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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
305/313

scene:304 出発

 もう少しで大型宇宙船サガミが完成するという頃、アメリカとドイツが開発していた長距離航行宇宙船が完成した。


 それを聞いたマナテクノの社員は悔しがっていた。雅也と神原社長は火星へ一番乗りということには拘っていなかったので騒がなかったが、社員たちの中には酒を飲んで盛大に愚痴った者が居たようだ。


 確かに一番乗りという名誉は逃がすかもしれないが、商業用宇宙船で火星へ一番乗りという名誉はサガミのものになるだろう。


 それから一ヶ月後、大型宇宙船サガミが完成した。そして、火星への出発準備が始まる。その準備をしている間に、ドイツとアメリカの宇宙船が火星へ向けて出発した。


 マナテクノは万全の準備を完了してから出発の日程が決まった。最初に計画した頃は、神原社長や小雪と一緒に火星へ行こうと思っていた雅也だったが、神原社長は大きくなった会社を放置して出発することが難しくなった。


 また小雪は妊娠したことが分かり、雅也だけが火星へ行くことになった。神原社長に見送られて大型宇宙船サガミに搭乗した雅也は、自分の部屋に向かう。


 ここは小惑星ディープロックの造船ドックである。まだ宇宙港の施設が未完成なので、この造船ドックが仮設の宇宙港として使われているのだ。


 サガミは全長百八十メートルの大型船である。乗客一人ひとりに個室が用意されており、雅也の部屋はブリッジに近い個室だった。


 そこに荷物を置いた雅也は、ブリッジに行った。ブリッジではパイロットや機関長が最後の点検をしていた。

「オールグリーン、問題ありません」

 機関長がチェックして船長の織田(おだ)信満(のぶみつ)に報告した。織田船長は頷いて仮設宇宙港の管理センターに報告する。


「織田船長、順調か?」

 雅也が声を掛けると、織田船長がニコッと笑う。

「ええ、何度もテストしましたからね。それに聖谷常務が一緒だと心強いです」


 雅也が持つ収納空間には、火星基地を建設する資材やサガミが故障した時の修理用部品などが山ほど保管されているのだ。


 一昔前までは、有人宇宙船が火星まで飛んで戻ってくるには、一年以上掛かると言われていた。だが、動真力エンジンとメルバ送電装置を使って旅の間ずっと加速と減速を行うと、三ヶ月で往復できるとマナテクノでは計算している。


 今回の火星旅行には様々な学者や研究者が参加している。その中の天体物理学を研究している御厨(みくりや)教授と雅也は親しくなった。


「御厨教授、火星のマリネリス峡谷は、どのような場所ですか?」

「火星の赤道に沿って伸びる巨大な峡谷ですな。長さは四千キロ、深さは七キロに達し、幅は最大二百キロもあります。太陽系でも最大規模の峡谷です」


「広いな」

「マリネリス峡谷がどうかしたんですか?」

「アメリカとドイツの宇宙船の着陸地点です」

「なぜマリネリス峡谷なのでしょう?」

「フェシル人の船が不時着した場所が、マリネリス峡谷だと両国は考えているようなのです」


 御厨教授が考え込んだ。

「どうしてアメリカとドイツは、不時着したのがマリネリス峡谷だと、分かったのでしょう?」

「アメリカと欧州宇宙機関は、火星探査計画を進めていましたから、それで何か発見があったのかもしれません」


「そうだとすると、何を発見したのでしょう?」

「フェシル人の船の残骸かな」

「まさか、両国はフェシル人の墓へ行くつもりなのでしょうか?」

「まさか。我々が警告している。ただ本当に地球人以外の知的生命体が居るのか、確認したいのでしょう」


 確認したいだけなら、墓に行かずに近くから観察すれば良い。

「おっと、出発の時間です」

 御厨教授の声で、雅也たちはブリッジの後部にある高加速チェンバーの座席に座った。高加速チェンバーはサガミが出発時などに大加速で飛行する時に搭乗客が入ってGに耐える場所なのだ。


 サガミでは毎日規則的に出力を上げる時間が決められており、その時間になると高加速チェンバーに入ってGに耐える事になっている。


 船内放送で出発のカウントダウンが始まった。

「5、4、3、2、1、発進します」

 加速を感じ、雅也の身体が特別製の座席に押し付けられる。それに耐えてしばらくすると、加速が一Gになった。サガミはその加速を続けながら火星に向かった。


 順調に航行するサガミは、搭乗客に快適な旅を提供できるように造られている。食料は米と小麦、蕎麦を常温保存、野菜や肉類などは冷凍保存している。また、レトルト食品などの保存食も大量に積んでいた。


 水は大量に積んでいるが、大部分の水は再生して再利用している。それに加えサガミは客船なので、アルコールも積んでいた。


 サガミでの航行は快適な船旅となった。但し、定期的に高加速度に耐えるという苦行がある。サガミはアメリカとドイツの宇宙船を追うように飛んでいる。


 雅也は朝起きて食堂で朝食を食べてからブリッジに行って問題がないか確認するという事が習慣となった。ブリッジで問題ない事を確認した後、雅也は娯楽室へ行った。


「聖谷さん、アメリカとドイツの船はどちらが先を飛んでいるのです?」

 御厨教授が雅也を見付けて声を掛けた。


「今はアメリカのようです」

 サガミからの観測では、僅かにアメリカの宇宙船アトロポス号が先行している。追い掛けているドイツの宇宙船フレイヤ号とデッドヒートを繰り広げているようだ。


 二つの宇宙船は同じマナテクノのエンジンを積んでいるので、基本的な性能は一緒である。完成がほとんど同時だったので、出発時刻も同じだった。アメリカとドイツで出発時刻を同じにしようと決めたらしい。二国だけでレースをしようと取り決めたようだ。


 その時、娯楽室に船長が入ってきた。

「聖谷常務、アメリカのアトロポス号に何かあったようです」

「どういう事だ?」

「たぶんバッテリー関係で問題が起きたのだと思います」

 雅也は急いでブリッジに向かった。



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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。次回も楽しみにお待ちします。
[良い点] …(; ・`д・´)同行保守サービスお疲れ様です!(マテ [一言] …(; ・`д・´)さ〜て〇いざ〜は(歌わない)
[一言] バッテリー?そーいえばアメリカとドイツはメルバ送電装置は使っているのかな?
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