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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第3章 手伝普請編
89/313

scene:88 迷宮石

 デニスが機嫌良さそうにしているのに気づいたカルロスが確かめた。

「もしかして、真名を手に入れたのではありませんか?」


「運がいいことに一匹目で手に入れられたようだ」

 ランドルフが羨ましそうに声を上げる。

「何っ、一匹倒しただけで『爆裂』の真名を手に入れたのか。……羨ましい」


 本当は『爆砕』の真名なのだが、わざわざ教えることはないだろうとデニスは考え、手に入れたのは『爆裂』の真名だということにした。


「きっと、先ほどの異常種は長生きしていた個体だったのでしょう」

 ローマンが長生きし体内に多くの魔源素を取り込んだ魔物からは、真名を手に入れる確率が上がるという情報を披露した。


 デニスは本で読んで知っていた情報だったが、リーゼルとカルロスたちは感心していた。ランドルフも感心し肩を落として呟いた。

「そうか。私もそういう肉食ヘラジカに遭遇したいものだ」


 ランドルフという青年は、真面目で人格的にも良い人物だと分かる。だが、優秀な領主が持つ凄みというものが感じられない。次期領主にしては、少し頼りない面がある。


 デニスがランドルフたちに向かって尋ねた。

「ランドルフ殿は、無事に真名を手に入れたのですか?」

「まだなのだ」

「そうでしたら、ここで分かれて別々に進みましょう。我々は奥に進みますから」


 そう言われたランドルフが少し考え始めた。

「すまんが、一緒に行動させてくれないか?」


 デニスたちばかりではなく、ローマンとトビアスも驚いた。

「ランドルフ様、どうしてでございますか?」

「デニスたちの狩りを見てみたいのだ」


 デニスはカルロスの顔を見た。難しい顔をしている。はっきり言って足手まといになるのだが、相手は侯爵家の次期領主である。無下に断ることは難しかった。


「分かりました。一緒に行きましょう」

「そうか、感謝する」

 ランドルフが嬉しそうに笑った。


 その笑いを見たデニスは、警戒心が起きた。この笑いが演技だとすれば、ランドルフはかなりの役者だということになる。


 デニスたちが四区画の奥に進み始める。その後ろをランドルフが追おうとした時、ローマンが止めた。

「本当のことを教えてください」

 デニスたちの狩りを見たいという理由に、ローマンは納得していなかったようだ。


「父上から、ベネショフ領の領主一族とは仲良くするように言われている。たぶんデニスの活躍を聞いて、そういう指示を出したのだと思うが……」

 ランドルフは腑に落ちなかったらしい。小さな準男爵家に気を使う必要があるとは思わなかったのだ。


「ですが、デニス殿の強さは本物です」

 ローマンは武闘祭でデニスの戦いを見ていた。だが、ランドルフは父親の代わりに領地で留守番をしており、デニスと優勝者レオポルトとの戦いを見ていない。


「話だけでは、どれほど強いのか分からん」

「しかし、先ほどの爆裂トカゲを始末した手並みを、ご覧になったはず」

「一瞬で終わったので、よく分からなかった」


 ランドルフの目から見た先ほどの戦いは、爆裂トカゲが連続爆裂球攻撃でデニスたちを追い込んでいるように見えた。しかし、一瞬で形勢が逆転しデニスの剣による一閃で勝負が着いてしまった。何か化かされたような気分になっていたのだ。


 ちなみにランドルフの武術に関する才能は大したものではない。なので、余計にデニスたちの強さが分からなかったようだ。


 デニスたちはランドルフと一緒に迷宮の奥へと進んだ。途中で遭遇した肉食ヘラジカや剣耳ウサギはランドルフに譲った。


「また肉食ヘラジカか。ランドルフ殿」

「任せてもらおう」

 ランドルフたち三人が前に出た。侯爵騎士団の一員であるローマンとトビアスは、『豪脚』『豪腕』の持ち主であるようだ。


 以前にデニスと行動を共にした時は、あまり使わないようにしていたらしい。今回はデニスたちの手並みを見て、隠すのが馬鹿らしくなったらしく最初から真名術を使っていた。


 放出系の真名を持たない三人は、肉食ヘラジカにも苦戦していた。魔物の攻撃を躱しながら、斬撃で体力を削り最後にランドルフが止めを刺すという手順で仕留めている。


「おっ」

 肉食ヘラジカを仕留めたランドルフが声を上げた。どうやら『堅靭』の真名を手に入れたようだ。


「おめでとうございます」

 デニスが祝いの言葉を贈った。ランドルフが嬉しそうに頷いてから、少し表情を固くした。


「『堅靭』を手に入れたくらいで喜ぶ自分が情けないよ。雷撃球や凍結球が使えるデニス殿が羨ましい」

 ランドルフが汗を拭いながら弱音を吐いた。


 デニスはランドルフに視線を向け口を開く。

「雷撃球や凍結球は便利な真名ですが、その真名術が効かない魔物もいますからね」

「ああ、それで爆裂トカゲから『爆裂』の真名を手に入れようと来たのか?」


 デニスは肯定して歩き始めた。影の森迷宮の四区画は奥に進むに従い、針葉樹の樹が多くなる。辺りは薄暗くなり、湿った空気を感じるようになった。


 爆裂トカゲに遭遇した。最初の爆裂トカゲよりほっそりした通常型の魔物である。

「打ち合わせ通り、動けなくしてから仕留めるぞ」


 デニスの声で戦いが始まった。凍結球と雷撃球が爆裂トカゲに向かって飛び命中。火花が飛び散り、その背中が凍りつく。盛大に悲鳴を上げる爆裂トカゲに、カルロスが近づいて長巻の鋭い先端を突き入れた。


 一撃で仕留められるような魔物ではないので、デニス以外のメンバーが次々に爆裂トカゲを突き刺した。最後にリーゼルの突きで息の根が止まる。


「真名は?」

 デニスが確認すると、リーゼルが首を振った。

「一匹じゃ無理よ。最初の奴が異常だっただけなんだから」


 その後、爆裂トカゲを探し戦いながら奥へと進んだ。森が開けた場所に来た。そこはすり鉢状の窪地となっており、五匹ほどの爆裂トカゲが日光浴をしていた。


「ここは何かの鉱床があるのか? ランドルフ殿、ご存知ですか?」

「たぶん、迷宮石の鉱床だと思う」

 知識としては知っていたが、デニスたちが初めて見る迷宮石の鉱床だった。窪地の底にキラキラと光る水晶のようなものが存在した。


 デニスは迷宮石を手に入れたいと思っていた。現在は魔源素結晶を迷宮石の代わりにして迷宮装飾品を作っているが、本物の迷宮石で作った場合、どう違うのか確かめたいのだ。


 デニスは攻撃の手順を話し合い、宝剣緋爪をリーゼルに貸した。長巻では一撃で仕留められないからだ。

「うわっ、重い」

 こんな物を普段から持ち歩いているデニスの体力に、リーゼルは感心した。


 ランドルフが心配顔で声をかけた。

「大丈夫なのか。数が多いぞ」

「これくらいなら、問題ないです」

 そう言い切ったデニスに対して、ランドルフは目を丸くした。


 戦いは雷撃球と凍結球から始まった。攻撃された爆裂トカゲは、デニスたちに向かって体全体を揺すりながら這ってくる。


「先頭の魔物に攻撃を集中しろ!」

 デニスの指示で雷撃球と凍結球が一匹の爆裂トカゲに集中し、そいつの動きが止まった。別の爆裂トカゲが進み出ると、標的がそいつに変わる。


 瞬く間に全ての爆裂トカゲが動けなくなった。リーゼルが緋爪を持って窪地に下りていく。爆裂トカゲの横まで来て緋爪を振り上げ、そいつの首に振り下ろす。


 長巻だと数回突きを放たなければ仕留められない魔物が、その一閃で消滅した。

「なんて、切れ味なの。それに重い分威力がある」

 リーゼルは次々に爆裂トカゲを仕留め、四匹目で真名を得た。


「真名を手に入れました」

 リーゼルが声を上げた。デニスは上がってくるように指示し、緋爪をカルロスに渡した。カルロスは最後の一匹を仕留めたが、真名は得られなかった。


「さて、迷宮石を採掘しよう」

 窪地の底に真っ黒な地層があり、そこに小指の爪ほどの大きさがある迷宮石が埋まっていた。全員で採掘し、デニスたちは二六個、ランドルフたちは九個を手に入れた。


「これはもらっても良いのか?」

 ランドルフたちは爆裂トカゲとの戦いに参加しなかったので、引け目を感じて確認した。


「構いませんよ」

 デニスが答えて帰る支度を始めた。太陽が真上をすぎ、傾き始めている。カルロスとゲレオンが真名を手に入れるのは明日になるだろう。



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[一言] 途中で名前がぽやぽやリカルドになってますよ
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