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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第2章 プチ産業革命編
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scene:48 発光迷石

 小雪は魔源素結晶が光を発するのを見て疑問を持った。この光のエネルギー源は何なのだろう、という疑問である。


 そのことを雅也に尋ねた。

「エネルギー源……それなら空気中の魔源素だよ」

「空気中に魔源素がなくなるまで、光り続けるということなの?」


「『発光』の真名を転写した迷宮石……略して『発光迷石』の魔源素消費は多くなさそうだから、長時間光り続けると思う」


 発光迷石のオンオフは、言葉によって設定できるようだ。今回は『ライトアップ』と『ライトダウン』に設定したが、転写する時に、決めておけば何でも良いらしい。


 発光迷石一個の光量は、それほどではない。光は強いが小さすぎるのだ。照明として使うのなら、何個か纏めて使うしかないだろう。


 『言霊』を使った転写は、何個か纏めて加工できそうである。複数の発光迷石を作るのは、それほど手間ではない。


 雅也が発光迷石について考えている間、小雪は雅也の歌について考えていた。

「雅也さん、人前で『言霊』を解放した状態で歌わない方がいいと思う」


「元々人前で歌うつもりはないけど、どうして?」

「聞いている人へ『言霊』の力を発揮するみたいなの」

「小雪さんも影響を受けたの?」


 小雪は心に浮かんだ情景や衝撃を、雅也に説明した。それを聞いた雅也は、自分が勘違いをしていたことに気づいた。


 雅也は『言霊』の効果をおおよそ理解していた。だが、特定の意思を込めた言葉しか、効果を発揮しないだろうと考えていたのだ。


「雅也さん、その発光迷石をどうするんですか?」

「神原教授に渡して調べてもらうつもりだけど」

「私から渡しましょうか?」

「いや、久しぶりにマナテクノへ行くよ」


 最近の雅也は歌に集中していたので、マナテクノの状況を把握していなかった。ちょうど良い機会だと思った。


 翌日、雅也はマナテクノを訪ねた。竹林の中にあるマナテクノの本社では、研究員が増えていた。二〇人を超えている。


 中園専務が出迎えてくれた。

「聖谷さん、探偵はやめて、この会社に入ってください。お願いしますよ」

「どうしたんです?」


「神原社長が暴走気味なんですよ。誰か止める人が必要です」

 話を聞いてみると、トンダ自動車・川菱重工との共同研究で動真力機関の試作品が完成したらしい。その試作品を使って、ホバーバイクの開発を行っているという。


 マナテクノでは、ホバーバイクの販売を行う予定はない。当面は動真力機関の開発販売を行う予定になっていたはずだ。


 若い研究員や技術者と一緒に、神原教授が楽しそうにホバーバイクを組み立てている。そのまま商品になるくらいの本格的なものだ。


 空を飛ぶバイクは、最近になって販売する会社が増えている。もちろん、動真力機関ではなくドローンのような回転翼を使ったタイプのものである。


 ドバイ警察が空飛ぶバイクを導入するというニュースが流れたように、ホバーバイクを実用的な輸送手段の一つとして考える時代になっていた。


 なので、ホバーバイクの開発自体を間違いだと、雅也は考えていない。売れるようなホバーバイクを開発すれば、商売になるかもしれない。


「教授、何でホバーバイクの開発なんかしているんです?」

 雅也は神原教授を捕まえて尋ねた。

「ん、聖谷君か。このホバーバイクは、動真力機関を公表する時にデモンストレーションとして使うものだよ」


 動真力機関は公表することになっていた。公表と同時に特許出願し、基本特許と関連する応用特許を押さえる手筈になっている。


 特許は日本だけでなく世界各国で取得する計画になっていた。特許取得については、トンダ自動車と川菱重工の協力を得て行う予定であり、穴のない特許を目指している。


「特許のために、公表か……公表しないで、特許出願したらどうなるんです?」

「特許が認められるはずがない。夢物語だと言われて、お終いだろう」


 我慢しきれなくなった中園専務が、口を挟んだ。

「待ってください。デモンストレーションのためだけだったら、こんな本格的なホバーバイクは必要ないはずです。社長はホバーバイクの開発に億単位の金をつぎ込んでいるんですよ」


 雅也も億単位と聞いて、中園専務の言い分を理解した。

「教授、デモンストレーションだけが目的なら、もうちょっと手軽なものでいいんじゃないですか」


「そうなんだが……」

 歯切れの悪い返事を返す神原教授を、雅也が問い詰めた。

「ホバーバイクに使う姿勢制御の問題にハマってしまった」


 神原教授によると動真力機関とジャイロ効果を組み合わせた姿勢制御が思いがけない効果を発揮するのだそうだ。それをホバーバイクに応用して実験しているらしい。


「画期的な姿勢制御システムが開発できそうなのだよ」

 歩行ロボットから宇宙機まで応用できそうなのだという。そのことを聞いた中園専務が、姿勢制御システムの詳細を確かめた。


「会社の利益に繋がる開発なら、いいでしょう。ですが、無制限に開発費用を出すようなことは禁止です」

 中園専務が神原教授に告げた。

「禁止って、儂が社長だぞ」


 中園専務は雅也へ視線を向け、

「筆頭大株主である聖谷さんに、判断して頂きましょう」


 神原教授が雅也をジロリと睨んだ。

「教授、睨んでもダメですよ。無制限の研究費なんて、ありえません」

「しかしだね。新しい姿勢制御システムが完成したら、会社の利益になると専務も認めていたではないか?」


「だから、中止にはしませんよ。ただ経費は、専務が管理するように変更します」

 神原教授が肩を落とした。敗北を認めたのだ。


 それを見ていた新入りの研究員たちが、雅也が何者なのか周りに確かめる。

「聖谷さんは、この会社の創業者で、株のほとんどを持つオーナーだよ。社長の教え子らしいけど、会社での立場は聖谷さんの方が上なんだ。それに魔源素結晶の製造担当者でもある」


「へえー、ボスは神原社長だと思っていたけど、本当のボスはあの人なんだ」

「でも、研究部門のボスが神原社長なのは間違いないぞ」


 ホバーバイクの件が片付いたので、雅也は神原教授に発光迷石を見せた。

「魔源素結晶……だが、色が違う。まさか、真名の転写に成功したのかね」

「ええ、『発光』の真名を転写したものです」


 神原教授が発光迷石の点灯と消灯を繰り返した。

「面白い。どういう仕組なんだ」

 他の研究員も集まってきて、発光迷石に注目する。


「言葉に反応し光る石か……不思議な石ですね」

 研究員の一人が呟いた。

「宮部と坂本は、これの担当にする。徹底的に調べてくれ」


 神原教授が担当を決め発光迷石の調査を開始し、残りの研究員と技術者はホバーバイクの開発に戻った。



 動真力機関の公表が秒読み段階に入った頃。

 特殊人材活用課の黒部の上司である京極審議官は、マナテクノという会社を調べ判断に困っていた。この会社は資本金も少なく、社長である元大学教授も特に目立った経歴はない。


 特別だと言えるのは、マナテクノの創業者が真名能力者だということだ。聖谷という男だ。魔源素結晶を扱う会社なので、聖谷が何らかのアイデアを出したのは明白である。


 そのマナテクノがトンダ自動車・川菱重工と組んで、空飛ぶバスの開発プロジェクトを立ち上げた。京極審議官はマナテクノに重大な秘密があると確信した。


 そこで配下にある調査部門に開発プロジェクトを調査するように命じた。

 数日後、調査部門から報告が上がった。開発プロジェクトにジェットエンジン関係の技術者が一人も参加していないというのだ。


「おかしい。空飛ぶバスが地域間輸送用旅客機リージョナルジェットを指しているのなら、ジェットエンジンの技術者は必須のはず。ジェット機ではないのか」


 調査部門の課長が慌てた様子で、京極審議官の部屋に現れた。

「大変です。マナテクノとトンダ自動車、川菱重工が魔源素を使った全く新しい推進機関を発明したと発表しました」


「何だと……詳しく説明しろ」

「それが……詳細は明日、トンダ自動車のテストコースで発表する、と各マスコミに連絡があったようです」

 それを聞いた京極審議官は、悔しそうに呟く。

「チッ、もう少し時間があれば、探り出してアメリカに恩を売ることができたのに」


 京極審議官は、出世のためなら手段を選ばない男だった。



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