11 騎士狩り
戦闘開始から1分とかからず、3体もの騎士をスクラップにしてしまったネクロー。
しかし彼にとってそれは、戦闘と呼べるものではなかった。
なにせ準備運動の前にやる、軽い手足のストレッチのようなことしかしていなかったからだ。
そしてなによりも……相手は本気を出していなかった。
そんなことは全然ないのだが、ネクローはそう思い込んでいた。
彼はひとり、コクピットの中でぼやく。
「ああ……『ジョイント外し』に続いて、『コクピット潰し』までやったのに……。まだ相手にしてもらえないだなんて……」
『コクピット潰し』というのは、相手のコクピットの部位めがけて掌底を放ち、ボディをヘコませて、乗り手を物理的に圧殺するという技である。
しかし『殺しちゃダメ』な相手なので、押しつぶされる手前くらいに力加減を調整してある。
おかげでその技を受けた黄色い騎士は、壁に挟まれて出られなくなった人みたいになっていた。
信号機のような騎士たちは、転がったまま苦しそうにうめいていたが、その声はネクローには届かない。
「僕がまだまだ至らない乗り手というのが、じゅうぶんにわかりました! もっともっと強くなって出直してきますので、次こそは本気で相手をしてくださいね!」
少年は悔しさを滲ませながらもハツラツとそう言い、終わりの一礼をする。
そして騎士たちを置いて、その場を後にした。
「よおし、次に戦う相手には、少しでも本気を出してもらえるよう、がんばるぞっ!」
……騎士中学で定期的に行なわれている『野外戦闘実習』において、標的となった墓標が生き延びたことは一度もない。
もちろん、騎士を倒した墓標というのも、未だかつて一度もない。
それなのに、ネクローは……。
なんと、『騎士狩り』を始めたのだ……!
本来は逃げ惑うだけのキツネが、ハンターに牙を剥くように……!
まるで追い立てられるキツネのなかに、九尾の妖狐が混ざっていたかのように……!
反 ・ 撃 ・ 開 ・ 始 っ …… !
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『ぎゃははははは! ブン殴っただけで、腕が粉々になりやがった!』
『たまんねぇな、このブッ壊す感触!』
『相手がゴミみてぇな死刑囚だと思うと、なおさらだぜ!』
『おらおら、死ね死ね死ねぇーーーーーっ!』
『あっ、見ろよ! 白い墓標がいるぞ!』
『墓標ってのは、隠れてブルブル震えてるもんなのに、ノコノコ出てくるなんて……よっぽど死にてぇらしいなぁ!』
『その願い、叶えてやろうぜっ! 死ねやおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!』
……ミシッ! バキッ! ドゴシャッ!!
『『『ぎゃああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?』』』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『うふふ、逃げろ逃げろ逃げろ~!』
『私たちよりずっと大人のおじさんが逃げ回るなんて、かっこわるーい!』
『中学生の女の子にズタボロにされるなんて、今どんな気持ち? ねえどんな気持ち?』
『あーあ、そんなこと言うから、泣いちゃったじゃない!』
『うわぁ、この人たちって、悪い事をいっぱいしてきた死刑囚なんでしょ?』
『なのにこんなにわんわん泣いちゃうだなんて、ダサくない?』
『きっと自分より弱い相手にしか、強くなれない人たちだったんだよ!』
『あっ! 白い墓標がいるよ!』
『ホントだぁ! 麓で見た時から、ずっと気になってたんだよねぇ~!』
『あんなに目立つ墓標に乗せられてるってことは、きっとよっぽど悪いことしたんだよ!』
『だよねぇ! 真っ先に殺してもいい、チョー凶悪犯に決まってるわ!』
『なら、私たちでいっぱい懲らしめちゃおうよ!』
『ええい、まてまてーっ!』
『きゃはははは! にげろにげろーっ!』
『えっ……な、なんで……?』
『なんで、逃げないの……!?』
……ズビシッ! スドグシャ! ズガッシャァァァァァーーーンッ!!
『『『きゃああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?』』』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ネクローが通ったあとには、騎士の屍の山が築かれていった。
そして彼の苦悩も、さらに募っていく。
「ううっ……。がんばってもがんばっても……。ぜんぜん本気を出してもらえない……! わざととしか思えないほどスキだらけだし、なにをしても全然よけてくれない……! よぉし、こうなったら……! アレを、やるしかないか……! ちょっと危険だけど、これだけ強い人たちだったら、大丈夫だろう……!」
ネクローは1時間もかからずに、15機もの騎士をスクラップにしていた。
それも探すのが大半の時間で、戦闘時間はあわせても5分足らず。
相手の機体はすべてオーダーメイドのものなので、高級スーパーカーを15台廃車にしたのも同然であった。
しかも世間的には、オート三輪……いいや、リアカー……。
いやいや、棺桶に車輪がついただけのような、へっぽこ機体で……!
残る騎士は5機となっていたが、彼らは知るよしもなかった。
純白の、死神が……。
山に解き放たれた無垢なる殺人鬼が、もうあと少しというところまで、迫ってきているのを……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その頃、フルールルは、山の頂上付近にいた。
森に囲まれた岩棚に立ち、切り立った崖下から吹き出す間欠泉をバックに、
「……せいっ!」
鋭いレイピアのひと突きで、白くない墓標を粉砕していた。
床に落とした花瓶のように粉々になった破片から、死刑囚がゴキブリのように這い出て、森の中に逃げていく。
しかし彼女は一瞥するだけで、追いかけようともしない。
フルールルは『カルフール王国立 第四騎士中学校』の、アイドル的存在。
容姿端麗、文武両道で、男女ともに憧れの的であった。
そして彼女もさることながら、搭乗している騎士も実に美麗。
ボディはスレンダーで華奢であったが、何者にも触れさせたことはなく、傷ひとつついていない。
流麗なる動きにあわせて、妖精の鱗粉のように光沢が走る。
見る者すべてを魅了する、戦乙女の化身ような機体であった。
そこに……。
茂みをかきわけ、3体の騎士が現れた。
従えたブラウンの騎士はともかく、リーダー格の一体は異様な存在感を放っている。
重苦しくたちこめる曇天のような、鈍色のボディ。
しかしながら牙のように鋭いデザインで、見る者に不安を抱かせる、狼の化身のような機体であった。




