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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第3章 手伝普請編
94/313

scene:93 ロシアン・マフィア

 倉庫に走り込んだ雅也は、その片隅にブルーシートを被せられている改造スポーツセダンを発見した。ブルーシートを剥ぎ取り、乗り込んだ。


 エンジンを始動すると、改造スポーツセダンが走り出す。海岸沿いのフェンスまで走った。開閉式のフェンスは人が通り抜けられるほど開いていた。中途半端に開けられたフェンスは車では通り抜けられない。雅也は上昇装置の出力レバーを押す。


 改造スポーツセダンが浮き上がり、五メートルほど上昇。雅也はその高度を保ったままフェンスを超え海へと飛翔する。前方を見ると、暗い海の中に水陸両用車のヘッドライトの光が見える。


 雅也は光を目指して速度を上げた。飛行速度は時速六〇キロほど。その速度にしたのは、侵入者からの攻撃があるかもしれないと警戒したからである。


 水陸両用車のエンジン音と海原を切り裂く水の音が聞こえるようになった。だいぶ距離を詰めたようだ。こちらのヘッドライトに気づいたようで、侵入者の一人がこちらを指差して声を上げている。


 何を言っているのかは分からない。声を上げた男が何かを取り出して、改造スポーツセダンの方に向ける。

「もしかして、ヤバイかも?」

 雅也は『装甲』の真名を解放して装甲膜を展開し攻撃に備えた。


 暗い海原に銃声が響く。銃弾がバンパーに当たって乾いた音を立てた。

「本物の銃だ」

 ヴォルテクエンジンを盗んだ時点で、ただの強盗ではないと思っていたが、銃まで持っているとなると厄介だ。


 ホバーバイク用として開発されたヴォルテクエンジンは、五〇キロ前後の重さがある。それを担いで移動したのだから相当な力持ちだ。しかも銃を持っているとなると特殊な訓練を受けた者たちなのかもしれない。


 改造スポーツセダンが水陸両用車との距離を詰める。すると、連続して銃弾が飛んでくるようになった。

「せっかく綺麗な状態で保管していたのに」

 銃弾が車体に減り込むたびに、雅也の内部に沸き起こる怒りのボルテージが上がった。


 雅也は窓を開け右手を突き出してアクセルを踏んだ。飛行する改造スポーツセダンはするすると水陸両用車に近づき横に並ぶ。


 その瞬間、雅也の右手から雷撃球が飛んだ。闇の中で発光する雷撃球は目立つ。水陸両用車の連中は慌てたようだ。ハンドルを切り、右に逃げていく。


 それでも雷撃球の方が速く、車体の側面に命中して火花を散らした。だが、車内にいる連中は無事だったようだ。車体の表面を電流が流れ海に放出されたからだろう。


「雷撃球がダメなら……」

 今度は『爆砕』の真名を解放し右手を突き出した。その時、連中の一人が銃を発射。その銃弾が改造スポーツセダンのドアに命中する。


「うわっ!」

 雅也は驚いて反射的に速度を落とした。綺麗に磨かれていたメタルブルーの表面に無残な弾痕が生まれている。

「あ、危なかった」


 侵入者からの攻撃も激しくなっているが、波を切り裂いて進む水陸両用車の上から発射される銃弾の狙いは正確ではない。偶に改造スポーツセダンの車体に命中する程度である。


 雅也はアクセルを踏んだ。水陸両用車に迫り、ついには横に並んだ。その瞬間、右手から爆砕球が飛翔する。爆砕球は水陸両用車から逸れ海面に落ち爆発した。


 盛大な水飛沫が上がり、水陸両用車が爆風でふらついた。

「止まれ! そうしないと撃沈だぞ」


 侵入者たちは驚き、水陸両用車にジグザグの軌道を描かせ始める。雅也は警告のために二度ほど爆砕球を放ち、盛大な水飛沫を上げたが、連中は逃げることを諦めなかった。


 雅也は水陸両用車に命中させる決心をした。慎重に狙いを定め爆砕球を放つ。宙を飛んだ爆砕球は狙い通り水陸両用車の後部に命中した。


 スクリューのある部分が吹き飛び、後部が持ち上がり車体が逆立ちとなる。海面に突き刺すように沈んだ水陸両用車は、浮いてこなかった。浮いてきたのは二人の侵入者だけだ。


 改造スポーツセダンでは着水することができない。雅也はどうやって二人を連れ戻るか考えた。

「そこで待っていろ!」

 大声で命じると、雅也はスマホのマップアプリでGPS座標を確認してから工場の方へ飛んだ。


「良かった。無事だったんだな。水陸両用車はどうなった?」

 改造スポーツセダンが戻ったのを見つけた神原教授が尋ねた。

「あれは撃沈しました。乗っていた連中は、海に浮かんでいるんで、今から助けに行きます」


 工場にはテスト飛行で海に落ちた場合に備え、モーターボートが置かれていた。雅也はボートに乗って、水陸両用車が沈んだ場所に戻った。ボートを運転しているのは、神原教授である。教授は何かの実験で必要になり、免許を取ったそうだ。


 海面には誰もいない。スマホで位置を確認したが間違いなかった。

「あの連中、溺れたか泳いで逃げたようだな」

「順当に考えれば、泳いで逃げたんだろう」

 教授が不機嫌そうな声で告げた。


「教授、ヴォルテクエンジンを盗んだ目的は何でしょう?」

「リバースエンジニアリングで内部構造を分析して、コピー品を作ろうとしているのかもしれん」


 雅也は真名能力者の親睦会で知り合ったボーエンのことを思い出した。雅也はボーエンのことを教授に話す。

「中国政府が代表として来日させたほどの人物だ。こんな犯罪はしないだろう。捕縛した男を調べれば分かる」


 雅也たちが工場に戻ると、警察が来て鑑識作業をしていた。雅也も警察から話を聞かれ、逃げた水陸両用車が何かの事故を起こして沈み、二人が泳いで逃げたことを説明した。


 刑事たちは雅也と教授がモーターボートで帰ってきたところを見ているので、追跡はボートで行われたと勘違いしたようだ。


 逃げた二人はずぶ濡れで陸に上がったところを呆気なく警官に見つかり、逃げようとして道路に飛び出した瞬間トラックに跳ねられた。一人は即死でもう一人は病院に運ばれた後に死んだという。


 工場に侵入した連中は、国際手配されていることが分かった。アジア系ロシア人で、しかもロシアン・マフィアと呼ばれる連中だったようだ。


 彼らがマナテクノの工場を狙った理由は、闇サイトにアップされたマナテクノの技術情報を一〇〇〇万ドルで買うという話が動機となっている。


 誰が買うのかは警察が調べても分からなかったようだ。雅也と教授は話し合い、工場の警備をもっと厳重にすることにした。


 雅也はマンションに帰り、橋の設計を再開した。少し疲れて音楽でも聞こうかと人気になっている曲を探すと、気になる情報があった。


 雅也が音楽スタジオで歌ったものが評判になっているらしい。

「おっ、俺の歌が凄い人気だ。素直に喜んでいいのかどうか、悩むところだな」


 ちょっと気になってマナテクノのニュースがないか検索した。恐ろしいことに工場に強盗が入りエンジンが盗まれたというニュースがある。

「早いな。どこから情報を調べたんだ」


 警察はまだ公式発表をしていないので、工場の近所に住む人々が気づいて情報をネットに上げたのだろう。それをマスコミが気づき調べ始めたようだ。


「まあいい。こんな騒ぎより橋だ」

 ベネショフ領の横を流れるユサラ川に橋を架けるには、橋脚が重要になる。デニスの国で架けられる橋は木製がほとんどで、洪水が起きた時には流されることが多かった。


 雅也は橋脚だけでも石造りにすることにした。それには良質のセメントが必要だ。あの国でも質の悪いモルタルが使われている。だが、橋の建造には向いていないらしい。


 ポルトランドセメントは、一八世紀産業革命時代にイギリスで発明された。その当時の製法は石灰石を砕いて焼いたものに粘土と水を混ぜ乾燥させてから細かく砕き、さらに炉で焼いて粉砕するというものだ。


「セメントを作るには粉砕機が必要だな。調べるのは大変そうだから、大学の後輩たちにアルバイトでも頼むか」

 雅也は資金が十分あるので、大学生の数人を雇い調べさせた。


 設計した木造橋は、下路アーチ橋という形式である。橋の上部にアーチ状の部材を組み上げ、走行路面はアーチ部分から吊り下げた柱材が支えるという構造をしている。


 この橋の構造は新潟県村上市にある八幡橋を参考にして設計した。ただ橋の設計は初めてだったので、大丈夫かどうかが心配だった。


 そこで大学で橋の研究をしている准教授に大丈夫かどうかを調べてもらった。もちろん研究費を寄付するという名目で費用は出している。


「強度的には十分なようだ。ただ地震の場合が心配だね。そこのところはどうなんだ?」

 中村准教授は地震対策について質問した。


 ゼルマン王国は地震の少ない国である。雅也が地震の少ない国なので大丈夫だと答えると、それなら問題ないと中村准教授は結論を出した。



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[一言] 雅也がヤバい真名を持ってることがバレちゃいますね
[一言] 魔物相手だと決定打にならない射出系真名術は対人間だと普通に強いな。
[一言] 更新が3日ぶりなのでやきもきしながらまってました! 襲撃者の皆様は無事に転生トラックで転生出来たのでしょうかね?来世は真面目に生きられる事を祈ります。 八幡橋は良いですね!確か木造の綺麗な橋…
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