13 脱がされた少女
最高級の外車のように、ゆっくりと、音もなく開くキャノピー。
その真珠貝のようなき外殻が持ち上がると、そこには……。
まさにビーナスとおぼしき、少女がいた。
騎士の頭上に映ったフェイスすらも、深窓かと見紛うほどの美少女っぷりであったが。
実物は目が醒めるどころか、世界が飛び起きるほどの美しさであった。
霊峰と呼ばれるほどの高嶺、そこに咲く一輪の花のような、凛とした顔のつくり。
花のそばを流れる石清水のような、風に揺れて豊かな光沢を讃える、腰まで伸びた髪。
眦は穏やかな曲線を描き、柔和さを感じさせるものの、瞳は大きく、銀河を内包しているかのようにきらめいていた。
桜の花びらのような、薄いピンクの唇。
そこから紡ぎ出される美声は、天上から奏でられる音楽のよう。
しかし今は抗議するように硬く結ばれている。
上目でキッと、目の前にいる下衆どもを気丈に睨みつけていた。
「グフフ……! 怒った顔も格別じゃねぇか……! じゃあ、そろそろ天使の翼、拝ませてもらおうか……!」
不良少年グレフと、その取り巻きであるトリマキアとトリマキーは、嫌らしく笑う。
フルールルは唇を噛みしめながら、制服の上着である紺色のジャケットを脱いだ。
クリーム色のニットに手をかけ、一気にずりあげる。
まだヌードには程遠いというのに、それだけで歓声があがった。
彼女はいつも一糸すら乱れたことのない、キッチリとした制服の着こなしであった。
だからこそそれが崩れるだけで、男たちの劣情を誘うのだ。
美しいものを、これからメチャクチャにする……!
そんな妄想で、グレフたちの頭はいっぱいであった。
そして、制服の象徴……。
清純さの象徴ともいえる、胸のリボンに手がかかった。
羽を拡げる南国の蝶のように、大きく均整の取れたそれが、
……しゅるり……。
衣擦れの音とともに崩れ去り、ただの赤い布となって、足元にはらりと落ちる。
そして、ついに……。
おろしたてのよう白さのブラウスのボタンに、手がかかる。
将来を感じさせるほどに盛り上がる胸。
いままでは高級なプリンのように何重にも包まれていたもの。
それが、少しずつ、少しずつ……。
白日のもとに、晒されようとしていた……!
ぷつん、ぷつんと上からボタンが外され、形のいい鎖骨が露わになる。
白くて滑やかな肌が、空気に触れる。
開いた前身頃の間からは、未熟な果実のような谷間。
そして控えめに穿たれた臍がチラ見え。
「おおっ……!」と前のめりになる男たち。
もはや誰もが、前かがみ……!
そして、ついに、ついにっ……!
……ふわあっ。
普通の女生徒であれば、ただのブラウス。
しかし彼女にかかれば、天女の羽衣……。
それが光にふれて、空気を透かしながら……。
身体から離れた拍子に、後ろ髪を膨らませながら……。
……ふわさっ……。
足元に、落ちたっ……!
「お……おおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
男たちの熱を帯びた歓声が、あたりを包む。
彼らの前にあったのは、まさに、翼のない天使のような、美しき肢体……!
フルールルはブラを腕で覆い隠していたが、それが男たちにとっては有り難かった。
なぜならば、まぶしすぎるのだ……!
産毛すら生えていないような、光までもが滑るほどの、みずみずしい肌。
腕の間から覗くレースのブラは、陽光を受けた新雪のようにまばゆい。
男たちは誰もが直感していた。
……こんな凄いモノ、何の準備もなくマトモに見ていたら、大変なことになっていたに違いない……!
鼻血は言うにおよばず、泣いていたかもしれない。
それどころか、上から下からいろんな液を噴出していたかもしれない。
恐るべき少女、フルールル……!
彼女はブラウス姿になっただけで、男たちの劣情をこれでもかと刺激した。
それどころか半裸になっただけで、ゴールドラッシュに遭遇したような気持ちを抱かせたのだから……!
もし全裸になってしまったら、どうなってしまうのか……!?
自分の身体が人間兵器のような扱いを持って受け止められているとは思いもせず、悔しさを滲ませながら脱衣を続けるフルールル。
片腕でブラを器用に隠したまま、制服のスカートに手を回し、ホックを外そうとしている。
新品のようにきっちりと折り目ただしいプリーツが揺れるたびに、わずかにふとももの奥がチラ見え。
それは別に目新しいことでもないのだが、このシチュエーションではもはや狂気。
……プシュッ!
と吹きだした鮮血が、みっつのフェイスを赤く染めていた。
「グルルルル……! こりゃ、ヤベぇ……! 想像以上だ……! 俺はいままでこうやって、数え切れないほどの女を剥いてきた……! だが服を脱ぐだけで、意識が飛びそうになるほどの女なんて、初めてだぜぇ……!」
「ううっ……! す、すごい……! すごすぎるでヤンス……!」「さ、さわってもないのに……! も……もう我慢できないでヤンス!」
トリマキアとトリマキーは、コクピットの中でビクビクと痙攣をはじめる。
少年少女たちの狂宴は最高潮。
誰もが見えない熱気に支配されたかように、顔は赤く紅潮。
見開いた目の瞳孔は開きっぱなしで、瞬きすら忘れていた。
何度も唾を飲み込んだ喉は、すでにカラカラ。
そして、いよいよ最後の砦ともいえる……。
スカートが、ふとももをしゅるりと滑り落ち……かけたその直前……!
……ガサッ……!
場の雰囲気を攪拌するかのように、茂みが大きく揺れたっ……!
それどころか、場の雰囲気をブチ壊すような、無粋な何者かが……!
「あっ! いたいた! やっと見つけた! ここには4体もいるぞ! よぉし、今度こそ認めてもらえるよう、がんばるぞぉ!」
そんなハツラツとした声でやる気を出しているとは思えないほどに、無骨な……!
同じ白でも、いま目の前で展開されている純白に比べたら、ウザくてしょうがないようなデザインの、墓標が……!
まったく空気を読まずに、割り込んできたのだ……!




