16 乱入
戦車に挽きつぶされたようにグシャグシャになったトリマキア機を、見下ろすネクロー。
――この人は、女の子を握りしめて僕に襲いかかってきた。
ということは、この人はこう言いたかったんだろう。
『この女の人を、無傷で奪ってみせろ』って。
さっき僕がやった『武器鹵獲』も、やっぱりこの人たちにとってはたいした技じゃなかったんだ。
しかし手に握られているのが武器ではなくて、生きている人間だったら少し難しくなる。
普通に『武器鹵獲』をやっちゃったら、その人を握り潰しちゃうからね。
だから僕はこの挑戦に、『武器鹵獲投げ』で応えた。
『武器鹵獲投げ』であれば、女の子にケガさせることなく奪えると思ったから。
『武器鹵獲投げ』というのは、相手を投げ飛ばしつつ武器を奪うという、『武器鹵獲』のさらに上位の技である。
もちろんこれも絶滅した技のひとつであるが、ネクローにとっては朝飯前の技のひとつでしかない。
そして今度こそ、反撃を期待していたのだが……。
――『武器鹵獲投げ』でも、まだダメなのかぁ……。
僕とジッジが戦ってた、墓地にいるゴーレムたちは、『武器鹵獲投げ』にも反撃してきた。
空中で倒立して、上から膝蹴りを叩き込んでくるんだ。
でも……そんな当たり前の反撃すらも、この人はやってくれなかった。
僕の『武器鹵獲投げ』じゃ、この人を本気させることはできなかったんだ……。
少年は、テストで赤点を取ってしまったかのようにうなだれる。
視線を落とした拍子にふと、フォゴの手のひらで震えている少女に気付いた。
――そういえばこの女の子、なんで騎士に握られてたんだろう。
それも、こんな薄着で……。
そして、恐ろしい考えが頭をよぎる。
――ま、まさか、この人たちは……!
『カルフール王国立 第四騎士中学校』の生徒たちは……!
ゴーレムの戦いのまっただ中でも、こんな無防備な格好でいられるくらい……!
『強い』のか……!?
ハッ、と顔をあげる。
その視線の先には、なおも開きっぱなしのキャノピー。
そして下着姿で震える、フルールルの姿が……!
――や、やっぱりそうだ!
それならば、あの女の子がなんであんな格好でいるのかも、納得がいく……!
子供の頃、寝る前のおとぎ話で、ジッジが聞かせてくれた……!
伝説のゴーレム乗り手の話を……!
その乗り手は、鬼神のように強くて……!
しかもゴーレムを降りても、生身でゴーレムたちと戦えるほどに、強いって……!!
それはおとぎ話の中だけだと思ってたんだけど、本当にいたんだ……!
それも、僕と同い年くらいの子たちが、そうだなんて……!
す……! すごいっ……!!
すごすぎるよっ!!
少年の手は震えていた。
それにあわせて、フォゴの手も震える。
手のひらの上のメガネっ子を、まるでお釈迦様のように見つめていた。
逆、孫悟空状態で……!
――このメガネの子が、握りしめられていたのも……!
この子にとっては、何てことなかったんだ……!!
きっと僕の実力を、見定めていて……。
いざとなったら、生身の身体で、僕の……。
フォゴの首をすっ飛ばしていたに、違いない……っ!!
く……! くぅぅぅぅっ……!
僕はなんて、甘ちゃんだったんだ……!!
そりゃ、まともに相手をしてもらえるわけがないよ……!!
だって、この人たちはゴーレムになんて乗らなくても、ゴーレムに乗った僕を殺せるんだから……!!
ひとり驚愕に打ちひしがれるネクロー。
プルプル震えているのが、傍から見ればかなり不気味であった。
無理もない。
なにせ『一本背負い』などという、ゴーレム界には存在しない技をやってのけたのだ。
この世界のゴーレムというのは、人間とほぼ同じ形状をしており、同じだけの間接も有している。
柔軟性もあるので、理論上は、投げ飛ばすという動作も不可能ではない。
それに手の指もあるので、理論上は、針に糸を通すようなことも可能とされている。
しかしそれは、あくまで『理論上』の話。
一般的に、ゴーレムができることの限界といえば、重い荷物を運ぶとか、クロスボウや銃器のトリガーを指で引くくことらいである。
体術なんて、とてもとても……!
というのが、この世界におけるゴーレムの『常識』であった。
しかし少年少女たちの目の前にいる、白い墓標は、その常識をいくつもひっくり返してみせた。
最初の『武器鹵獲』は、目の錯覚として片付けられたが、後の『一本背負い』はもはや言い逃れのしようがない。
その事実は、この場にいる者すべてを震えあがらせていた。
少年少女たちも別の意味で、震撼していたのである。
「なっ……! なっ……! なななっ……! なんだよ、コイツ……!? 騎士を投げ飛ばすだなんて……!! ばっ……! バケモンだっ!! 完全にバケモンじゃねぇかよぉ!!」
もはやすっかり我を忘れ、後ずさるグレフ。
ネクローは、すかさず反応する。
「あっ! あの人、僕の弱さに呆れて、どこかに行っちゃうつもりなんだ! そうはさせないぞ!」
……ガシャンッ……!
フォゴのペダルを操作して、すばやく一歩前に踏み出る。
それだけで、グレフ機は腰を抜かしてしまった。
「ひっ……!? ひいいっ!? 来るなっ……!! 来るな来るな来るな来るなっ!!」
ひっくり返った亀のように、機体の手足をバタつかせている。
完全に降参のポーズだが、少年はそう解釈しなかった。
「またそうやって、やる気のないフリをして……! ううっ、いったいどうやったら、少しでも本気になってもらえるんだろう……!?」
ネクローがコクピットの中で首をかしげていると、遠くから重い足音と、メキメキと木をなぎ倒すような音が近づいてきた。
すべての視線が、激しく揺れはじめた木々に集まる。
……ドゴオンッ……!!
樹木をドミノ倒しにする勢いで、現れたのは……!
「やっと……やっと見つけたぬ! 白い墓標……! いまこそパパンの仇を、討ってやるたぬっ!!」
……ジャキィィィィィィーーーーーーーンッ!!
中学生にして、軍用さながら……!
いいや、軍用そのものの、武器と機体……!
戦車のような頑強さと、オリーブドラブ……!
そして主砲のような銃口を向ける……!
子ダヌキのようなフェイスをたたえた、コダヌ機であった……!




