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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第3章 手伝普請編
78/313

scene:77 レオポルトの優勝

 少年の部の一回戦が終わり、勝ち残ったのは一六人。その中でクルトに匹敵する強さで勝ち抜いたのは、クム領の少年剣士とダリウス領の公爵家四男だけだった。その二人にデニスも注目する。


 クルトの二回戦の相手は、デニスが注目した少年ではなかった。しかし、三歳年上の相手で頭一つ大きな体格をしていた。得物は木剣である。


 この年上の相手にも、クルトは先制攻撃を仕掛けた。素早い斬撃と『豪腕』による威力で、相手を圧倒する。最後には、相手の木剣を巻き上げ宙に飛ばした。


 見ていたアメリアはクルトの勝利を喜んだ。

「凄いよ、クルトは。二回戦も勝っちゃった」

「あれくらいの相手だったら、アメリアも楽勝だろ」


 アメリアは首を振った。デニスは理解できなかった。実力的にはクルトよりアメリアの方が上だったからだ。

「ダメダメ、こんな大勢が見ている前で戦うなんて無理」

 実力ではなく、大勢に見られていることが問題のようだ。


 クルトが戦った次に、クム領の少年剣士の試合が行われた。その少年剣士の名は、ヨハネスというようだ。ヨハネスはクルツ細剣術の使い手であり、長い手足の持ち主だった。


「クルツ細剣術か。今度はどんな技を見せてくれるかな」

 デニスは期待を込めた視線をヨハネスに向けた。歳はクルトより二つくらい上だろう。しなやかな身体は、鞭のような斬撃を放つことができるようだ。


 ヨハネスは相手の攻撃を待つという作戦を取る。相手の槍使いは遠い間合いから突きを繰り出した。ヨハネスは丁寧に受け流す。その防御の技は一流だった。


 槍使いが突きを繰り出し、ヨハネスが受け流すということが三回繰り返された。そして、一歩近づいた槍使いがヨハネスの胴体を狙って横に薙ぎ払う。ヨハネスは大きく踏み込み、木剣で棒を受け止め間合いを詰める。槍使いは間合いを取ろうとして足に力を入れた瞬間、ヨハネスの木剣が腕を叩いた。


 槍使いが棒を取り落し勝負が決まった。

「そこまで!」

 審判の声が試合場に響き、ヨハネスが剣を持つ手を上げた。勝利宣言である。


 デニスが注目しているもう一人。バルツァー公爵の四男メルヒオールが登場した。逞しい体に高価な革鎧を身に着けている。メルヒオールはハルトマン剛剣術の使い手で、『豪脚』と『豪腕』の真名を持っているようだ。一回戦の戦い方で、デニスは見抜いた。


 メルヒオールの相手は、クルトと同じ歳くらいの武官の息子だった。槍使いで技量も中々である。戦いが始まると、遠い間合いから突きが繰り出された。


 その突きを木剣が横から薙ぎ払った。『豪腕』を使ったのだろう。槍使いの少年の手から棒が飛びそうになる。棒を握り直した少年は、見事な連続突きを繰り出した。


「チッ、生意気な」

 メルヒオールが突きを払い除け、反撃を開始した。『豪脚』を使って槍使いの少年に接近し、木剣を棒に叩き付けた。その衝撃で棒が手から離れる。


 審判がメルヒオールの勝利を宣言する前に、木剣が槍使いの少年の喉を突いた。少年は血を吐き出して倒れた。審判は勝負が着いたことを宣言し、衛生兵を呼んだ。


 控えていた衛生兵二人が担架を持って走り出す。少年が倒れている場所まで来た衛生兵は、危険な状態だと分かった。喉が腫れ上がり息ができないようで藻掻き苦しんでいる。


 デニスは緊急事態だと判断した。

「ちょっと行ってくる」

 アメリアたちに声をかけると、試合場に入り衛生兵のところ駆けつける。衛生兵が青い顔で少年を担架に乗せて運ぼうとしていた。


「どうしたんだ?」

 デニスが衛生兵に尋ねた。

「あんたは、この子の家族か?」

「違うよ。けど、僕には治療ができる」

 衛生兵は骨折や切り傷、打ち身などの治療はできるが、これほどの重傷は手当できない。


「僕が治療する。少年の身体を押さえて」

 デニスは衛生兵に指示すると、『治癒』の真名を解放し真名術を発動した。腫れ上がっていた少年の喉が正常な状態に戻り、呼吸も元に戻った。


「よし、これで大丈夫だろう。医療テントに連れて行って休ませてくれ」

「分かりました。ありがとうございます」


 衛生兵が医療テントへ戻ると同時に、デニスもアメリアたちのところへ戻ろうとした。そこに国王の使いが現れ、国王の下に来るように命じられた。


 デニスは急いで国王の下へ向かう。

「ベネショフ領のデニス、参上いたしました」

「ご苦労。そちは『治癒』の真名を所持していたのだな。国にとっても嬉しい知らせだ」


 国王は嬉しそうにデニスに告げた。『治癒』の真名を持つ者は少なく、国にとっても貴重な人材となる。デニスがベネショフ領の次期領主でなければ、召し出されて王城で働くことになっていただろう。


「陛下の御言葉、光栄に存じます」

 国王が頷いてデニスの隣りにいるヨアヒム将軍に目を向けた。

「ところで、将軍の息子をベネショフ領で鍛えたそうだな?」

「はい、クルト殿は才能があり、瞬く間に腕を上げられました」


 ヨアヒム将軍が息子を褒められて頬を緩めた。だが、国王はクルトの才能より、どうやって鍛えたかに興味があるようだった。


 デニスは適当に誤魔化すしかなかった。岩山迷宮で効率的に兵士を鍛えられたのは、デニスが持つ『召喚(カーバンクル)』のおかげである。


 それを国王に告げれば、兵士を鍛えるのに利用されるかもしれない。それはデニスにとって避けたいことだ。国王は新しい椅子を用意させ、一緒に観戦することを許した。


 デニスとしては、アメリアたちのところに戻りたかったが、仕方なく国王の相手をしながら観戦する。

 少年の部は準々決勝が始まっていた。デニスの予想通り、順調に勝ち上がったのは、クルトとメルヒオール、ヨハネス、それにクルツ細剣術を使う少年剣士だった。


 準決勝でクルトは、メルヒオールと戦うことになった。

「デニス。この試合、どちらが勝つと思う?」

 国王の問いに、一瞬考えてからデニスは答えた。


「メルヒオール殿が有利だと思います。クルトが使う長巻術は習い始めたばかりです。メルヒオール殿のハルトマン剛剣術の方が上でしょう」


「ならば、クルトも元々のハルトマン剛剣術を使うのがいいのではないか?」

「いえ、同じ流派の技同士なら、より長く修練を積んでいるメルヒオール殿が勝つ確率が上がります」


 クルトとメルヒオールの戦いは、最初拮抗していた。クルトが繰り出す長巻術の技に、メルヒオールが戸惑い押されたからだ。しかし、五分ほどで長巻術の技に対応できるようになったメルヒオールの反撃が始まる。


 防戦に追い込まれたクルトが必死で、メルヒオールの攻撃を防御している。そして、クルトの体力が尽きかけた時、メルヒオールの木剣がクルトの首に決まった。


 クルトが吹き飛ばされるように倒れた。審判がメルヒオールの勝利を宣言する。それを見ていた国王が、デニスに視線を向け、

「治療に行った方がいいのではないか?」

「いえ、大丈夫でしょう」


 クルトが装甲膜を展開しているのをデニスは知っていた。あれくらいの打撃なら耐えられたはずだ。クルトは首をさすりながら起き上がった。悔しそうな顔をしている。


「ふむ、将軍の息子は防御用の真名も持っているようだな」

「ご賢察の通りでございます」


 決勝はメルヒオールとヨハネスの戦いになった。武術の腕だけなら、ヨハネスの方が上回っている。とはいえ、メルヒオールが持つ真名は強力だ。互角の戦いが続き、長引くにつれてヨハネスが押されるようになった。


 最後はメルヒオールがパワーで押し切って優勝した。その日は、少年の部で終わり、翌日から一般の部が再開される。デニスは国王から解放され、アメリアたちと一緒に観戦した。


 三回戦のゲラルトの相手は、探索者のメイス使いだった。三回戦ともなると強力な真名を持っているのが当たり前で、その探索者は『豪腕』と『敏速』の持ち主のようだ。


 ゲラルトは『豪腕』と『豪脚』を使い、何とか探索者を倒した。ギリギリの戦いだったので観客たちは盛り上がる。だが、運の悪いことに四回戦の相手は、優勝候補のレオポルトだ。


「兄さん、運が悪いな」

 デニスが愚痴のように呟く。それを聞いたアメリアが、

「頑張れば、何とかなるよ」


 ゲラルトとレオポルトは同じ『豪腕』と『豪脚』の持ち主である。しかし、レオポルトは取得してから十数年も使い続けたベテランだ。熟練度が明らかに違った。


 ゲラルトは終始攻められ、胴を薙ぎ払われて倒れた。普通なら内臓破裂するほどの打撃だが、装甲膜のおかげで何事もなかったように立ち上がるゲラルトを見て、レオポルトが舌打ちした。


「あいつ、殺す気で打ち込んでいるぞ。精神が病んでいるんじゃないか」

 デニスが声を上げた。傍で観戦していたカルロスも同意するように頷く。


「ああいう奴とは、関わり合いになりたくないものです」

 その言葉は予言となって、デニスの身に降りかかる。


 レオポルトが予想通り優勝すると、国王に向かって一つの願いを告げた。ダミアンを倒したベネショフ領のデニスと戦いたいと申し出たのだ。

 紅旗領兵団の副団長であるレオポルトは、ダミアン匪賊団を倒したデニスたちに対抗意識を持っているようだ。部下たちからデニスたちのことを聞いていたのだろう。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 良いね♪
[気になる点] 『自分たちが』と言ってる所が気になったので、誤字報告では分かりにくいと思い(仮)を書き込みしてます(誤字報告も併せて)。作者様のお好みもあるでしょうし冗長とも思いますがいかがでしょうか…
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