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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
306/313

scene:305 火星のマリネリス峡谷

 アメリカのアトロポス号から緊急通信が入り、宇宙船内で火事が起きたと分かった。アトロポス号もマナテクノ製のメルバ送電装置を使って地球から電力の供給を受けている。


 だが、メルバ送電装置で電力を送れない場合に備え、大きなバッテリーを搭載していた。そのバッテリーから火が出たという。


 大型宇宙船サガミにも大きなバッテリーが搭載されているが、これはマナテクノとバッテリーメーカーが共同開発したもので、宇宙環境でも故障や火事を起こさないように改良されていた。アメリカは宇宙船の開発を急いだので、何か見落としがあったのだろう。


「聖谷常務、どうしますか?」

「ここは織田船長の判断に任せるよ」

 織田船長は修理が可能かどうかをアトロポス号に確認した。

「修理は難しいようです。乗組員をサガミに移します」


「自分たちで移れそうなのか?」

「訓練を受けている宇宙飛行士です。大丈夫でしょう」


 サガミが軌道修正してアトロポス号に近付いた。五十メートルほどまで近付いたサガミから、ロープを持ったドローンが射出され、アトロポス号まで飛ぶと船体に張り付いた。


 ブリッジのメインモニターにアトロポス号の姿が映し出される。アトロポス号のハッチが開いて宇宙服を着たアメリカ人が出てきた。


 六人の宇宙飛行士がドローンが張ったロープを伝ってサガミまで移動する。その六人がエアロックを通って船内に入ってきた。雅也と織田船長、それに三人の乗組員が出迎え、一応ボディーチェックを行う。サガミに武器の持ち込みは認められていないのだ。


 織田船長がアメリカ人の一人に目を向けた。

「カヴィル船長、何が起きたか話してくれ」

「まずは受け入れて頂き感謝します。それで事故の原因なのですが、操縦システムの電源として使っていたバッテリーが、急に高温になって発火したようです」


 根本的な原因は分からないらしい。

「ところで、ドイツのフレイヤ号はどうしたんです?」

 雅也はアトロポス号が事故を起こした時に、一番近くを飛んでいたフレイヤ号について尋ねた。


 カヴィル船長のこめかみがピクリと痙攣した。

「ドイツ人は速度を落とすことを嫌がったのです」

 一度速度を落とせば、その遅れを挽回することは難しい。ぎりぎりで予定を組んでいるドイツ人たちは、そんな余裕はないと救助に向かわなかったのだろう。


 事情は理解できるが、見捨てられたアメリカ人たちが納得できる訳がなかった。アトロポス号の乗組員たちからドイツ人たちへの罵倒(ばとう)が飛び出した。


 それが落ち着いたところで、織田船長がカヴィル船長たちに使わせる部屋をどうするか話し始めた。

「我々も一緒に火星へ連れて行ってもらえるんですか?」

 カヴィル船長が確認した。

「ここまで来てしまうと、引き返す訳にはいかないからね」

 織田船長がサガミでのルールを説明した。


 カヴィル船長たちには予備の部屋を使ってもらうことになった。彼らが落ち着いた頃、雅也と織田船長は彼らの部屋を訪ねた。


「カヴィル船長、少し話があるのですが?」

「何でしょう?」

 雅也たちはカヴィル船長を別の小部屋に案内した。


「アトロポス号の着陸予定地がマリネリス峡谷だと聞いたのですが、どうしてマリネリス峡谷なのです?」

 雅也がカヴィル船長に尋ねた。

「こういう状況になってしまったので正直に話しますが、ドイツがマリネリス峡谷に不時着したフェシル人の船を調査しようと計画しているのを突き止めたのです」


 雅也はうんざりしたような顔になる。

「それでアメリカもということですか?」

「そうです」

「マナテクノ、いや日本は警告したはずです。あそこはフェシル人の墓地になっています。そこを荒らすようなことをすれば、フェシル人が現れて罰を与えるかもしれないのですよ」


 カヴィル船長が雅也に鋭い視線を向けた。

「そう言っているのは、日本だけです。我々は月の裏側にある円柱に刻まれた文章の解読に成功していません」


 アメリカとドイツは日本の警告を疑っていたようだ。

「まずいな。このままだとドイツ人が、フェシル人の墓を荒らしてしまう」

「聖谷常務、どうしますか?」

「ドイツ人を止めたいが、サガミで追い付けますか?」


 織田船長が残念そうな顔をする。

「今回、スピードを落としてアトロポス号に並びました。その遅れを取り戻すだけでも、ギリギリです」


「乗客が居るのだから、無理はできないか」

「ええ、それに急いだとしても、追いつけるかどうか分かりません」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 アトロポス号が事故を起こしてから二十日が経過した。救助より火星行きを優先したフレイヤ号は、順調に火星に近付いていた。


 手が届くところに火星があるということを実感したドイツ人たちは、着陸の準備に入る。

「ヒルトマン船長、着陸地点は本当にマリネリス峡谷でよろしいのですか?」

 副長のザンデルが確認した。


「政府が決定したことだ。今更変えることはできない」

「しかし、マナテクノは警告しています。あの警告が本当だったら、大変なことになりますよ」

「分かっているが、その警告文自体が非常に古いものだと判明している」


 月の裏側に円柱を立て警告文を刻んだのは、千年以上前のことだと分かっていた。警告文が正確なものだったとしても、すでに千年以上経っているので意味を失っているとドイツ政府は考えていた。


 そして、ドイツのフレイヤ号は火星のマリネリス峡谷に着陸した。



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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
文章の解読内容は信じないのに、千年以上前のことだというのは信じるんだ。 よく言う信じたいことだけを信じるというやつだね。
[一言] 更新ありがとうございます。次回も楽しみにしてます。
[一言] フェシル人から見て地球人の人種の違いが、しっかり判別されて区別されるなら良いけど、区別つかなくて雑に地球人として扱われると不味いでしょ……
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