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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
292/313

scene:291 ロシアと小惑星

 中国の太陽光パネルの生産に問題が起きていると聞いた雅也は、小惑星工場で太陽光パネルを製造できないかと考えた。小惑星工場というのは、小惑星ディープロックに建設された工場のことである。


 太陽光パネルの原料となるシリコンや各種金属は、小惑星ディープロックで採掘できるので材料を運び上げるという手間は要らない。


 それに重力のない宇宙空間の方が、高品質の太陽光パネルができるという可能性もあるのだ。雅也は小惑星工場で太陽光パネルを実験的に作らせることにした。


 実験の結果、想像以上に高品質の太陽光パネルが製造できることが分かった。マナテクノでは宇宙太陽光発電システムに使う太陽光パネルを小惑星工場で製造する計画を立て、製造工場の設計を開始する。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その頃、ヨーロッパでは不穏な動きが起きていた。ロシア軍がベラルーシに入り、ポーランドへ向かっているという情報が入ったのだ。


 ポーランド軍のタニスワフ将軍は、北大西洋条約機構を経由して入って来るロシア軍の動きをチェックしていた。


「ロシア軍は本気で、我が国に攻め込むつもりなのか? ロシアのコマロフ大統領は何を考えているのだと思う?」


 将軍から質問を受けた参謀本部のユリジノフ大佐は、渋い顔をする。

「ロシア軍が本気で攻めて来るとは、思えません。ただ明確な目的があって行動していると思われます」


 ロシア軍はポーランドの国境付近まで来てから、ポーランドに新しく建設された宇宙港へ襲い掛かった。その宇宙港には試験中の小型起重船があったのだが、それを奪うとベラルーシ領内に戻っていったのである。


 これにはポーランドもヨーロッパ各国も驚いた。タニスワフ将軍は、首都防衛に軍事力の多くを注ぎ込んだので、肩透かしを食らった格好になった。


 ポーランドはロシアに対して強烈に抗議した。しかし、ロシアが小型起重船を返すことはなかった。ロシアは軍が行ったものではなく、テログループの仕業だと言い張ったのだ。


 ポーランドの小型起重船を持ち帰ったロシア軍は、徹底的に調べさせた。その報告がコマロフ大統領に届く。


「その小型起重船を、我が国で作ることはできるか?」

 コマロフ大統領の問いに、宇宙工学の権威であるラザニフ博士が首を振る。

「無理です。肝心の動真力エンジンが製造できません」


 大統領が苦い表情を浮かべ、日本への呪いの言葉を吐いた。

「日本の奴らめ、ロシアだけに動真力エンジンを売らんとは、けしからんと思わんか?」

「もちろん、そう思います」


 日本に対してロシアの原潜がミサイルを撃つなどの戦争行為をしたのだから、日本が売るはずがないとラザニフ博士は思ったが、正直に答えることはなかった。


「仕方ない。この小型起重船を使って、小惑星を捕まえることはできるか?」

「地球に接近した小さなものなら、可能だと思います」

「どれくらいのものなら、捕獲できるのだ?」


「その小惑星の速度や飛行方向にもよります」

「ならば、できるだけ大きな金属か岩石で出来ている小惑星を捕まえるのだ」


「承知いたしました」

 何に使うのか不安になったが、逆らうことはできない。ラザニフ博士は小型起重船を整備して、いつでも出発できるようにした。


 ラザニフ博士は、コマロフ大統領が何を考えているのか理解できなかった。そして、地球に金属小惑星が近付いた時、大統領が捕獲命令を出した。


 ロシア軍に所属する宇宙飛行士たちが、小型起重船『ノヴィコフ』に乗って宇宙に旅立つ。ロシアのノヴィコフ号が目標とする金属小惑星は、最大幅が十二メートルほどの小さなものである。


 宇宙飛行士たちは小惑星と接触し、用意された連結装置を使って船と小惑星を固定すると、その速度と軌道を制御し始めた。その軌道がゆっくりと地球の方向に代わり、地球の軌道と接触しそうなほど近くに運んだ。


 その様子は地球上でも観測されていた。不安になった各国政府は、各国の軍関係のトップがテレビ会議システムを使って話し合う事にする。


「菊野大臣、日本の太陽光発電システム『JSP1』から、ロシアの宇宙船が観測できるのではないですか?」


 アメリカのテレパス国防長官が質問した。

「はい、マナテクノが観測しており、その様子を公開します」

 菊野大臣が合図すると、宇宙空間でのノヴィコフ号の様子と、連結している小惑星が映し出された。それを見た各国の軍のトップは顔をしかめる。


 ロシアが使っている宇宙船は、明らかにポーランドから盗まれたものだったからだ。

「コマロフ大統領は、何をする気なのでしょう?」

 菊野大臣が質問する。


「まさか、あれを地球に落とすつもりではないでしょうな?」

 イギリスのマカリスター国務大臣が不安そうな顔で言う。

「ロシアは戦争を引き起こすつもりなのか?」


 日本のJSP1からの映像を見ていて、時々ノヴィコフ号が変な動きをするようになったのに、各国の代表が気付いた。

「ノヴィコフ号は何をしているのだ?」

 菊野大臣がマナテクノに問い合わせる。

「小惑星とノヴィコフ号を連結している装置に、何か不具合が起きているようです」


 テレビ会議に出席している軍関係者が顔色を変えて、ノヴィコフ号の映像を見詰める。その時、連結装置が壊れた。結果として、自由になった小惑星は、地球の重力に捉えられ落下を始めた。


「何をしているんだ!」

 テレパス国防長官が怒鳴り声を上げる。

「落下軌道は計算できますか?」

 菊野大臣がマナテクノに確認した。


「可能です。少しお待ちください」

 五分ほど菊野大臣が待った時、マナテクノから返事が来た。

「大変なことが分かりました。このままでは東欧からロシアの地域に落下する可能性が高いようです」


 その情報が広まると、大騒ぎとなりテレビ会議は中止された。



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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] 隕石はこのあとスタッフ(マナテクノ)がキャッチして美味しく頂きました ロシアが文句言ってきてももう遅い!
[一言] こちらのロシアはぐう聖だな 温暖化が止まらないから、わざわざ自分の国を生贄にして隕石を落として寒冷化を促そうとは(逆シャア)
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 無重力空間なら重心まで含めた真球のベアリングを作れると聞いたことがあります。 逆に言えば地上では真球の作成は不可能。
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