scene:274 隣国の戦い
日本政府としては、朝鮮半島が中国に支配されるのはまずいと考えていた。できることなら、韓国とアメリカが中国を押し返して欲しい。
「そのために、日本も韓国を援助して欲しいと、アメリカから言われたらしい」
防衛装備庁の木崎長官がマナテクノに発注することになった経緯を、マナテクノの応接室で説明した。それを聞いた雅也と神原社長は『なぜそうなるんだ?』という顔をする。
日本にとって由々しき事態だというのは分かるが、一般企業であるマナテクノに言われても困るというのが、雅也の本心だった。
「それで、あのような注文が来たのですな?」
神原社長が確認した。
「そうなのですよ。マナテクノには、自衛隊が発注している武装翔空艇五〇〇機の中でテスト中の三十機を輸出バージョンへ改造して欲しいのです」
「輸出バージョンというのは?」
雅也が質問した。
「武装翔空艇には、日本が開発した新型ミサイルが発射できるようになっていますが、それを韓国が使用しているミサイルが撃てるように改造して欲しいのです」
電子機器の中にも日本が軍事機密にしている装置があるので、それらは性能が低い汎用品に替えて欲しいという。
自衛隊では武装翔空艇の輸出を考えていたようで、代替品の研究を行っていたらしい。代替品の装置や部品は、自衛隊が用意するようだ。
マナテクノでは、正式な注文ということなので引き受けた。そして、突貫作業で改造が行われて、テストした後に韓国へ運ばれた。
日本は武器輸出を原則的に禁じていた武器輸出三原則が撤廃され、条件付きで武器輸出が可能になっている。その条件の中に紛争当事国に輸出しないというものがあるのだが、韓国はまだ紛争当事国にはなっていないという理屈で、武装翔空艇を輸出した。
それらの武装翔空艇を受け取ったのは、空軍のキム少将が率いる飛行部隊だった。
「キム少将、日本の軍事支援だと聞きましたが、こんなものが役に立つんですか?」
ベテランパイロットのカン少佐が尋ねた。
「シミュレーターでは、役に立ちそうだったんだろう?」
「やはり実機は違います。シミュレーターはソフト次第でどうにでもなりますから」
「なら、実機で試してくれ」
「分かりました」
カン少佐は仲間と一緒に武装翔空艇に乗り込んだ。
「ほう、操縦装置はシミュレーターと同じだな。エンジンを起動するぞ」
動真力エンジンが起動して、機体が空中に浮かぶ。空軍基地の周りを飛行し始めると、カン少佐は満足したように頷いた。
「中々使えそうじゃないですか」
副操縦士のパク中尉が言った。
「いや待て、評価は実弾演習をしてからだ」
演習場へ飛んだカン少佐は、標的に航空機関砲を向ける。照準を定めて引き金を引くと身体に響くような連続の発射音を立てて標的に砲弾が飛んだ。
用意した標的はすぐにボロボロになる。
「良さそうじゃないですか?」
「まあ、合格だな。航空機関砲はヨーロッパで設計されたものだから、問題がないんだろう」
パク中尉がもう一つの兵器に注意を向ける。韓国が開発した空対地ミサイル『昇竜』である。
「私としては、日本のミサイルが良かったんですが」
「馬鹿を言うな。補給はどうするんだ? 韓国で製造していないんだぞ」
「そうなんですが、『昇竜』はテストで味方の戦車に命中したと言うじゃないですか」
「あれは、ちょっと風の強い日だったからだ」
パク中尉がカン少佐にジト目を向ける。今のは冗談だったのかと疑ったのだ。風くらいで誤爆したら、それは欠陥ミサイルである。
その日、キム少将の部隊は昇竜ミサイルを八発発射して、六発が標的に命中した。残りの二発は途中でガス欠を起こしたように推進装置が止まり墜落している。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
キム少将の部隊が厳しい訓練をしている頃、北朝鮮に配備された中国軍の間で問題が起きていた。中国から北朝鮮に運ばれてくる兵糧の二割が紛失したのである。
「くっ、北朝鮮の連中だな」
北朝鮮派遣部隊を指揮する鍾中将が顔を歪めて呟いた。それを聞いた副官の馬中佐が、提案する。
「部隊の一部に警備させましょうか?」
「それしかないだろうが、それでは解決しない。問題の根本は、北朝鮮に食糧が足りないということなのだ」
「本国が食糧を供給しているのでは?」
「ああ、だが、足りんのだ。と言って、供給を増やそうと思っても地震の影響で、本国自体が食糧不足になっている」
「外国から購入できないのですか?」
「外貨がないらしい」
「まさか、国には豊富な外貨準備があったはずです」
工場地帯の一部が地震で壊滅したことにより、外国企業が逃げ出し始めたのが原因だった。国内で問題が続発するようになると、国民の目を外に向けて誤魔化そうと考える政治家も現われる。
それもあって、中国は朝鮮半島に介入した。本当なら北朝鮮を助けるという余裕はなかったのに、無理をしたのである。
北朝鮮人と中国兵の間でトラブルが数多く発生し、それが中国首脳の神経を逆撫でる。そして、暴徒を鎮圧するためなら、武器の使用も許可すると言い出した。
それが原因で北朝鮮で起きたデモに対して、中国軍が銃を乱射するという事件が起きた。それを怒ったのが、韓国人である。
国境付近を見回りしていた中国兵を銃で撃ったのだ。それが切っ掛けとなって韓国軍と中国軍の間で小競り合いが起きた。
インド兵と中国兵の間で起きた石の投げあいと殴り合いの戦いでも死者は出たのだ。今回の小競り合いでは両方に大勢の死傷者が出た。そして、戦いがエスカレートする。




