scene:268 影の森の迷宮主 (2)
ランドルフと一緒にクリュフ領へ行く。クリュフ領で一泊してから、ランドルフと侯爵騎士団の団長であるノルベルトと一緒に影の森迷宮へ向かう。
「デニス殿、白竜を倒せると思いますか?」
ノルベルト団長が尋ねた。
「そうですね。怖いのが冷気ブレスだけなら、倒せると思います」
それを聞いたノルベルト団長が、感心したように頷いた。ランドルフは不安そうな顔をしている。
「ランドルフ殿は、無理だと思われているのですか?」
「実は侯爵騎士団が、白竜と戦っているのです。その時は、七名の騎士が戦死しました」
クリュフ領にとって大きな痛手である。それでベネショフ領に相談に来たのか、と納得した。普通なら侯爵騎士団の名誉にかけて、クリュフ領だけで仕留めてみせると主張する騎士が多いはずなのだ。
影の森迷宮に入り、剣耳ウサギと遭遇する。フォルカが長巻の一閃で倒すとノルベルト団長が感心したように声を上げる。
「お見事です」
フォルカは照れたように笑う。
「これくらいは当然です」
そんなことを喋りながら進んでいると、爆裂トカゲと遭遇。今度はイザークが前に出て、『水撃』の真名を使い水撃刃を生み出して、爆裂トカゲに向かって放った。
水撃刃が爆裂トカゲの頭を断ち割って一撃で仕留める。
「今度も一撃ですか。素晴らしい」
ランドルフはフォルカとイザークの強さを感じて、少し自信が持てたようだ。
デニスたちは遭遇する魔物を倒しながら迷宮の奥へと進んだ。そして、迷宮主が居ると言われる区画へ到着する。この区画には迷宮主の他に、鎧熊がいるという。
デニスたちは慎重に白竜を探し始める。二十分ほど進んだ時、前方に巨大な気配を感じてデニスたちは顔を見合わせる。
進むと地面を揺するような足音が聞こえてきた。木の陰から前方を見ると、巨大な白竜が歩いている。白竜と言っても真っ白い訳ではなく、灰色に近い色だった。
白竜の大きさは全長九メートルほどで、イグアナの背中にコウモリの羽を付けたような魔物だった。但し、迷宮主となった現在は、飛べないという。迷宮の呪縛が白竜を縛り付けているようだ。
「こいつが自由になった時を考えると怖いな」
デニスの言葉に、イザークが頷いた。
「迷宮の呪縛が消えたら、どこにでも飛んで行けそうですからね。ベネショフ領にでも飛んできたら、凄い犠牲者が出ますよ」
フォルカが鋭い視線で白竜を睨む。その白竜はイライラした様子でうろついていた。何を苛ついているのだろうと、デニスは疑問を持った。
デニスたちが観察している時、デニスたちの後方から鎧熊が近付いてきた。デニスは鎧熊の姿を見て舌打ちした。神剣を抜いたデニスは、鎧熊に相対する。
「僕が片付けます。皆さんは白竜を見張っていてください」
デニスはランドルフとノルベルト団長に言った。この鎧熊は一撃で仕留めたい、白竜に気付かれたくないからだ。
デニスと鎧熊が睨み合い、鎧熊が突進を開始するとデニスは神剣を振り上げる。神剣が振り下ろされ、鎧熊の胸から脇腹にかけてが斬り裂かれる。
鎧熊は胸から血を噴き出し、虫の息となる。デニスがトドメを刺そうとした時、鎧熊が吠えた。
「あっ、こいつ」
デニスが急いで鎧熊の心臓に神剣を突き立てる。
「まずい、白竜が気付いた」
ランドルフが青い顔で振り返り叫んだ。デニスが白竜の方へ目を向けると、白竜がこちらに近付いてくる。デニスたちは撤退しようとした。
だが、白竜の走りは速かった。何よりも障害物である木々をへし折りながら直線的に進む迷宮主のパワーは、凄まじい。
「うっ、回り込まれた」
ランドルフが顔を強張らせて言う。デニスは神剣を構え、いくつかの真名を解放する。イザークとフォルカも戦う覚悟を決める。
「イザークとフォルカは、レーザーであいつの足を狙え」
指示を飛ばしたデニスは、装甲膜を展開する。白竜がデニスたちを見下ろしながら咆哮を放つ。その咆哮がデニスたちの鼓膜を痛め付けた。
装甲膜は空気を通すので、音も通すのだ。デニスは反撃とばかりに爆噴爆砕球を飛ばす。その攻撃が白竜の胸に命中して爆発。だが、爆噴爆砕球で白竜を傷付けることはできなかった。
白竜がデニスに向かって冷気ブレスを吐き出す。デニスは『怪力』の真名で強化した脚力を使って横に跳んだ。ブレスがデニスを掠めたが、装甲膜が弾いたのでダメージはない。但し、その手応えから真正面でブレスを受けた場合、装甲膜では受け止めきれないと感じる。
冷気ブレスを受けた木々が凍り付いている。まともに浴びれば、同じように凍り付いただろう。
「デニス様!」
イザークの心配そうな声が響き渡る。
「大丈夫だ。あいつの足を止めるんだ」
それを聞いたフォルカが【赤外線レーザー砲撃】を放った。白竜の足に命中して眩しい輝きを放つ。命中した箇所は、黒ずみ炭化する。
白竜がレーザーを放っているフォルカに向かって突進する。フォルカは慌てて逃げ始め、デニスとイザークは白竜を追い掛け始める。
デニスが追い付いて、神剣でその尻尾を斬り付けた。神剣は寒気がするほどの切れ味を見せて、尻尾を切り落とす。
白竜がドガッという轟音を響かせて大木の幹に衝突した。尻尾も使ってバランスを取っていたのに、その尻尾が切り離されたせいである。
ゆっくりと振り向いた白竜の目が血走り、激怒していることが分かる。
「これは、滅茶苦茶怒っているな」
デニスが声を上げると、イザークが呆れたように声を上げる。
「当たり前でしょう。自分の尻尾を切り落とされたんですよ」




