scene:283 継続する海賊狩り
水嶋艦長は緊張が続く日々を過ごしていた。翔空艇空母カンザンは南シナ海をゆっくりと航海しながら、海賊船の動きを見張っていた。
「中国海軍はどうなったのだろう?」
水嶋艦長が独り言のように言った。それが聞こえた高田副長が苦笑いする。
「香港とマカオを含む広東省が、独立するという話を聞きました。これは陸軍が中心になって進めているそうです」
「海軍は?」
「反対しています。そのせいで補給が困難になっているようです」
副長の情報源は、ネット上に上げられた中国人たちの投稿情報である。中国政府の制限が無くなったので、無制限に投稿されているそうだ。
「それを信用して良いのか?」
艦長は情報源に不審を持った。
「以前はフェイクニュースを投稿する者が多かったですが、金を出す党がなくなったので、変な偽情報は減ったようです。但し正確なのかどうかは、半々というところです」
「その情報が正確だとすると、海賊になる海軍の艦艇が増えそうだな」
水嶋艦長の予想通り海賊船が増えた。南シナ海を通過する貨物船や客船を守りながら、二ヶ月で三隻の海賊船を武装翔空艇は沈めた。
拿捕したのではなく沈めたのだ。理由は中国が返還しろと声を上げたからである。拿捕した最初の中国軍艦は念入りに調べた後に廃船となった。
拿捕すれば返せと喚き出す中国を、諦めさせるために沈めることにしたのである。中国でも海賊行為をしている船を沈めるなとは言えない。
海賊船を沈めると決定したことに、自衛隊の変化が感じられる。以前なら拿捕できるなら、拿捕に拘ったはずである。
これも中国軍のミサイルが関東の高層ビルに命中し、数百人の犠牲者が出た影響である。それをきっかけに日本人は安全保障について真剣に考えるようになった。
そして、憲法の解釈変更が行われた。自衛のためなら軍隊を持てるし戦争することもできるとなったのだ。これで国際法とも矛盾しなくなった。
あれだけの犠牲者が出たのに、自衛戦争を否定する者も居たが、そういう人が声を上げると非難されるようになった。現実を見ていないという非難である。
翔空艇空母カンザンを守って一緒に行動している護衛艦の一隻に乗り組んでいるソナーマンが潜水艦らしい反応をキャッチした。
「艦長、潜水艦です」
「艦種が分かるか?」
「中国軍のものだと思われます」
それを聞いた井深艦長は、魚雷戦の用意を命じる。そして、その潜水艦が魚雷を発射。それを感知した護衛艦も魚雷を発射する。
護衛艦はデコイを発射して逃げようとしたが、魚雷が船尾に命中する。護衛艦の発射した魚雷も潜水艦に命中した。護衛艦は大破であり、沈没は時間の問題となった。
「相打ちか」
護衛艦の艦長は、部下たちに逃げるように命じた。
日本も犠牲を払いながら海賊狩りを続け、その戦いは海賊船が無くなるまで終わらなかった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
雅也は日本が変わったと感じた。産業界に変化が起こり新しい企業が生まれて、大きく成長を始めたのである。
中でも一番成長したのが、マナテクノなのは間違いない。いくつかの子会社を設立して、その業績が鰻登りとなっている。
それにより莫大な利益を受け取ったのは、雅也を含めたマナテクノの幹部たちである。そこで世界中の優秀な研究者を集めて、様々な研究を始めた。
その中には最先端のものでない研究も含まれている。雅也がデニスのために行わせている研究だ。デニスの世界でも作れるスカイカーというのが研究課題である。
普通の自動車などを開発しようと思ったが、異世界の道路事情を考えると難しいと考えた。悪路ではスピードが出ない上に振動が凄まじいことになると予想したのだ。
異世界では基礎技術が未発達なので、部品を生産するのも大変なのだ。我々の世界ではありふれている永久磁石だが、デニスの世界では人工的に量産する方法は知られていない。
同じくメッキ技術やコーティング技術も未発達なので、銅線も簡単には作れない状況だった。それらを製作する工具や機械を開発するのも時間が必要なのである。
全て異世界の技術に合わせて作れるものから開発するのは、手間が掛かる。研究により開発したものを異世界に持ち込み実際に作らせてみる。
そうして一歩ずつ前進して、電気モーターが完成しスカイカーの開発が進められた。
ちなみにボーンエンジンで動真力エンジンを動かす事も考えたが、ボーンエンジンの出力が一定にならないことが分かり諦めた。
時間はかかったが、異世界でも作れるスカイカーの試作が完成した。その操縦席を見ると一昔前の飛行機の操縦席のように多数のスイッチやレバーが並んでいる。
こちらの世界ではコンピューターがやってくれる仕事を人力でやらなくてはならないからだ。御蔭で操縦者が長時間操縦するのは無理と判断した。
休憩を挟みながらでも、一日でベネショフ領から王都へ行けることが分かり、雅也たちは喜んだ。ただオートパイロットのような技術を開発するべきだという話が出る。
試作車は六人乗りで、新たに開発したバッテリーが動力源となる。
マナテクノの社員が試乗して操縦してみたが、かなりの不具合が発生し改良が必要だった。そして、ようやく使えるものとなる。
「最高時速は、時速百五十キロほどです」
それを聞いて雅也は頷いた。これで異世界に大騒ぎが起きるだろう。




