scene:272 日本の発展
日本は宇宙太陽光発電システムの一号基を完成させた後、二号基・三号基を建造する予定であることを公表した。それに続きアメリカとイギリスが宇宙太陽光発電システムを建造すると発表する。
もちろん、マナテクノの協力を得ての事である。マナテクノが大型起重船用のエンジンを提供して、船体は各国が製作する事になった。
日本も独自の大型起重船を建造する事にしたらしく、マナテクノにエンジンの注文をしている。
先進国が宇宙太陽光発電システムを建造しようと動き出した中で、中国とロシアは混乱したまま迷走を続けていた。中国は大地震の後遺症で経済が落ち込み、経済成長率がガタッと落ちていた。
それほど地震の被害は大きかったのだ。中国で建設されている建物は、日本ほど耐震性に優れておらず倒壊したものが多かったようだ。
但し、中国では被害規模などを公表していない。中国は一時的に経済が落ち込むだろうが、すぐに回復し拡大するだろうと繰り返している。
「中国から工場誘致の話が、また来ていたぞ」
神原社長に言われた雅也は、顔をしかめた。西側先進国の企業は、中国からの撤退を進めており日本の企業の中にも撤退を決めたところが多かったからだ。
マナテクノは制約がある中国での経済活動に魅力を感じていなかった。マナテクノが生産する製品は高額でも需要があるものがほとんどなので、人件費が安いというくらいの理由では中国に進出するつもりはなかった。
一方、ロシアは危険な行動に出ていた。軍を動かし各地で問題を起こしていたのだ。それはヨーロッパだけではなく、極東でも問題を起こし中国や北朝鮮とも対立が起きていた。
世界的な情勢は問題ありだったが、マナテクノは順調に発展し人材不足となっていた。特に宇宙で作業するボーンサーヴァントを制御する人材が不足していたのだ。
この頃になると、各国の真名能力者の中に召喚系の真名を取得する者が増えて、『召喚(スライム)』の真名を持つ者の重要性が理解されるようになった。
但し『召喚(スライム)』で召喚できるのは、緑スライムだけなので『魔源素』の真名を持つことはできない。ただ、宇宙開発を進めようと考える国は、『召喚(スライム)』と『召喚(スケルトン)』の真名を持つ真名能力者を増やそうとしているらしい。
日本政府も同じで、真名能力者たちに頼んでいるようだ。そして、その成果が表れ様々な召喚系の真名を持つ真名能力者が増えた。
雅也が『召喚(スライム)』と『召喚(スケルトン)』の真名を持っていることは、政府にバレたようで特殊人材部部長の黒部から正直に言ってくれれば、相談に乗ったのにという愚痴を聞かされた。
マナテクノでは堂々と真名能力者の数を増やすことにした。多くの優秀な人材を集め、『魔勁素』の真名を取得させ、ボーンサーヴァントを制御できる人材を増やしたのだ。
そして、信用できる数人の社員に『召喚(スライム)』と『召喚(スケルトン)』の真名を転写した。雅也が居なくても、真名能力者を増やせるようにしたのである。
日本政府も召喚系の真名を持つ真名能力者を集めて、真名研究センターというものを設立した。名前は研究センターになっているが、実際は真名能力者を増やす施設である。
真名能力者を増やし、ボーンサーヴァントの数を増やしたことで宇宙開発は進んだ。小惑星ディープロックの採掘も進み、その鉱石を精錬すると予想以上にレアメタルやレアアースが含まれていることが分かった。
前回表面部分を採掘して分析したのだが、表面部分と中心部は成分が少し違うようだ。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
アメリカのホワイトハウスでは、リッカートン大統領がテレパス国防長官を呼んだ。
「大統領、ロシアの動きでございますか?」
「違う。マナテクノが開発した衝撃波発生装置の件だ。あれは核に匹敵する威力を持つと聞いたが、間違いないのか?」
「間違いありません」
テレパス国防長官が今更だという感じで肯定した。
「日本は我々の核の傘から、抜け出そうとしているのだろうか?」
テレパス国防長官はゆっくりと首を振り否定する。
「そうではないと思います」
「そう考える理由は?」
「日本政府が、その兵器の開発に関与していないからです」
「ん、それは確かなのか?」
「はい、確認を取りました。その兵器について、防衛省は予算を付けていません」
「という事は、マナテクノが独自に開発して、使ったということか。マナテクノの狙いは何だったのだ?」
「マナテクノは、本気でスペースデブリ駆除装置を開発するつもりで、研究していたようです。ただ、その威力が半端なものではないと分かり、今回だけ兵器に転用したのです」
「その技術、手に入れることはできないのかね?」
「難しいでしょう。日本政府も許可しないでしょう」
大統領は渋々頷いた。アメリカにとっての最新核技術のようなものだ。対等な価値を持つものを差し出さなければ、教えてくれないだろう。
大統領が溜息をついて話を変える。
「ところで、韓国が騒がしいようだが、どう思う?」
韓国で反米運動が盛んになっているのだ。理由は米軍駐留費の負担増である。アメリカの軍事費も無制限ではないので、米軍駐留費はそれなりに負担してもらわねば続けられないのだ。
ただ韓国では南北統一を叫ぶ者たちが増えており、北の新しい指導者と話が進んでいるらしい。そうなると米軍は必要なのかという問題が出て来る。短絡的な者が米軍は半島から出て行けと叫んでいるという。
また統一には二百兆円から三百兆円の費用が掛かると言われているが、それをどうするかが問題になっており、韓国は経済的に発展しなければならないと焦り始めていた。
「韓国は地理的に近い日本を参考にして、発展途上国から先進国になりました。ただ現状以上の発展は難しいと思います」
大統領が頷いた。
「日本は次の発展方向を宇宙と決めたようだが、それを韓国が参考にすることはできんだろうからな」
アメリカでさえ、日本と同じような動真力エンジンを開発できないのだ。韓国は尚更難しいだろう。
「韓国は騒ぎが沈静化するまで、放置するしかないでしょう」
「あそこは仕方ないか。一番の問題は日本だな」
「はい。特にキーマンとなるのは、マナテクノのマサヤ・ヒジリタニという人物です」
大統領が首を傾げた。
「マナテクノの社長は、カンバラだと記憶しているが?」
「ヒジリタニは常務です。そして、彼こそがマナテクノの株の過半数を持つ最高経営責任者なのです」
「思い出した。ヒジリタニというとハト座流星群の時にも活躍した人物だったな」
「はい、彼は真名能力者です。しかも超一流の」
「なるほど、マナテクノのCEOが真名能力者か。確かに彼がキーマンのようだ」
アメリカ大統領からも注目されるようになった雅也は、小雪と盛大な結婚式を挙げた。日本の未来を担う人物の結婚式として世界中が注目することになった。




