表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第2章 プチ産業革命編
61/313

scene:60 アメリカ製とマナテクノ製

 三河がフランクフルトに滞在中、エッケハルトは様々な患者を紹介した。というか、治癒の指輪を試せと催促した。おかげでゆっくりとすることができず、疲れ果てて帰国することになった。


 日本に着いた翌日、三河はマナテクノの本社を訪ねた。社長室に案内され中に入る。

「どうした。ドイツ土産でも持ってきたのか?」

 神原教授が三河の顔見るなり告げた。


「何を言ってる。お前のおかげでドイツでは観光の一つもできんかったのだぞ」

 神原教授がなぜだという顔をする。


「あの治癒の指輪のせいだ。あれにどんな価値があるのか知らなかったのか?」

「価値と言われてもな……儂らが試したのは、指の先をちょっと切って試した程度なんだ」


「それでも、医学的には大したものだろ」

「そうなのかもしれんが、儂の専門分野ではないからな」

 三河はガックリと肩を落とし溜息を吐いた。


「あの指輪と同じようなものが、アメリカのオークションで三億円以上で落札されたそうだ」

 神原教授の顔に驚きの表情が浮かぶ。


「な、なにーっ!」

 神原教授は急いで雅也を呼んだ。ちょうど本社に来ていたのだ。


 雅也が社長室に入る。そこに知らない人物がいたので、神原教授へ視線を向けた。

「例の指輪の効果を試してくれるように頼んだ。友人の三河だ」

「ああ、三河教授ですね。初めまして」

 挨拶を済ませた雅也たちは、治癒の指輪について話し始めた。


「ドイツで、アメリカ製の治癒の指輪が、火傷を治す様子を見て驚いたぞ」

 アメリカ製の治癒の指輪が存在するという情報には、雅也と神原教授も驚いた。詳しいことを聞いて、雅也が作った治癒の指輪とは違うものだと分かる。


「マナテクノ製の治癒の指輪は効果が非常に高かったのだが、あれは指輪についている宝石の数が多かったからかね?」


「そうです。アメリカ製は治癒迷石一個、我々のは治癒迷石五個ですから」

 ただ治癒迷石の数を多くすれば効果が大きくなるのかというと、それも違う。雅也が作る治癒迷石は大気中の魔源素を集められる範囲が決まっており、集めた魔源素の量で効果が変わるからだ。もしかすると、治癒迷石三個でも同じ結果を出せたかもしれない。


 雅也は治癒の指輪で商売するつもりはなかった。医療関係は法律面で厳しい制約があるので面倒だと思っていたからだ。


 アメリカ製治癒の指輪が魔源素結晶をエネルギー源にしているという話を聞いて、雅也は腑に落ちないものを感じた。


 『魔勁素』の真名を持つ者が治癒の指輪を作ったのなら、その指輪のエネルギー源は魔勁素になるはずだ。だが、魔源素結晶をエネルギー源にしているというのは矛盾する。

 魔源素結晶を魔勁素結晶に変える真名術が存在するのかもしれない。


 この情報は、デニスにとって重要かもしれないと雅也は思った。ベネショフ領で真名能力者でない者でも使える迷宮装飾品が作れるようになれば、一つの産業になる。


「アメリカ政府からの注文は、その指輪を作らせるためだったのかもしれんな」

 神原教授が、魔源素結晶一〇〇〇個の注文を思い出して言った。


「なるほど。迷宮装飾品を作るにしても一〇〇〇個は多いと思っていたんだけど、エネルギー源としても使うから多めに注文したのか」


 治癒の指輪は、もう少し三河に預け効果を詳しく調べてもらうことになった。

「大学病院で調べるのはいい。だが、私が肌身離さず持ち歩くというのは断るぞ」

「まあ、そうだな。病院の金庫にでも入れて管理してくれ」


 雅也は新たに治癒迷石一個と三個の治癒の指輪を製作するので、三河の大学病院で効果を比べてもらうことを頼んだ。


「ところで、神原。お前の会社は何をしている会社なんだ?」

 マナテクノという会社は、世間に名前を知られるようになっていた。ウインドクルーザーの開発をトンダ自動車と川菱重工と共に行っていると発表したからである。


 だが、マナテクノがどんな会社なのかを詳しく知っている者は意外に少ない。積極的に情報を発信していないので、調べなければ詳しいことが分からない状況なのだ。


「動真力機関の開発だ。トンダ自動車が開発するスカイカーや川菱重工のホバーバイクにも搭載されることになるだろう」


 もちろんウインドクルーザーにも搭載されるが、ウインドクルーザーの開発期間は長く、スカイカーやホバーバイクが先に商品化されるようだ。


 但し、日本で販売されるのは遅れるらしい。法整備や都市で使うためのインフラが整うまでに時間がかかるという。インフラというのは、スカイカーやホバーバイクを活用するために必要な基盤設備である。


 新しいインフラを必要とするのは、離着陸の瞬間だ。電線が網の目のように張り巡らされている日本では、道路や庭から飛び立つというのは危険だった。


 ヘリポートのようなものでも構わないのだが、都市部だとヘリポートに使える土地が少なく離着陸の待ち時間が長くなるので、高速道路のインターチェンジのようなものが効率的らしい。


 もちろん、そのためにはスカイカーやホバーバイクを地上走行可能にすることが必要になる。


 スカイカーやホバーバイクが普及すれば、交通渋滞というものはなくなり、高速道路を走るのは重い荷物を積んだトラックだけという時代が来るかもしれない。


「マナテクノでは、独自の乗り物を造らないのか?」

「日本は災害が多いから、救難救助用の乗り物を開発しようという案が出ている。今は需要があるかどうかを調査中だ」


 少し雑談してから三河が帰った。残った雅也と神原教授は、小雪を呼んで三人で動真力機関の製造工場の話を始めた。

「トンダ自動車との契約で建設中の第一製造工場の完成は、いつの予定だ?」

「忘れたの……三ヶ月後よ」

「早いな。急いでいるのには理由があるんですか?」


 神原教授が口をへの字にして、

「中国が、動真力機関を開発しようという研究を大々的に始めた。その影響だ」


 雅也が納得できないという顔をする。

「中国でも、うちの特許は認められましたよ。だったら慌てる必要なんかないはずだけど」

「奴らは、魔勁素を使って動真力機関を実現しようと考えているらしい」


 雅也は微小魔源素結晶が作れるのなら、微小魔勁素結晶も作れるかもしれないと気づいた。

「そうか、『魔勁素』と『結晶化』の真名を持つ真名能力者なら可能かもしれない。でも……」


 でも、産業として発展させるのなら大量生産できなければならない。魔勁素の結晶を作る作業を機械化できるのだろうか。疑問は残るが、第一製造工場の完成を急ぐ理由に納得した。


「それを研究している国は、中国だけなんですか?」

「いや、アメリカ、ロシア、ヨーロッパに韓国も研究を始めたらしい。ただ中国が一番進んでいるようだ」


「やっぱり研究してるんだ」

「そこで、マナテクノでも研究しようと考えている」


 雅也は反論した。

「『魔勁素』と『結晶化』の真名を持つ真名能力者が必要ですよ」

「小雪に『結晶化』を持たせようと思っている」


 小雪は雅也が召喚したスライムを狩り『魔勁素』の真名を手に入れている。雅也がカーバンクルを召喚して、『結晶化』の真名を与えることは可能だった。


 ただ雅也は召喚したカーバンクルの完全制御などできないので、自分の力で倒してもらわねばならない。

「雅也さん、宮坂師範を紹介してもらえますか」

「いいけど、宮坂流を習うの?」


 小雪が頷いた。

「私としては、拳銃か何かで相手をしたいんですけど、近い場所で魔物を倒した者ほど真名を手に入れる確率が高いんでしょ」


 デニスたちが迷宮で真名を手に入れた経験から導き出した経験則である。剣や槍で倒した場合は真名を手に入れ易いが、弓矢などを使った場合、ほとんど手に入れられなかったのだ。


 なので、小雪は宮坂流を習うことにしたらしい。雅也はアメリアたちのために長巻による戦い方を、宮坂師範と一緒に研究した。


 その長巻術は宮坂師範が研究した槍術や棒術・剣術の技を集大成したものになり、強力な武術となっていた。雅也は小雪を宮坂師範に紹介し、彼女は宮坂流長巻術を習うことになった。


 小雪が宮坂流を習い始めた頃、また冬彦から連絡があった。

「先輩、大変です。警察病院からディエゴが逃げました」

 スマホから慌てた冬彦の声が聞こえてきた。


「ディエゴ……誰だ?」

「忘れたんですか。ミュワワを襲った男ですよ」

「思い出した」

「奴は先輩を恨んでいます。気を付けてください」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
― 新着の感想 ―
[良い点] 良いね♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ