scene:288 地震を起こすカエル
巨大ガエルが暴れている。ジャンプして上空から家を押し潰すように着地。その衝撃で両隣の家も崩壊した。
「派手に暴れているな」
デニスは遠くから元迷宮主を観察していた。その間に戦っていた兵士たちが退却していく。
「あれなら簡単に倒せそうに見えるんですが、そんなに凄い化け物なんですか?」
イザークがデニスに質問した。
「爆噴爆砕球や赤外線レーザー砲撃でも、倒せなかったそうだ」
「そうなると、倒せるのはデニス様だけでは?」
「そうかもしれない。あいつを倒すには、ルインセーバーか、新しい真名で倒すしかないかも」
デニスたち三人が巨大ガエルの前に進み出る。イザークとフォルカに赤外線レーザー砲撃で牽制するように命じたデニスは、『空間歪曲』の真名を使ってルインセーバーを発動する。
長さ五メートルほどの破滅の剣が形成されると、何かを感じたのか巨大ガエルが後退る。デニスは巨大ガエルに向かって走り出す。
その時、巨大ガエルが意外な攻撃を仕掛けてきた。巨大な舌をゴムのように伸ばして、デニスを攻撃したのである。
デニスは跳ね飛ばされたが、装甲膜を展開していたので怪我はなかった。
「うっ、手強いな」
「デニス様、大丈夫ですか?」
イザークが駆け寄って、デニスの身を心配する。
デニスは起き上がって巨大ガエルを睨む。次の瞬間、また巨大な舌を伸ばして攻撃してきた。デニスは神剣を抜いて、舌を斬り飛ばす。
巨大ガエルが舌から体液を噴き出しながら『ゲゴーッ』という鳴き声を上げる。デニスが追撃しようとすると、ジャンプした。上空からの押し潰し攻撃である。
「逃げろ!」
デニスたちは散り散りになって逃げる。そこに上空から巨大ガエルが降って来て、地震のように地面を揺らす。
「うわーっ!」
着地した巨大ガエルが、動きを止めたのをデニスは見逃さなかった。その瞬間攻撃すれば、大ダメージを与えられると考えた。
但し、地面の揺れをどうするかである。ジャンプ攻撃で巨大ガエルが着地する瞬間に、デニス自身が跳躍して地面の揺れを回避することを考えた。タイミングを間違えると非常に危険だ。
だが、他にアイデアが浮かばなかった。
デニスが考えている間も戦いは続いており、突然巨大ガエルが口を開けた。火を吹く前触れである。
デニスたちは逃げ回ることになった。激しい炎が短時間だが、デニスたちの身体に当たった。しかし、装甲膜が炎を拒絶して、デニスたちの肉体を守った。
チャンスを待っていられないようだと思ったデニスは、『天撃』を使うことにした。周りの建物に被害が及ぶが、倒すためには仕方ないと決断する。
巨大ガエルから五十メートルほど離れ、デニスは『天撃』の準備を始める。『天撃』は六段階に強さが分かれているが、その上から二番目の強さで『天撃』の真名術を発動することにした。デニスが『天撃』を発動するまでの時間をイザークとフォルカが作ることになる。
巨大ガエルの上空に大気が集まり始め、厚い層を成す。その大気が一瞬だけ強烈に圧縮され、その圧縮されたものに激しい振動が加えられた。
上空で爆発が起こり、発生した衝撃波が巨大ガエルを襲う。凄まじい力で巨大ガエルが押し潰され、その肉体を支える骨が砕けた。
その後に猛烈な爆風が発生し、デニスたちを吹き飛ばす。三人は地面を転がることになり、目が回る。地面に倒れたデニスがふらふらと起き上がる。
「イザーク、フォルカ、大丈夫か?」
デニスの後ろの方で音がした。デニスが振り返るとイザークが崩壊した家の下から這い出してくるのが見えた。
「全然、大丈夫じゃないです」
イザークは大丈夫そうだ。フォルカを探すと二十メートルほど離れたところで倒れていた。だが、死んだ訳ではない。
「フォルカの手当を頼む。僕はトドメを刺してくるよ」
「あいつは死んでいるんじゃないんですか?」
「いや、たぶん生きている。あいつが持つ真名を、手に入れていないからな」
「分かりました。気を付けてください」
デニスはイザークたちと分かれて、ぺしゃんこになっている巨大ガエルへ向かう。その化け物は体中から体液を噴き出しながらも生きていた。
瀕死の巨大ガエルがデニスに気付いて炎を吹き出そうとしたが、炎が上手く吹き出せないようだった。
デニスはもう一度『空間歪曲』の真名を使ってルインセーバーを発動する。近付いたデニスは、破滅の剣を元迷宮主の頭に振り下ろした。
滅空の刃が巨大な頭を斬り裂いた。元迷宮主の巨体が粉々に砕け、光の粒となって消える。その瞬間、デニスの頭の中に三つの真名が飛び込んできた。
一つは『豪火炎』の真名、もう一つは『耐火』の真名、そして最後は『次元隙泡』の真名だった。『次元隙泡』を調べてみると、面白いことが分かった。
この次元隙泡というのは、宇宙と宇宙の狭間にある気泡のような小さな空間らしい。小さな空間と言っても、宇宙的な尺度である。
実際の広さは大小様々で、太陽ほどの大きさがあるものから、本当に泡のようなものまで有るという。但し、あまり小さいとすぐに消滅するようだ。
最小でも東京ドームほどないと安定しないらしい。『次元隙泡』の真名は、それらの次元隙泡を制御する真名である。
次元隙泡を捕まえ、それと自分たちの宇宙とを繋ぐパイプを作り出す。そうすることで、自分だけの収納空間を手に入れることができる。但し、その次元隙泡の広さが大きいほど制御が難しくなるようなので、丁度良い大きさの次元隙泡を見つけるのが大変そうだ。




