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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第2章 プチ産業革命編
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scene:50 マナテクノの噂

 宮坂流道場でオーガを倒す技を研究した雅也は、一杯飲みたくなって街に出た。夜の街をぶらぶらと歩き、馴染みのある居酒屋へ吸い込まれるように入った。


 会社役員なので高級感溢れるオシャレなバーに行っても場違いではないのだが、居酒屋の方が落ち着いて飲める。雅也が入った居酒屋は、一人で行っても入りやすい店だ。


 喉が渇いていたのでビールを頼んだ。メニューを見て、だし巻き卵と焼き鳥盛り合わせ、後は適当に選ぶ。料理が出てくるまで、ビールを飲みながら周りから聞こえてくる声に耳を傾けた。


 雅也の後ろのテーブルで飲んでいる若い男たちは、就活をしている大学生のようだ。理系の学生らしく製造業関係の企業名が話に挙がっている。


「トンダ自動車を受けたんだけど、ダメだった」

「あそこは競争率が高いから……それに今、話題になっているからな」

「ああ、川菱重工とマナテクノとかいう会社と共同で、凄い航空機を開発しているんだろ」


 雅也はこんなところでマナテクノの噂を聞くとは思っていなかったので、耳をそばだてる。


「動真力機関のデモンストレーションを見たか?」

「見た見た。あのホバーバイクは凄かったな。デモンストレーション用だからスピードが出ないと言ってたけど、五〇キロは出てただろ」


 聞いていた学生たちが頷いた。

「川菱重工が、本格的なホバーバイクの開発に乗り出すらしいぞ。政府が法律関係のサポートをすると約束したから、本気になったってさ」


「トンダ自動車も、スカイカーを開発するって噂があるぞ」

「あああ、トンダ自動車に入りたかったなぁ」

「諦めろ。ところで、マナテクノって、どんな会社なんだ?」


 情報通らしい学生が、得意げに口を開いた。

「マナテクノは、トンダ自動車に比べたら本当に小さな会社なんだ。でも、将来は保証付きだから、一番優秀な奴らが狙っているらしい」

「そうだろうな。設立したばかりのマイクロアプリみたいだもんな」

 その学生は、パソコンのオペレーティングシステムで有名な会社の名前を例として出した。


 雅也は、ニヤニヤしながら聞いていた。雅也がマナテクノの取締役だと知ったら、後ろの学生たちはどんな顔をするか想像すると、ニヤニヤを止められない。


 料理が運ばれてくると、雅也は日本酒を注文した。日本酒が運ばれてきた頃、学生たちの話題が変わった。

「そういえば、トンダ自動車がクールドリーマーを募集しているのを知っているか?」

「いきなり、何だよ」


「トンダ自動車の人事部の人に聞いたんだけど、クールドリーマーには優秀な人材が多いんだって」

「本当かな。異世界の夢を見ているだけの人間なんだろ」

「夢じゃない。異世界にいる本物の人間と精神が繋がっているらしいぞ」


 世間のクールドリーマーに対する認識は、異世界の夢を見るだけの人間というのが多いようだ。政府がドリーマーギルドを創設した事実を知っていても、異世界の存在を信じきれないという者が多い。


「俺もクールドリーマーになれないかな。そうしたらトンダ自動車に入れるのに」

「またトンダ自動車かよ」


 居酒屋に新しい客が入ってきた。

「あれっ、聖谷先輩じゃないですか」

「山口……ゲッ、高田先輩」


 雅也が建設会社で働いていた時の後輩と先輩だった。ただ高田は、雅也が建設会社を辞める切っ掛けになった人物である。正直二度と会いたくなかった。


「聖谷……貴様のせいで、俺はな……」

 高田が絡んできた。すでに酔っているようだ。高田は雅也を無理矢理奥の席に連れて行った。


「貴様のせいで、俺は資料整理をさせられているんだぞ」

「自業自得じゃないか。他人の設計データを勝手に使ったからでしょ」


 高田が恨み言や愚痴を言い始めたので、雅也は『言霊』の力を使って高田を眠らせることにした。雅也は高田の耳に顔を近づけ、「眠れ(▼▼)」とささやいた。


 雅也としては、それほど強い意思を込めたわけではない。試してみただけという感じである。それでも高田の目が半眼になり、頭が揺れ始めた。それに山口が気づいた。

「高田先輩は、眠そうですね」


 酔っている人間は、意思が弱くなっているらしく『言霊』の効果が高いようだ。高田は壁に寄りかかって眠り始めた。


「聖谷先輩、うちの会社ですけど、やばいみたいなんですよ。社長が社員の二割をリストラするって言い出したみたいなんです。社員は皆、戦々恐々ですよ」


「それで高田は、荒れていたのか。山口は大丈夫なのか?」

「僕をリストラするような会社なら、お終いですよ。僕の方から辞めてやります」

「凄い自信だな」


「それより、先輩は探偵をやっているんですよね。大丈夫なんですか?」

「探偵は辞めたよ」

「やっぱり、先輩には向いていないと思ってましたよ」


「探偵としても活躍したんだぞ。辞めたのは、別の会社を始めたからだ」

「えっ、先輩が起業家になったんですか?」

「まあな。マナテクノっていう会社だ」


 山口が驚いた。マナテクノは、最近注目されている企業だからだ。雅也はマナテクノの名刺を山口に渡した。

「取締役……驚いたな。僕もマナテクノに引っ張ってくださいよ」


「どうしてだ。少し前まで自信満々だったじゃないか?」

「今の会社が自分を必要としていることには、自信があります。でも、会社が居心地がいいかは別ですよ」


 雅也は建築関係の協力者が欲しいと思っていたので、山口が雅也の部下になってくれるのなら、大歓迎だった。

「山口なら歓迎だけど、一生のことだからな。慎重に考えてから決断しろ」

 久しぶりに会った後輩と楽しく飲んでから、雅也は新しく借りたマンションに戻った。


 翌日、雅也は神原教授に教えてもらった採石場跡地へ向かった。宮坂師範が提案した技をものにするためである。そのためには雷撃球攻撃を動き回りながら放てるようにならなければならない。


 雅也は、デニスが戦ったダミアン匪賊団の首領を思い出していた。ダミアンは剣で戦いながら凍結球攻撃を放っていた。


 石が転がるだけの荒れ地で、雅也は『雷撃』の真名を解放した。岩に向かって雷撃球を放つ。岩に命中した雷撃球が激しい火花を散らかしながら爆散した。


 命中した岩は、焼け焦げた上にヒビが入っている。

「威力が少し上がったみたいだな」

 雅也は呟いて走り出した。走りながら雷撃球を放とうとする。走るという動作が邪魔をして雷撃球を放てなかった。


 最初から成功するとは思っていなかった。それからは動き回りながら、雷撃球を放つ練習を何度も何度も続けた。三時間くらい経った頃、走りながら雷撃球を放つことに成功する。


「よっしゃー!」

 たった一回の成功だったが、雅也は喜んだ。成功の感覚を忘れないうちに練習を続ける。三回に一回は成功するようになった。


 雅也は毎日のように採石場跡地に通い、雷撃球攻撃の練習を続けた。異世界ではデニスも同じことをしている。そうすることで習得期間が短くなるのを雅也たちは知っていたからだ。


 しばらく練習を続けると、動きながらでも自由に雷撃球を放てるようになった。宮坂師範が考えた技の第一段階をクリアしたことになる。


 次は『加速』の真名である。この真名は使い方が難しい。この真名術を発動させるには、何らかのトリガーが必要なのだ。例えば、足で地面を蹴るという動作もトリガーの一つとなる。


 通常、地面を蹴ることで身体全体を加速させ、一〇メートルほどの距離を一瞬で飛び越え、敵の懐に飛び込んで仕留めるという使い方をするようだ。


 宮坂師範は、この加速を直線だけでなく斜めや横にも使えるようになれと指示した。斜めは割と簡単だったが、横への加速は難しかった。

 だが、身体全体を回転させることで横への加速も可能だと分かった。


 宮坂師範が考案した技は、雷撃球を放ちながら『加速』を使って様々な角度から斬撃を加えるというもので、決まれば一撃で大ダメージを与えることが可能だと考えていた。


 雅也は技の完成度を確認するために、宮坂師範を連れて採石場跡地まで来た。

「ほう、こんな場所で訓練しておったのか」

「雷撃球攻撃は、近くに人がいる場所では使えないんですよ」


「そうだな……よし、見せてもらおうか」

「では、あの高さ二メートルほどの岩を相手に使います」


 雅也は竹刀を右手に持ち十数メートルほどの距離をとってから走り出した。一歩目から『加速』を使ってスピードを上げる。二歩目でさらに加速、岩の直前で雷撃球攻撃を始め、軌道を変えながら岩に竹刀の一撃を加えた。


 その衝撃に耐えきれず、竹刀はバラバラになって壊れた。雅也は振り返り、宮坂師範へ顔を向けた。

「どうです?」


 宮坂師範が笑って頷いた。宮坂師範の目から見た雅也は、非常識な速さで岩に近づき雷撃球を放った瞬間に消え、少し離れた場所に現れて岩に一撃したように見えた。


 長年武術を修業した宮坂師範の目でも、雅也の動きに追いつけなかったのだ。

「見事だ。その技なら、オーガでも倒せるのではないか」



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