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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第1章 明晰夢編
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scene:32 アーマードボアの討伐

 ファングボアが進化した頃、雅也は探偵事務所で冬彦にクールドリーマーであることを打ち明けていた。


 政府関係者に気付かれた以上、冬彦に知らせないでおくことは難しい。そこでクールドリーマーだと知らせ、政府からアドバイザーとして仕事が来るかもしれないと伝えた。


「もっと早くクールドリーマーだと教えてくれれば、事務所の宣伝に使えたのに」

「だから、教えなかったんだ」


 そこに特殊人材活用課の黒部から連絡が来て、魔物が騒ぎを起こしている場所へ向かった。面倒なことに、冬彦も一緒である。


 車の中で、向かっている先の状況を話した。冬彦は驚いたが、面白そうだと喜んだ。

「それで、依頼の内容はどんなものなの?」

「魔物の正体を確認してくれという依頼だ」

「へえ、どんな魔物?」


「イノシシの化け物だ」

「ふうーん、イノシシか。猪鍋って、美味しそうだよね」

「食う気かよ。相手は魔物だぞ」


 駅前に通じる道路は、渋滞を起こし進めなくなった。車を駐車場に入れ歩きだす。雅也の手には、練習で使っている棒が握られている。


 冬彦は紙袋を提げていた。何が入ってるか気になったが、時間がない。急いで現場まで行った。現場に黒部が待っていた。


「所長さんも来られたのですか?」

「どうしても付いていくと、ゴネるんで連れてきました」

「これも事務所への依頼ですから」


 雅也は魔物に目を向けた。

「ん、ファングボアじゃないんだ」

「ええ、元は以前に現れたものと酷似していたんですが、あそこに倒れている少年を食べてから変化したようなのです」


 雅也は迷宮の魔物が人間を食べて進化することがあると知っていた。本から得た知識だが、人間の中に流れる魔勁素を吸収し変化するらしい。


「特徴から推理すると、アーマードボアですね」

 雅也はアーマードボアの特徴や弱点を、黒部に伝えた。アーマードボアの弱点は後ろ足の付け根にある。そこを強力な銃で撃てば倒せるはずだ。


 そのアーマードボアが、取り囲んでいる警官に向かって突進を開始。イノシシの速度は最高時速五〇キロほどである。アーマードボアは軽く五〇キロを越えた。


 一歩ごとに加速するような走りだ。その加速度は異常である。アーマードボアは警官を跳ね飛ばし、パトカーに激突した。


 パトカーがトラックと衝突したかのように宙に舞う。凄まじい音がしてパトカーが落下。警官たちが逃げ出すように下がり始めた。


 中継車ではディレクターの真木が固唾を呑んで、警官隊と化け物の戦いを見ていた。

「おいおい、警察は無力なのか?」

「何でも、象撃ち銃を用意するみたいですよ」

 普通の銃やライフルでは、アーマードボアは倒せなかった。そこで象撃ち銃を用意することに決めたらしい。


「おい、変な奴が飛び出してきたぞ」

 真木がカメラマンに指示を出した。


 飛び出したのは、斧を手に持った男だった。三〇代前半でガッシリした体格をしている。自信たっぷりな様子で斧を振り上げる。

「化け物め、私が退治してやる」

 男は叫んでアーマードボアに突進した。


 男は魔物と戦い始めた。その戦いぶりは様になっている。

「あの男、どこかで見たような気がする」

 冬彦が声を上げた。


「依頼人の一人か?」

「いや、テレビでみたような」

 黒部の目が光った。

「あれは、ユーチューバーの稲本氏ですね。ギルドに登録されています」


 雅也は戦い方を注目した。魔物との戦いに慣れているようだ。異世界では迷宮探索者でもしているのかもしれない。

「ん……何で斧なんか持っていたんだ?」

「どこかで買ったんじゃないか」

 冬彦が大工道具なども売っている店がテナントとして入っているビルを指差した。


 稲本は『剛力』と『頑強』の真名を持っているようだ。その二つだと正確に確信できたわけではないが、戦いぶりから見当をつけた。


 木槌を振り回すように重い斧を使っている様子。そして、何度かアーマードボアの突進で撥ね飛ばされたが、痛みを堪えながら起き上がる様子から分かる。


「まだまだ」

 口だけは達者なようだ。


 その身体からは大量の血が流れていた。必死の形相でボアの突進を躱し、斧を叩き付けた。稲本はアーマードボアの弱点を知らないらしい。


 アーマードボアが何度目かの突進を敢行。稲本は避けようとして、自分の血で足を滑らせ体勢を崩した。そこにボアの突撃が命中する。


 稲本の身体がコマのように回転しながら宙を飛び、頭から着地。ブレイクダンスのように回転してから、バタリと倒れた。


「こういうのって、ユーチューバー独特のギャグなのかな?」

 冬彦が的はずれなことを言う。


「そんなわけないだろ。真面目にやられたんだよ」

「真面目にって……助けないでいいのか?」

「女の子だったら、無条件で助けに出るんだけど……それに今回の依頼は、魔物の確認だけだから」


 黒部が咳払いをして注目を集め、

「助けることが可能なら、彼の救助をお願いできますか。依頼料は増額します」

「先輩、大丈夫ですか?」

「まあ、何とかなるだろう」


「よし、これを着けて」

 冬彦が紙袋から、ゴーグルを取り出した。ミラー処理を施した大型のものである。

「顔バレするよりマシか」

 雅也は嫌々ゴーグルを着用した。


 アーマードボアが稲本に止めを刺そうとしていた。雅也は棒を手に駆け出した。それを見た中継車の真木が、新たに現れた男をアップにするように指示を出す。


「ゴーグル。あの人、クールドリーマーか」

「真木さん、あいつの武器は棒みたいですよ」

「マジか、正気じゃないぞ」


 雅也は棒を上段に構えた。その棒の先端には震粒刃が形成されている。

 上段の構えのまま走り出した。同時にアーマードボアが突進する。雅也は宮坂流の足捌きで、突進を躱すと同時に脳天に震粒ブレードを振り下ろした。


 震粒刃が脳天に命中し、チェーンソーのように硬い鱗を削る。斧ではダメージを与えられなかったのに、アーマードボアの脳天に一筋の傷ができた。震粒刃の威力は『剛力』プラス斧より上のようだ。


 アーマードボアは自分の弱点を分かっているようで、後ろ足の付け根を攻撃する隙を雅也には与えなかった。何度か突進を躱し、カウンターで攻撃を入れるが致命傷にはほど遠い。


 雅也がアーマードボアの相手をしている間に、負傷者を警官が運び出した。

「もういいぞ。君も逃げろ!」

 黒部の叫びが響いた。


 できるなら、雅也も逃げたかった。だが、アーマードボアが許してくれない。雅也は新しい真名を試そうと考えた。


 ドライアドから手に入れた『言霊』の真名である。この真名は言葉に感情や意思を込めることで、その言葉を聞いた者に影響を与えるという力を持っていた。


 そして、最も強力な影響力を持つ言葉は、真名であるらしい。しかし、人間には真名を言葉として発音する能力がない。


 妥協の産物として、普段使っている言語に感情や意思を込めて発することで、影響力を行使するしかなかった。雅也は『言霊』の真名を解放し意思を込めた言葉を放った。


()()()

 その言葉を聞いたアーマードボアばかりではなく、黒部や冬彦、中継車の真木なども動きを止める。言葉が心に突き刺さり、動けなくなったのだ。


 魔物が静止していた時間は、三秒ほどだっただろう。雅也は、三秒でアーマードボアに接近し震粒刃を後ろ足の付け根に叩き込んだ。


 アーマードボアの足一本が、切り飛ばされ宙を飛ぶ。その後は簡単だった。


 中継車の真木は、謎のクールドリーマーが化け物を倒すのを見ていた。ただの棒で化け物が切り刻まれ動きを止めた時、その巨体が塵となって消えた。


 そして、消えた瞬間にアーマードボアの牙と皮がドロップアイテムとして現れた。それだけではない。雅也の頭に、新たな真名が飛び込む。『加速』の真名である。


 雅也はドロップアイテムを拾い上げ立ち去った。



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― 新着の感想 ―
ルビがかっこよw
[良い点] 良いね♪
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