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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
295/313

scene:294 ラング神聖国の港

 フォルタン教皇が刺客として選んだのは、『顔無しのキノク』という暗殺者だった。キノクは変装術の名人で、様々な人物に化けて暗殺を成功させている凄腕だという。


 暗殺した中には他国の王も居るらしい。それほど凄腕ということになる。デニスの暗殺を依頼した教皇は、ゼルマン王国に攻め入る準備を本格化させた。


 多数の兵員輸送船を建造したラング神聖国は、ゼルマン王国の海岸線を占拠して、そこから内陸部へ侵攻しようと考えていた。


「教皇陛下、ゼルマン王国の精鋭兵は強敵です。その対応はどうされるのでございますか?」

 教皇の侍従長が尋ねた。

「我が国の最強部隊を出す」

「まさか、教皇陛下の直属部隊でございますか?」

「そうだ。直属親衛隊をゼルマン王国へ送る」


 直属親衛隊というのはラング神聖国の最強部隊であり、教皇の護衛部隊なのだ。なので、今まで一度も教皇の傍から離れることはなかった。


 その直属親衛隊をゼルマン王国へ送るという教皇の本気度合いを感じて、侍従長は気を引き締めた。


「攻め込む地点は、決まったのでございますか?」

「ロウダル領の東にある漁村を狙っている。あそこはゼルマン王国の王都にも近いし、一度占領すれば守りやすい」


 ゼルマン王国が気付かない間に、調査が進んでいたようだ。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 デニスはラング神聖国を調査することを国王に提案した。

「今の時期に、ラング神聖国へ人を送り込むのは危険だ」

 ラング神聖国も警戒している時期なので、密偵を送り込めば捕まる恐れが大きい。


「密偵を送り込めば、そうでしょう。ですが、私が知りたいと思っているのは、ラング神聖国の港にある船の数です」


「ゼルマン王国の船が、ラング神聖国の港に近付くのも難しいぞ。どうしようというのだ?」

「空神馬車を使って、空の上から調べるのです」

「だが、空神馬車の航続距離では、ラング神聖国の港まで飛べないのではないか?」


「港の近くまでは船で行って、その船から飛ばせばいいでしょう」

「なるほど、可能だな」

 国王は軍の斥候部隊に、ラング神聖国の偵察を命じた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 国王に命じられた斥候部隊のクレマン隊長は、王家の空神馬車を預かり船でラング神聖国へ向かった。

「こんな偵察は初めてじゃないですか?」

 部下のダロンドが尋ねた。


「まあな。それにこんな方法で偵察できるのかも疑問だ」

「しかし、あの空神馬車に乗って、ラング神聖国の奥まで行けるそうですよ」

 ラング神聖国の港が近付いてきたので、クレマン隊長は船を止めて空神馬車を発進させる準備を始める。


 空神馬車へ乗るのは、クレマン隊長と目が良いダロンドである。甲板から周囲を見回すと、ラング神聖国の船は見えない。二人は空神馬車に乗って飛び上がった。


 そのまま高度百メートルほどまで上昇した空神馬車からダロンドが下界を見下ろす。

「隊長、凄い眺めです」

「そうだろうな」

 そう言ったクレマン隊長が空神馬車を港へ近づける。


「隊長、見えました。船です」

 ダロンドが船を数えクレマン隊長に報告する。それを聞いたクレマン隊長は顔を強張らせた。予想していたより船数が多かったのだ。


「これはヤバイかもしれない」


 その頃、下の港では上を見上げる人々が居た。

「あれは鳥か?」

「雲じゃないのか」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その偵察の結果、兵が三百人ほど乗れそうな船が五十隻ほど港に停泊していた、とマンフレート王へ報告が上がった。

「三百人が乗れる船が五十隻か。総勢一万五千の兵を運べるな」

 本気で攻め込もうとしているのが分かる数だった。


「コンラート軍務卿、どう考える?」

「ラング神聖国は、本気で我が国を攻め落とそうと考えているのでしょう。具体的な上陸場所が分からないと、守る側が不利です」


 上陸場所が分からないので、ゼルマン王国側では海岸線の重要箇所を重点的に守ることになる。国王はロウダンの港町や大きな宿場町に兵を入れ、防御を固めさせた。


 それでも不安になった国王は、一度ベネショフ領へ戻ったデニスを王都へ呼び戻した。呼ばれたデニスが空神馬車に乗って王都へ到着すると、すぐに登城せよという命令が待っていた。


 デニスが白鳥城へ登城すると、国王が待つ会議室へ案内される。

「陛下、ラング神聖国に動きがあったのでしょうか?」

「あの国の港に停泊している船に、荷物を積み始めたのだ」

「なるほど、水や食料、それに武器の類でしょう。攻め込んでくる日が迫っているということでございますね」


「そうだ。そなたが持つ真名を使って、敵に大きな打撃を与えられぬか?」

 デニスが迷宮主や旧迷宮主から手に入れた真名は、『天撃』『界斬』『煉掌』『跳空』『次元隙泡』などである。その中で『界斬』の使い方は分かっていない。


 しかし、『天撃』の真名を使えば、敵船団に被害を与えられそうだとデニスは考えた。但し、実際に船舶に対して使ったことがないので、どれほどの威力を発揮するか分からない。


「敵船に打撃を与える真名を一つだけ持っております。ただ結果は分かりません」

「それでも構わん。少しでも敵兵を削れる手段が欲しいのだ」


 デニスは当分の間、王都の屋敷で待機することになった。王都にあるブリオネス家の屋敷で生活を始めたデニスは、周囲の人々から注目されることになる。


 それらの人々は好意的な目でデニスを注目していたが、中には例外もあり敵意のある目で監視している者も居た。それはラング神聖国から来た刺客だった。


 暗殺者のキノクは、デニスの屋敷を見張りながら暗殺の機会を待っていた。そして、デニスが一人でクワイ湖へ向かうのを見てチャンスだと判断し、尾行を始める。



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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[一言] 殺気が駄々漏れではあまり有効そうではないなぁ。 ここでつまづいたりはしないと思いたい。
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 敵意を含む目で見ていては暗殺者失格。 直前まで何かを感じさせてはいけないかと。
[気になる点] 偵察で船がいる所まで安全に接近できているのに被害が少なくなる先制攻撃をせずわざわざ待ち受けて被害が拡大するメリットは? [一言] 空からなら特定も困難なためメリットは多いはずだが?
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