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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
296/313

scene:295 天空の一撃

 デニスはクワイ湖の(ほとり)にある改築中の造船所を視察に行った。ベネショフ領が買い取ったクワイ湖の造船所は、小さな船しか造れない造船所だったが、全長三十五メートル、排水量三〇〇トンほどの船を建造できるように改造しようとしていた。


 造船所を視察して、後一ヶ月ほどで完成すると確認すると、デニスはホッとした。カエルの旧迷宮主との戦いで予定が遅れていたのだ。


「デニス様、ミモス迷宮の旧迷宮主は、いつ出て来るのでしょう?」

「さあ、それは僕にも分からない。でも、大丈夫だ。我々が倒すよ」

 我々というのは、王家及び貴族たちのことだ。


 デニスが視察を終えて屋敷に戻るために、湖の近くにある常緑樹の林を通り抜けようとしていた時、殺気を感じて装甲膜を展開する。


 その瞬間、後方から首を狙って投げナイフが飛んで来た。宝剣緋爪を抜きながら振り返り、投げナイフを緋爪で真っ二つにする。


 木の陰に暗殺者の姿を認めたデニスは走り出す。初撃で失敗した暗殺者は、逃げようとした。人として最速に近いスピードで逃げ始める。デニスは『雷撃』の真名を使って雷撃球を放った。


 その気配に気付いた暗殺者は、身体を地面に投げ出して避けた。デニスは『怪力』の真名を使って全身の筋力を強化すると、追い駆け始める。そのスピードは人間離れしたものだった。


「止まれ!」

 従うはずないと分かっていて言ってしまう言葉がある。暗殺者が止まるはずもなく、デニスは『豪火炎』の真名を使って豪炎球を放った。


 豪炎球が暗殺者の足元に命中して、爆炎を周囲に撒き散らす。そのせいで暗殺者は吹き飛ばされたが、素早く立ち上がって走り始める。何か防護用の真名を使っているのかもしれない。


「何か違和感があるな。誘導されている気がする」

 デニスは前方に目を凝らす。すると、何かの包みが前方の木の幹に縛り付けられているのを見付けた。


「チッ、罠か?」

 デニスが急停止しようとした瞬間、暗殺者が地面に身を伏せた。その直後、周囲の木々に設置されていた爆弾が爆発しデニスの身体を宙に舞わせた。


 デニスがドサリと倒れると、無表情な暗殺者がデニスの生死を確かめようと近付く。暗殺者に隙はなかった。だが、デニスがピクリとも動かない様子を確かめてナイフを振り上げた時、隙ができた。


 デニスが暗殺者の右膝を蹴って、瞬時に立ち上がる。暗殺者は一瞬だけ顔をしかめたが、無表情に戻って後退する。その時には、暗殺者が使っていた真名術が解除されていた。


 それをデニスが追って踏み込み、鳩尾(みぞおち)に前蹴りを叩き込む。暗殺者の足が止まり、そこに宝剣緋爪を袈裟懸けに胸へ振り抜く。暗殺者の胸から血が吹き出し倒れた。


「こいつ何者だ?」

 デニスは生死を確かめ死んでいる事が分かった。持ち物を調べたが、手掛かりになるものはない。

「今頃命を狙われるというと、ラング神聖国しかあり得ないな」


 デニスは人を呼んで暗殺者の遺体を城まで運んだ。軍務卿に連絡すると、コンラート軍務卿自身が現れる。


「デニス殿、怪我はありませんか?」

「装甲膜を展開したので、怪我はありません。ただ驚きました」

「そうでしょうな」


「ラング神聖国からの刺客でしょうか?」

 軍務卿は難しい顔で、暗殺者の遺体をみつめ頷いた。

「それしか考えられませんな。これも戦争準備の一つなのでしょう」


 デニスは怒りを覚えた。旧迷宮主が出て来るかもしれないという時期に、戦争を仕掛けることが信じられなかった。ラング神聖国の教皇は、ゼルマン王国が伝えた警告を信じていないのだろうか?


 それから数日後、ラング神聖国の船団が出港した。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ラング神聖国の遠征軍を率いるのは、エッカルト・クライバー聖騎将だった。そして、船団の指揮はクラッセン提督である。


「提督、予定通りに到着しそうですか?」

 クライバー聖騎将が尋ねた。

「はい、予定通りです」

 聖騎将はゼルマン王国がある方角に視線を向ける。


「ん? あれは何だ?」

 声を上げた聖騎将の視線の先に、奇妙なものが空に浮かんでいた。尋ねられたクラッセン提督も、その奇妙なものを見て首を傾げる。


「鳥ではないようですな」

 ラング神聖国の船団に乗る多くの者が空を見上げていた。そして、その奇妙なものが近づいてくる。その数は十二個ほど。船団の上空まで来た時、奇妙なものがピタリと止まる。


 ジッと見ていた聖騎将は、その奇妙なものが乗り物だと気づいた。

「気を付けろ! ゼルマン王国の乗り物だ。真名術が使える者は攻撃しろ!」

 聖騎将の声で、何人かの兵士が爆炎球や雷撃球を放った。


 それらの攻撃は正体不明の乗り物に届かなかった。その時、聖騎将が上空から背筋が凍るような圧迫感を感じた。これは敵の攻撃だ。


「敵の攻撃が来るぞ!」

 聖騎将でも警告を発することしかできなかった。

 次の瞬間、雲一つなかった青空に黒い雲が湧き始めた。その黒雲は短時間で上空を埋め尽くし、渦を巻き始めたかと思うと、巨大な柱となってラング神聖国の船団に落ちてきた。


 それは神の鉄槌となって船団を叩き潰す。黒雲の渦の真下にあった船は、一瞬で破壊されてバラバラになり、その周囲を航行していた船は渦に巻き込まれて上空へと持ち上げられ、空中に投げ出された。


 空中に投げ出された船の中では、兵士たちが断末魔のような悲鳴を上げた。海面に叩き付けられた船は、ガラス細工のように壊れる。


 聖騎将の乗っている船は船団の後方に位置していたので、黒雲の渦に直撃されることはなかったが、衝撃で高波が起こり激しく揺すられた。


 その一撃で九隻の船が沈んだ。聖騎将は青褪めた顔で、近くの岸に乗り上げ上陸するように命じる。船団は一斉に陸を目指して進み始めた。



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
>「止まれ!」 >従うはずないと分かっていて言ってしまう言葉がある。 >暗殺者が止まるはずもなく、デニスは『豪火炎』の真名を使って豪炎球を放った。 「言霊」を使う余裕が無かったのか、意識に上らなかっ…
[気になる点] 言霊で止まれって言えばよかったんじゃ…
[一言] もう統率は取れないだろうな、ここで主力を 失えば迷宮主の対応もできない、終わったな。
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