、申し分ないものでる。
彼らは何不自由なく、なんでも買い与えられ、親の七光にひれ伏す庶民たちに囲まれて育ったせいで、いかにもアンポンタンかつ傲慢な人間に育っていた。
その中でもひときわ、愚かさに磨きをかけていたのは……。
『長弓もクロスボウもナックルダスターも、どれもたいしたことないたぬ。ボックンのこれを見るがいいたぬ』
美食で肥えた丸顔が、映し出されたフェイス。
関取のように、贅肉で詰まったボイス。
それが彼にとってのコンプレックスなのか、搭乗している機体はやけにスリムでシャープ。
『すげえ! コダヌが持っているの、リピーターじゃねぇか!』
『そうたぬ。火薬の力で鉄の礫を連射して、あっという間に蜂の巣にするんたぬ』
『そんなすごい武器、どこで手に入れたんだよっ!?』
『ふふん、カルフール王国正規軍にいるパパンに、おねだりしたんたぬ』
『ってことは、軍用!?』
『ヤベぇ! そんなの一発でも食らったら墓標なんて蜂の巣どころか、粉々になっちまうだろ!?』
『そうたぬ。でも簡単には殺さないたぬ。まずは脚をバラバラにして、中の乗りを引きずりだして、さんざんオモチャにしてやるんたぬ。どうせ死ぬ運命にあるのだから、せいぜい楽しませてもらうんたぬ』
『そっか! たったの20匹しかいないから、あっさり殺すのもつまんねぇよな! 中のゴミを弄ぶってのもいいな!』
『さすがコダヌ! 軍人の息子だけあって、ゴミどもの利用法を知ってるなぁ!』
盛り上がる男子たちの輪の中心にいたのは、他でもない。
4PPの小隊長、ダヌキのひとり息子、コダヌ……!
彼は父親の復讐に燃えながらも、ちろりと女子たちのほうを伺っていた。
花のように美しい騎士たちの中心にあったのは、ひときわ咲き誇る大輪の花。
純白のウエディングドレスのような華やかな機体に、流星のようなレイピアを携えている。
フェイスには、やさしさと強さを兼ね備えた、お嬢様の中のお嬢様といった少女がいた。
周囲の女子たちに微笑み返す彼女に、コダヌは誓う。
――これから来る、ネクローとかいうパパンの仇をメチャクチャにしてやるたぬ。
それどころか服までひん剥いて、泣き叫びながらお漏らしする様を、フルールルさんに晒してやるたぬ。
そうすればボックンの圧倒的な強さに、フルールルさんも振り向いてくれるたぬ……!
『おっ! 今日俺たちにやられるゴミどもが、ドナドナされてきたぞ!』
男子のひとりが気付いて指さすと、あぜ道を上ってくる魔導トレーラーが見えた。
専属の魔導トレーラーに、ゴーレムと多数の整備士を積んだ、お坊ちゃんお嬢ちゃんたちとは大違い。
1台の連結トレーラーの中には、20台もの墓標が檻の中でひしめき合い、振動のたびにぶつかり合って、今にも壊れそうなほどにカチャカチャと音を立てている。
さながら、船で運ばれてくる奴隷たちのようであった。
墓標には『フェイス』がないので、中にいる乗りたちの表情はわからない。
しかし機体はどれも、生きるのをあきらめたかのように、がっくりとうなだれている。
その中で、例によって悪目立ちをしていたのは……。
純白の、墓標っ……!
葬列のような、ツヤひとつない墨黒のなかで、ピッカピカのエナメルホワイト……!
遠足に向かうバスの中の子供のように、ワクワクテカテカと鉄格子につかまり、外の風景を見回している。
射的であれば真っ先に撃たれそうなほどの、圧倒的な存在感であった。




