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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第2章 プチ産業革命編
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scene:49 動真力機関の公表

 動真力機関を公表する日、雅也は神原教授と一緒にトンダ自動車のテストコースへ来ていた。空は晴れ、春の日差しがテストコースを照らしている。


「ホバーバイクは動くようになったんですか?」

「動くことは動く」

 雅也は渋い顔をしている神原教授に視線を向けた。


「何か問題が?」

「動真力機関の試作品では馬力が足りんのだ。おかげで速度が出ない」

 教授に確認すると、時速五〇キロほどが限界だという。


「デモンストレーションなんですから、十分じゃないんですか」

「ふん、マスコミの連中に与えるインパクトが……」

 雅也はどうでもよくなったので、神原教授の愚痴は聞き流すことにした。


 雅也が周りを見回すと、大勢のテレビクルーや記者、カメラマンがテストコースに群がっていた。その中にはアメリカや中国、ヨーロッパからの報道陣もいる。


 時間になったので、神原教授がマスコミの前に出た。

「マナテクノの代表神原です。忙しい中、お集まり頂きありがとうございます」


 神原教授は挨拶してから、公表する動真力機関の説明を始めた。理解を始めた報道陣は、興奮した表情を浮かべるようになった。


 有名なリポーターが、神原教授に質問の手を挙げる。

「粉末状の魔源素ですが、どのようにして製造したのです?」

「魔源素の製造方法については、企業秘密とさせて頂きます」


 別のリポーターからも質問があがる。

「トンダ自動車と川菱重工は、御社と組んで空飛ぶバスを開発すると発表していますが、それは動真力機関を使って飛ぶ乗り物ということですか?」


「その通りです。世間ではジェット機だと勘違いしている方もいらっしゃいますが、間違いです」

 今までウインドクルーザーのことは、世間が勘違いするまま訂正しなかった。それは特許を出願するまでの時間稼ぎとなっていた。


 報道陣の中から、本当に動真力機関が存在するのか、疑問に思う者が現れた。神原教授は、そういう疑問が出てくるのを予期していた。


「いいでしょう。これからデモンストレーションを行うことにします」

 神原教授は、ホバーバイクを運ばせる。それは中央部分に動真力機関を組み込んだ未来的なフォルムをしていた。


 報道陣の中から驚きの声が上がる。その形からホバーバイクにるいするものだと分かったからだろう。操縦者はマナテクノの若手研究員である。


 ホバーバイクが浮き上がった瞬間、報道陣がざわめいた。テレビクルーを率いるディレクターの顔が厳しい顔となり、カメラマンに向かって次々に指示を飛ばす。


 テストコースで撮影された映像は、海外でも放送された。北京の中南海では、国家主席の関中庸が不機嫌な顔をしてテレビを見ていた。

「この動真力機関のことを事前に分かっていれば、何か打つ手はあったか?」


 関主席の懐刀と言われる王維漢が、難しい顔をする。

「日本政府に圧力をかけても、難しかったでしょう」


「そうか。ならば、マナテクノという会社から研究員もしくは技術者を引き抜けないか?」

「今は警戒しているでしょうから、難しいと思われます。それに基本特許を出願するでしょうから、二〇年は動真力機関を作れません」


「特許か。技術者を引き抜いても、二〇年は手を出せないということか」

 関主席が残念そうに言った。国内の発明家が出願した特許なら国家権力を使って何とでもなるのだが、世界各国に出願された特許はどうにもならなかった。


 一方、動真力機関のことを知った日本政府は、国家を挙げて支援することを約束した。第一弾は補助金で、次は法律関係の変更に協力すると約束した。


 デモンストレーションで見せたホバーバイクが日本の空を飛ぶようになると思ったようだ。これにはトンダ自動車と川菱重工が飛びついた。


 ホバーバイクやスカイカーは、大きな事業になると分かっていたからだ。世界各国で問題になっている一つに交通渋滞がある。特にアメリカの交通渋滞は酷く、ワーストランキングの上位をアメリカの都市が占めている。


 そこにホバーバイクやスカイカーが売り出されれば、売れるのは間違いないだろう。


 マナテクノは、動真力機関を公表した日を境に全世界から注目される企業となった。また神原教授は、ノーベル賞候補になるほど有名になる。


 雅也も一部の人間には注目されたが、神原教授ほど知名度は上がらなかった。それでも今まで通り探偵を続けることは難しくなり、非常勤取締役という肩書でマナテクノに入社することになる。


 マナテクノ関係で騒がしい日々が続き、精神的に疲れた頃。イギリスの真名能力者が騒ぎを起こし、マスコミの注目がイギリスに移った。神原教授や雅也は、やっと静かな生活に戻れた。



「先輩、本当にやめちゃうんですか?」

 冬彦は元気のない声で確認した。

「仁木さんが入ったから大丈夫だろ。それに新しい人材も二人増えるんだから」


 探偵事務所は迷子ペット探しの仕事が入るようになり経営も完全に黒字化した。そこでバイトだった小雪の代わりに経験のある人材を二人雇った。


「でも、不安なんですよ。一人だった時は、どうにでもなると思っていたんですけど、社員が増えると責任が」

「それは探偵事務所が上手くいっているってことだろ。何かあったら相談に乗るから」


 雅也は気軽に言ったが、その後何度も冬彦からの相談に乗ることになる。またマナテクノが身元調査に冬彦の探偵事務所を使うようになり、マナテクノに出入りするようになった。


 雅也と冬彦の縁は続くようだ。一方、小雪は内定が決まっていた企業を断り、マナテクノに入社することが決まった。神原教授の秘書になる予定である。

 神原教授をコントロールする貴重な人材として期待されているようだ。


 非常勤取締役となった雅也は魔源素結晶を製造すれば、後は自由ということになった。その自由になった時間で、雅也は真名の調査とデニスにとって役立つ情報の収集をしようと考えていた。


 現在、デニスが知りたいと思っているのは、オーガを倒す方法と紡績と織物の情報らしい。まずはオーガを倒す方法を求めて、雅也は宮坂流の道場へ向かった。


 宮坂師範が若い生徒たちに厳しい指導をしていた。雅也は道場で練習する回数は減っていたが、自主練習と立木打ちは続けていた。


 若い生徒たちの練習が終わり、宮坂師範が雅也のところへ来た。

「今日は若い子たちの練習日だぞ。何か別の用があるのか?」


 雅也は、自分が真名能力者であることを宮坂師範には伝えていた。宮坂師範も雅也が普通の人間でないと感じていたらしい。


「異世界でオーガを倒さねばならないんですが、どうやって倒したらいいか分からないんです」

「オーガ……どういう化け物なんだ?」


「背丈が二メートル半ある青鬼です。普通に斬りつけただけじゃ刃が通らないほど、強靭な皮をしています」

「ほう、青鬼か、デカイ奴なんだな」


「ええ、師範はデカイ奴と戦った経験はありますか?」

 宮坂師範は苦い経験を思い出すような顔をして、

「あるぞ。二メートル近い男と戦ったことがある」


 雅也は直前の宮坂師範の顔を思い出し、

「勝てなかったんですか?」

「いや、勝ったぞ」


 戦いの詳細を聞くと、宮坂師範が苦い顔をした理由が分かった。素手での戦いだったが、通常の攻撃では軽いダメージしか与えられなかったという。


「どうやって倒したんです?」

「股間に蹴りを入れて、相手が怯んだ瞬間、三角飛び蹴りで後頭部に蹴りを叩き込んだ」


 相手を殺しかねない技である。

「その時は殺したかもしれない、と心配したが、相手は三分後に平気な顔で起き上がったよ」


 その後、宮坂師範は再戦する時に備えて技を工夫したらしい。まずは足元から崩そうと、フルコンタクト空手のローキックを取り入れてみたそうだ。


 普通のローキックは、足を薙ぎ払うように蹴りつけるものだが、一部の空手家は体重を載せて押し込むように蹴るローキックを使っていた。


 どう違うのか、二種類のローキックを受けてみた。普通のローキックは太腿の筋肉が押し潰されるような衝撃が走り、もう一つのローキックは筋肉がねじ切れるような激痛が走った。


「痛っ」

 思わず声を上げるほど痛かった。

「どうだ。このローキックはオーガにも効きそうか?」


 宮坂師範の問いに、雅也は首を傾げた。

「どうですかね。相手は人間じゃないからな」

「この蹴りは、宮坂流の秘伝の一つなんだぞ」


 宮坂師範は、雅也から戦いに使える真名術を聞き出し、その組み合わせを試すように指示した。その中の一つ『加速』と『雷撃』を組み合わせた技に、オーガを倒す可能性を見つけた。



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
> それに基本特許を出願するでしょうから、二〇年は動真力機関を作れません 特許は対価を払えば利用できるシステムです。特許に登録されたら、その仕組みまで解説されるので、むしろ作りやすいのではないでしょう…
[良い点] 良いね♪
[気になる点] 確かに儲かりそうだけど実際導入するにはかなりハードルが高そう。 日本では道交法や航空法や米軍基地周辺での規約とかが大改編されそうですね。 〉デモンストレーションで見せたホバーバイクが日…
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