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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第1章 明晰夢編
30/313

scene:29 アメリアたちの成長

感想・ブクマ・評価を頂きました。

ありがとうございます。

感想に関しては返信する時間がなく、ネタバレに該当しない質問にだけ返信しております。

ご容赦ください。

 慰労会が終わり、普段の日々が戻った。デニスはアメリアたちを鍛えることを再開する。翌朝、三人にどんな迷宮探索者になりたいか確かめた。


 フィーネは剣士になりたいらしい。ヤスミンは真名術をたくさん覚えて支援要員に、アメリアはデニスのような戦士になりたいという。


 フィーネとヤスミンは希望を叶えてやれそうだが、アメリアはちょっと困った。デニスとアメリアでは体格が違う。アメリアは剣より薙刀のようなものを武器にした方が良いと思っていた。


 そのことをアメリアに話す。

「ナギナタって、どんな武器なの?」

「そうだな。剣に長い柄が付いている武器だよ」

「槍とは違うの?」


「槍は突くための武器だけど、薙刀は斬るための武器なんだ」

 デニスは地面に絵を描いて説明した。

「でも、こんなに柄が長いと使い難いと思う」


 迷宮には狭い場所もあるので、長柄の得物は不向きなのだ。そこを考慮して柄を短くすると、薙刀というより長巻ながまきのような武器になる。


 長巻は日本刀の柄の部分を刀身と同じほどの長さにした武器である。非力な者でも重い刀を振り回せるという利点がある。


 デニスが長巻の説明をすると、フィーネたちまで興味を示した。

「じゃあ、鍛冶屋のディルクに試作してもらおう」


 デニスはディルクに説明して、長巻を作ってもらうことにした。ただディルクに刀を作る技術はない。刀身の部分は、両刃のショートソードのようなものになるだろう。


 武器の製作を依頼してから迷宮へ向かう。迷宮の一階層にある小ドーム空間からスライムを一掃した。

「デニス兄さん、今日からは何をするの?」

「アメリアたちには、『雷撃』の真名を手に入れてもらう」


 アメリアたちが首を傾げる。『雷撃』の真名が得られるカーバンクルは、五階層にいる魔物だからだろう。

「カーバンクルの王様のような奴を倒して、『召喚(カーバンクル)』の真名を手に入れた。ここでカーバンクルの召喚ができるんだ」


「すご~い」「さすが、デニス様」「いいぞ、大将」

 最後に言ったフィーネは、ヤスミンからどつかれた。


「でも、召喚したカーバンクルは味方じゃないのですか?」

 ヤスミンは魔物でも味方を攻撃するのに抵抗があるようだ。


「心配しなくてもいい。僕が召喚しても、魔物は魔物だ。こちらで制御しなければ襲ってくる」

「そうなんですか。だったら頑張ります」


 ヤスミンが納得したところで、デニスはカーバンクルの召喚を始めた。召喚したカーバンクルの姿が現れると、アメリアたちの戦いが始まる。


 デニスはカーバンクルの雷撃球攻撃だけをやめさせるように制御した。さすがに雷撃球攻撃を使われたら、アメリアだけでは太刀打ちできなかったからだ。

 アメリアたちは、ネイルロッドでカーバンクルをボコボコにした。


 一匹倒すと次のカーバンクルを召喚する。その繰り返しで一日が終わった。アメリアが『結晶化』の真名を手に入れたが、肝心の『雷撃』は誰も手に入れられなかった。


 一日置いて二日目。フィーネが『雷撃』の真名を手に入れた。三日目にアメリアとヤスミンが手に入れる。そして、四日目からは雷撃球の真名術を使う訓練が始まった。


 アメリアたちが雷撃球攻撃を習得するのに一〇日が必要だった。デニスも雷撃球攻撃の訓練に参加。デニスは雷撃球の威力を自在に変えられたが、アメリアたちは変えられないようだ。


 真力の元が魔源素か魔勁素かで何かが変わるのだろう。アメリアたちが放つ雷撃球は、真力3の雷撃球と同等の威力があるようだ。


 その頃にアメリアたちの武器が完成した。長巻なのだが、少し変わっている。刀身が刀ではなく両刃の剣であり、柄の部分が槍の柄に近い。


 突きには便利だが、斬る場合は刃の向きが分からなくなる。そこで柄の先端二〇センチほどを刀の柄のような形状にした。


「これが長巻なんですか」

 デニスの精神に潜んでいる雅也が、こんなのは長巻じゃないと訴えた。だが、結局これが長巻として定着してしまった。


 アメリアたちは、雷撃球攻撃と長巻により三階層の赤目狼を撃破して、『嗅覚』の真名を手に入れた。そして、四階層の鎧トカゲに戦いを挑んだ。


 雷撃球攻撃の一斉攻撃で鎧トカゲを弱らせ、その弱点である喉を突き刺して仕留めるという戦術を編み出すまでは、散々苦戦した。


 だが、一ヶ月で『装甲』を手に入れ、五階層へ進む。『装甲』を手に入れたアメリアたちにとって、五階層は簡単だった。


 当面の目標である五階層をアメリアたちが攻略したことで、迷宮探索者を育成するノウハウが手に入った。デニスは、エグモントと相談し従士を中心にベネショフ領の兵士を鍛え直すことにした。


 ベネショフ領にも従士や兵士が存在する。しかし、今のベネショフには存在しないように見える。耕作地の拡大を優先したエグモントが、兵士たちに開墾作業をさせているからだ。


 開墾作業に従事している従士は四人、兵士は三五人である。エグモントは開墾作業を中止させ、デニスの指示に従うように命じた。


 デニスは従士と兵士を屋敷の庭に集めた。その先頭にはデニスとカルロスが立っている。カルロスは兵士たちが不満そうな顔をしているのに気づいた。

「どうした。なぜ不満そうな顔をしている?」


 兵士の中で一番年長のロルフが代表して口を開いた。

「ここ数年、俺たちは困難な開墾作業に従事してきました。それなのに、この前の慰労会に俺たちは参加させてもらえませんでした」


 カルロスが呆れたような顔をする。

「馬鹿もん、そんなことでへそを曲げるな」


 デニスが前に出た。

「酒が飲みたいなら、一ヶ月の訓練期間が終わった後に、たっぷりと飲ましてやる」

「俺たちは酒が飲みたいと、文句を言っているわけじゃないんです。ただ数日手伝っただけの連中に慰労会を開くのなら、俺たちのことも考えて欲しかっただけです」


 デニスは兵士たちの心にストレスが溜まっていることに気づいた。開墾作業の苦労をねぎらい、訓練を開始する前に、一度慰労会を開くことにした。


 慰労会には従士と兵士の家族も招いた。一晩騒いだ兵士たちは、少しいい顔になったようだ。

 その日から、訓練が始まった。兵士たちには『魔勁素』『装甲』『雷撃』の三つの真名を手に入れることを目標に訓練をする。


 その訓練を、アメリアたちに手伝ってもらう。命がけの訓練なので、兵士の中には怯えたり不満を口にする者も現れた。


 だが、アメリアたちが淡々と魔物を倒すのを見て、何も言えなくなる。こんな少女たちにできることが、自分たちにできないとは言えない。


 予定通り一ヶ月で従士と兵士は、三つの真名を手に入れた。訓練が終わった兵士たちには、たらふく酒を飲ませねぎらう。


 訓練が終わり、兵士たちが鍛え直されたのは喜ばしいのだが、兵士たちの中にアメリアたちを神聖視する者が現れたのには計算外だった。


 しかもアメリアたちの武器である長巻に興味を示し、長巻を鍛冶屋に注文する者も現れた。


 エグモントとデニスが兵士の訓練を急がせたのには理由がある。王都近くにあるダリウス領で内戦が起こった。ダリウス領の領主一族であるウルダリウス家の兄弟が次期領主の座を争い戦ったのだ。


 戦いは長男ハーゲンの勝利に終わったのだが、負けた次男ダミアンが敗残兵を率いて野盗になった。厄介な状況である。即座に、国王はウルダリウス公爵に討伐を命じた。


 その命を受けた公爵は、ハーゲンに討伐軍を編成させ、野盗がアジトにしたミロス山に向かわせた。しかし、アジトはもぬけの殻で、ダミアンたち敗残兵は西へと逃げたという。


 ダミアンたちは『ダミアン匪賊団』と名乗り、街道沿い村や町を荒らしながら西へと向かったという知らせが、各地の領主に届いた。


 ダミアン匪賊団は各地の山などに隠れながら西へと移動。ベネショフ領から遠くないミンメイ領の村々が襲われたという情報が、デニスたちの耳にも入ってきた。


 その頃、バラス領の従士マヌエルは部下二人と一緒に、ダミアン匪賊団が隠れていると噂のある山間を探索していた。


 突然、マヌエルたちの前に薄汚れた男たちが現れた。その男たちは剣をマヌエルに突きつけた。

「何者だ?」

 マヌエルは男たちを値踏みするように見てから、

「ダミアン匪賊団の方ですか。頼みたいことがあって探していた者です」



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【書籍化報告】

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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] 良いね♪
[一言] 成る程こいつらを使って邪魔しにくるのか
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