scene:275 朝鮮半島と北京の混乱
朝鮮半島で起きた中国軍と韓国軍の小競り合いは、両国の互いに対する反発を増大させ大規模なデモが起きた。中国人は他国の領土である朝鮮半島で起きている戦いなので、深刻には受け止めていないようだ。
一方韓国人は、身勝手な大国のやり方に激怒していた。小競り合いで中国兵の数名が死亡すると、中国軍が韓国に懲罰を与えるという名目を唱え侵攻してきた。
韓国軍は全力で迎え討ったが、自分たちだけではどうにもならないと感じた韓国政府は、アメリカに助けを求めた。だが、アメリカでは、アジアの問題はアジアの国に任すべきだと、アメリカ・ファーストを支持する人々が増えていたのだ。
アメリカが本格的に参戦する時期が遅れ、キム少将の部隊が前線に向かう。戦闘を開始した武装翔空艇は凄まじい戦闘力を発揮した。
装甲車や軍用車両を次々に撃破して、中国軍を停戦ラインから北へ追い返した。この事態を受けて、中国軍は本格的な攻撃ヘリ部隊を投入する。
だが、武装翔空艇は中国製攻撃ヘリを圧倒した。スピード、操縦性、搭載兵器の全てで上を行っていたからだ。ただ韓国製のミサイルは、時々的を外す欠点があった。
虎の子の攻撃ヘリ部隊を落とされた中国軍は、大量の携帯式防空ミサイルを朝鮮半島に持ち込んだ。さすがに携帯式防空ミサイルが相手では、武装翔空艇も敵わず墜落したものが多くなる。
ただ武装翔空艇は敵に甚大な被害を与えており、韓国軍は武装翔空艇の追加支援を要請した。
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「社長、韓国が武装翔空艇の追加を要請したそうですね?」
雅也が神原社長に確認した。
「携帯式防空ミサイルで、だいぶ撃ち落とされたそうだから、それを補充したいのだろう」
携帯式防空ミサイルと聞いて、雅也は何とかできないかと考えた。雅也が使う防御用真名術と言えば、『装甲』の真名を使う【装甲膜展開】である。
この真名術を迷宮石、いや魔源素結晶に転写すれば、【装甲膜展開】の防御装備が開発できるかもしれない。
雅也は人材を投入して、防御装備の開発を始めさせた。ただ朝鮮半島での戦争には間に合わないだろう。追加の三十機が韓国に運ばれた頃、アメリカ軍が本気で参戦した。
と言っても、歩兵の投入ではなくミサイルによる中国軍への攻撃を始めたのである。同時に、アメリカは中国への厳しい経済制裁を行うと発表した。
それに追随するように西側諸国は、中国への経済制裁を発表。その中で日本は迷走を始めた。経済界が中国への経済制裁に反対したのである。
だが、日本が武装翔空艇を韓国へ提供した事で、中国は日本も敵だと判断し、中国国内にある日本企業の工場を差し押さえると宣言した。
日本企業は中国から本格的な撤退を開始するしかなかった。社員を日本へ戻し、中国の事業を清算する準備を始めたのだ。
日本に滞在していた中国人も次々に帰国した。日本人も戦争が始まったのだと感じ始め、多くの人々が朝鮮半島に注目する。
日本人たちが朝鮮半島へ目を向けていた頃、中国本土で大きな変化が起きていた。中国の経済活動が縮小を始めたことで、今までのように軍事費を出すことができなくなったのだ。
世界第二位の軍事大国だった中国、そして中国軍のトップは、このままではまずいと思い始める。このままではずるずると軍事力が低下して、元の三流軍事国家に戻ってしまうと考えた。
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中国の某所において、中国軍の幹部が集まり会議を開いた。
「このままでは、軍事に予算を回せなくなる。もう少しでアメリカに追い付くところまで来たのに……どうすればいいと思う?」
「中途半端に戦争を始めたのが、まずかったのだ。一気に敵を制圧するか、撤退するかだろう」
陸軍の幹部が険しい顔になる。
「撤退などできない。そんなことをすれば、儂の面子が潰れる」
「それでは一気に制圧するのか? できるのかね?」
「簡単だ。ソウルに戦術核を撃ち込めばいい」
「……馬鹿なことを言うな。そんなことをすれば、第三次世界大戦が起きてしまう」
「だったら通常兵器……ミサイルならいいのか?」
「原因を作ったのは韓国人だ。我々は懲罰を下している。そのくらいは仕方ないだろう」
「ついでに日本にも撃ち込んでやれ。韓国に味方したことを後悔させてやるのだ。但し、人が居ないところへ誤射ということで撃ち込むのだ」
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その翌々日、ソウルの街にミサイルが飛んできた。韓国軍とアメリカ軍は懸命に迎撃したが、数で圧倒され数発のミサイルがソウルの街に着弾した。
ビルが爆発して崩れ落ち、ソウルの街に残っていた人々の多くが亡くなった。その中には軍人の家族が大勢居て軍人たちが、大統領に声を上げた。
韓国のミサイル開発を制限していた『米韓ミサイル指針』が撤廃され、韓国は独自の中距離ミサイルを開発していた。
韓国大統領は、その中距離ミサイルを北京に向けて発射するように命じる。韓国製中距離ミサイルが北京に向けて飛翔し、ビルが建ち並ぶ街に着弾した。
避難命令が出ていなかった北京では、五百人近い被害者が出たらしい。
北京は混乱した。中国の首都を攻撃する国が現われるとは考えていなかったのだ。混乱は北京だけではなく、日本に向かってミサイルを発射しようとしている軍事基地にも波及し、ミサイル発射時のチェックが省略された。
日本に向けて一本のミサイルが発射。最初は韓国に向いていた軌道が、途中から日本へと向かう。
レーダーを監視していた自衛官が、最初に異変に気づいた。
「おかしい。中国軍が発射したミサイルが、日本へ向かってきます」
「何だと、着弾地点はどこだ?」
「まだ、関東のどこかだということしか分かりません」
そのことを政府に報告すると、大騒ぎとなった。




