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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
282/313

scene:281 南シナ海の海賊

 雅也たちは視察のためだが、ツクヨミ号は建設資材の輸送がメインの目的になる。ツクヨミ号から多くの建設資材が運び出されるとレアメタルの鉱石が船内に運び込まれた。


 雅也は小惑星ディープロックに建設中の宇宙金属精錬工場を視察して、順調に建設が進んでいる事を確かめる。

「聖谷常務、宇宙金属精錬工場は順調のようですね」

 中村研究部長が声を掛けた。


「ええ、工場が完成したら、次は実験コロニーです」

「その実験コロニーには、大型宇宙船サガミの建造ドックも建設されるのですから、楽しみです」


 大型宇宙船サガミは、大部分の建造を地球上で行うことになっている。それを宇宙に上げて、最終的に組み立て完成させる事になっている。


 ただ完成してからも様々なテストをする必要があるので、それを実験コロニーで行うことになっている。


「常務、地球からの通信で、中国軍の一部が戦争を始めたようです」

 ツクヨミ号の乗組員が報告に来た。


「何を考えているのだろう?」

 雅也が首を傾げると、一緒に聞いていた中村研究部長が厳しい顔になる。一部の中国軍が攻め込んだのは、フィリピンだった。


「何が原因でそうなったんだ?」

「南沙諸島海域の人工島を、フィリピンが破壊しようとしたことが原因のようです」


 南沙諸島海域の人工島というのは、中国が岩礁を埋め立てて軍事拠点として使っているもので、中国は自分たちの領土・領海なので埋め立てても問題じゃないと主張している。


 しかし、それは中国の一方的な主張で、国際法上の法的根拠はなく国際法に違反する、と言われている。フィリピンは中国が混乱している今が、チャンスだと思ったようだ。


 フィリピンの海軍力というのは、貧弱なものである。なのに、中国に対する敵対行動を起こしたのは、フィリピン海軍が、今が最後のチャンスかもしれないと考えたからだろう。


 フィリピンの爆破作戦で、中国海軍の人員が亡くなった。混乱している中国海軍だったが、仲間が死んだ事で面子を潰されたと考えた中国海軍の幹部が報復作戦を実行したのである。


 航空母艦一隻を含む艦隊が、フィリピン海軍基地を強襲し、何隻ものフィリピン海軍の艦艇を攻撃し、破壊したのだ。


「その艦隊が、南シナ海を通過する船を脅しているようです。その中には日本の輸送船もいて、政府は中国に抗議しているが、トップが死んでいるので効果がないそうです」


 フィリピンはアメリカに助けを求め、アメリカの原子力空母が南シナ海へ向かったという。原子力空母だけで行くということはないので、艦隊として行ったのだろう。


 視察を終えた雅也たちは地球へ帰還するために、小惑星ディープロックを出発した。帰りも順調で何事もなく地球に到着し、竜之島宇宙センターに着陸する。


 雅也がマナテクノの本社に出勤すると、南シナ海の件がマナテクノにも影響していることが分かった。中国海軍が南シナ海を通る船を臨検しているのだ。


 おかげで日本の輸送船は南シナ海を避けて、大回りして日本へ行く航路を航海しているという。そのせいで輸送費が高くなり、輸入量も減っている。


「聖谷常務、南シナ海の件は聞きましたか?」

 中園専務に尋ねられた。

「ええ、大体のことは聞きました。アメリカの空母打撃群が出たそうですから、すぐに収まるのではないですか?」


「それを期待しているのだが、最近のアメリカは、何だか覇気がないからね」

 アメリカの政治家や国民は、アジアやヨーロッパのことは現地の国家に任せるべきだという意見の人が増えているらしい。それがアメリカ軍の士気にも影響しているようだ。


 日本が中国艦隊とアメリカ空母打撃群について注目している頃、その二つが対峙していた。と言っても、目で見える範囲に中国海軍とアメリカ海軍が居た訳ではない。両軍はレーダーで相手の存在を知って、コミュニケーションを取ろうとしたのである。


 アメリカ側の司令官であるブラックウェル准将は、中国艦隊に冷静になるように通告した。この時、アメリカの将兵は中国が攻撃してくるとは考えていなかったようだ。世界最強であるアメリカ軍を攻撃するなど正気の沙汰ではないからだ。


 だが、誰かがミサイルの発射ボタンを押してしまった。即座に戦闘が始まり、中国海軍のフリゲート艦が沈没した。


 そして、航空戦が始まり中国機が次々に撃ち落とされる。空母搭載機の性能が違い過ぎるのだ。それでもアメリカ軍に被害が出た。


 原子力空母を護衛していた駆逐艦がミサイル攻撃を受けて大破し、海に沈んだのである。中国艦隊は空母とフリゲート艦二隻、それにコルベット二隻が沈没した。


 戦いはアメリカ空母打撃群の圧勝だったが、アメリカは空母打撃群を本国に呼び戻した。その代わりの空母打撃群は無しである。


 それを聞いた雅也は、アメリカ軍が規模を縮小するつもりではないかと心配した。アメリカは軍の規模を縮小し、それによって余った予算を宇宙開発に注ぎ込もうと考え始めたのではないかと推測したのである。


 マナテクノとしては顧客の予算が増えることになるので、喜ばしいことなのだが、日本、いやアジアやヨーロッパでは冗談じゃないと思った者が多かった。


 その日、雅也は防衛省の菊野大臣に呼び出された。

「忙しいところを申し訳ない」

 そう思うなら呼び出さないでくれ、と思う雅也だった。


「急な呼び出しですが、何かありましたか?」

「南シナ海なのですが、中国海軍の残党が海賊になって荒らしているのです」

 雅也は溜息を漏らす。


「アメリカを頼ることは無理そうですね。どうするのです?」

「海上自衛隊が、船舶の安全を守るために南シナ海へ向かうことになるでしょう」

 自国の船舶を守るためなのだから当然だろう。野党やマスコミが何か言い出すかもしれないが、それなら代替案を出せと言えば良い、と雅也は政府の案に賛成した。


「但し、海賊が使用している艦艇は軍船です。強力な装備を持つ船も多く、戦えば大きな被害を出す事になる」


 そこでマナテクノが開発した武装翔空艇を南シナ海で使いたいらしい。

「しかし、武装翔空艇を単体で南シナ海まで飛ばして、海賊退治をさせようというのは、無理ですよ」

「だろうね。そこで母艦となるような船と一緒に派遣しようと考えている。どんな船が最適か、意見を聞きたいのだ」



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[一言] 翔空挺は戦闘ヘリほどの大きさでしょうから、最近の自衛艦で後ろにヘリ用ハッチがある艦艇なら大丈夫でしょう。 輸送船のコストですが、せっかく宇宙発電や送電システムが出来たのですからエンジンを全部…
[一言] 世界の警察も当てにできないのが現実に起こり ましたからね、攻めてくる相手に話し合おう と言った所で聞く耳持たないのだよな。
感想一覧
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