scene:266 偵察ドローン
警官たちが死んだことで、ハノイは大騒ぎとなった。雅也も日本に帰ることができずに何日か、ハノイのホテルで滞在することになる。
雅也はベトナムの警察で取り調べを受けたが、アメリカから圧力が掛かったようで雅也とダンフォードたちは解放された。
日本に帰った雅也は本社に顔を出した。
「ようやく帰って来ましたね。心配したんですよ」
出迎えた小雪が雅也に抱き着いた。それを見た神原社長が雅也を睨む。
「そんな関係になっていたのか?」
父親の声を聞いた小雪が慌てたように雅也から離れ、顔を赤くする。
「まあいい、社長室に来てくれ。詳しい話を聞きたい」
雅也は社長室へ行き社長と小雪にベトナムでの一部始終を話した。
「ふむ、これで超越者教会は瓦解するな。マナテクノの負担が減る」
「ロシアの動きがおかしかったのも、超越者教会が原因だと思われますから、元に戻ると期待しているのですが」
「原因が消えたのだから、きっと元に戻るだろう」
ロシアの動きは変わった。極東に移動させた部隊をヨーロッパ方面へ戻したのだ。ロシアの動きで不安になり軍備増強を決定した政府は、そのまま増強を続けている。
これは一旦動き出すと止められなくなるという日本の官僚たちの悪い癖が出たのだ。マナテクノとしては依頼を受けているので、そのまま高速迎撃ドローンの開発を続けた。
高速迎撃ドローンは驚くほど高性能な兵器となった。その兵器に日本政府は五百億円の予算を組んでいる。短期間で迎撃ミサイルの開発という依頼だったので、最低でもそれくらいは必要だと見積もったのだ。
完成した高速迎撃ドローンを確認した自衛隊の幹部たちは、この存在を公表できないと判断した。地球上のどこでも攻撃できる兵器だったからである。
当面の危機が去ったので、政治家たちも困った。大規模な資金を投じて開発した高速迎撃ドローンを捨てる訳にもいかず、偵察ドローンとして活用しようということになる。
弾頭をセットする場所に高性能カメラなどをセットして使用するというアイデアである。元々誘導識別用のカメラが組み込まれている高速迎撃ドローンだったが、それは偵察という目的には向かないものだった。
完成した偵察ドローンを防衛装備庁の永野装備官が試験することになり、雅也と技術者チームが偵察ドローンを持って竜之島宇宙センターへ向かう。
宇宙センターの海岸で永野装備官と合流し、偵察ドローンの操縦方法を説明する。
「このコントローラーは、ゲーム機のものに似ているのは偶然かね?」
「偶然です。使いやすいものをという目的で開発したら、そうなったのです」
VRゴーグルを装着した永野装備官は、スタートボタンを押した。その瞬間、偵察ドローンのカメラが撮影している光景が、目の前に広がる。
偵察ドローンが上昇する。そして、その周囲を旋回させると操縦している自分の姿と、雅也たちの姿が確認できた。永野装備官は偵察ドローンを海に向けた。陸地を飛ばす許可が下りなかったのだ。
今日は風が強いが、偵察ドローンの飛行は安定していた。目の隅に進行方向と高度、スピードが表示されている。
「こいつの最高スピードを試していいかね?」
「いえ、今日は風が強いので危険です。抑えてください」
「分かった」
そう言った永野装備官がスピードを上げる。この風の中でどれほどスピードが上げられるのか試すつもりなのだ。
スピードを時速五百キロまで上げた時に、画面が揺れ始める。風の影響で振動が起きたのである。
「永野装備官、無理はしないでください」
モニターで監視していた雅也は、永野装備官に声を掛けた。
「済まない。順調だったので油断した」
永野装備官の声が興奮していた。気持ちは分かると雅也は思った。雅也も初めて偵察ドローンを操縦した時は、興奮したからだ。
「そろそろ引き返してください」
「了解」
偵察ドローンが引き返して来て着陸すると、VRゴーグルを外した永野装備官が雅也に近付く。
「この偵察ドローンで、荷物を運べないだろうか?」
「パワーを考えれば、五十キロほどの荷物なら運べると思いますけど、そういう運搬は輸送用ドローンで十分ですよ」
「そう言うが、中々予算が下りないのですよ。ちなみに、五百億円の全予算を使い切ると、何機の偵察ドローンを購入できますか?」
「開発費を考えると、五百機ほどです」
「五百機……桁を間違えてませんか?」
「桁というと、五千機だと言われるのですか?」
「いえ、五十機です」
「それは高速迎撃ドローンとして、弾頭や誘導装置を組み込んだ場合を考えるからでしょう」
偵察ドローンと高速迎撃ドローンは、自衛隊によりテストが続けられることになった。その結果、いくつかの改良点が洗い出されたが、完成した。
そして、防衛装備庁は高速迎撃ドローン三十機と偵察ドローン二百機の製造を決定する。高速迎撃ドローン三十機については公表せず、極秘納入ということになった。
ドローン開発の仕事が一段落した雅也は、大型宇宙船サガミの開発に戻った。
現在、マナテクノは造船会社を買い取り宇宙船の造船所に改修している。その造船所で大型宇宙船サガミを建造する予定なのだ。
大型宇宙船サガミの建造には、多くの研究者や技術者が参加している。それはマナテクノの関係者だけというものではなく、日本中の研究者や技術者が参加したいと名乗り出てきたのだ。
その熱気は日本国内に収まらず、アメリカやイギリス、カナダからも参加を希望する者が名乗り出た。マナテクノはそれらの人材の中から必要だと思われる者をピックアップして、プロジェクトに参加させた。
日本人だけでは完成させられないほど、大型宇宙船というのは難しいものだったのだ。
次回は正月休みを取って、再来週の投稿になります。




