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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
263/313

scene:262 不審船

 戦闘ロボット『スパイダーソルジャー』の輸送計画が決まり、ファングボアの群れがいると思われる山岳地帯に運ばれることになった。


「実戦テストは、もう少しテストしてからにしたかったのに」

 リックウッドが愚痴のように言う。

「そんなことより、ファングボアを相手に、スパイダーソルジャーは大丈夫でしょうか?」


 部下である技師のフォスターから尋ねられたリックウッドは、鼻を鳴らす。

「ふん、たかが猪の化け物だろう。スパイダーソルジャーなら一瞬で掃討してしまうだろう」


 スパイダーソルジャーの装甲は装甲車と同程度という強度を持っている。リックウッドは傷付いたとしても掠り傷程度だろうと考えていた。


 軍の輸送車が山間部に入り、道路が荒れているのか揺れが酷くなる。

「アタッ、少しスピードを落としてくれないかな」

 フォスターが文句を言うと、輸送車が止まった。


 目的地に着いたらしいので、リックウッドと技師たちが輸送車から降りて、周りを見回す。原生林らしい木々と生い茂る草しか見えない。


「ブリック大尉、ファングボアはどの辺に居るのかね?」

「あの山の麓だそうです」

 大尉が東にある山を指差した。それを聞いたリックウッドは、顔をしかめた。


「確認したいのだが、どうやってあそこまで移動するのだ?」

「ここからは徒歩による移動になります。スパイダーソルジャーも歩けるんですよね」

「もちろん歩ける。だが、私たちの体力に期待するなよ」


 リックウッドと技師たちは、スパイダーソルジャーを輸送車から降ろし、計測装置をその機体のあちこちに取り付けた。これは実戦テストなのだ。


「はああ……マナテクノが協力してくれていたら、翔空艇で現場まで運んでくれたんだろうな」

 フォスターがぶつぶつ言っているのを聞いて、ブリック大尉が笑う。


「いやいや、現在の日本は大変なんですよ。核ミサイルが撃ち込まれようとしたんですからね」

 リックウッドが不満そうな顔をする。

「それはマナテクノの迎撃システムで撃ち落としたそうじゃないか。以前から用意していたのだろう」


 大尉が否定して首を振る。

「違いますよ。あれはスペースデブリ駆除装置の威力を極限にまで上げて、迎え撃ったそうですよ」

「スペースデブリ駆除装置だって、そんなもので核ミサイルが迎撃できるのはおかしいだろ」


「そう言われても、軍事機密に関することなので、日本は同盟国の我が国にさえ教えないようです」

「まあ、それはお互い様だ」

 米国が秘密裏に開発している兵器は、同盟国にも教えないのが普通だった。


 リックウッドたちはスパイダーソルジャーを従えて移動を始める。一時間ほど歩いた頃、ファングボアが目撃された場所に到着。そこからファングボアを探しながら慎重に進んだ。


 そして、ファングボアの群れと遭遇。スパイダーソルジャーが進み出てガトリングガンが、ファングボアに向けられる。


 自分より大きな敵に遭遇した野生の動物なら逃げる。だが、ファングボアは違った。怒りの叫びを上げながら、スパイダーソルジャーに襲い掛かったのだ。


 スパイダーソルジャーのガトリングガンが吠えた。腹に響く音を発しながら銃弾をばら撒き、ファングボアの群れを掃討する。


 スパイダーソルジャーは、この実戦テストで意外なほど良い結果を残した。特に照準システムが優れていると分かり、リックウッドたちは喜んだ。


 ブリック大尉は実戦テストが終わった事を上官に報告してから、帰る支度を始める。また歩いて輸送車のところまで戻り、スパイダーソルジャーを輸送車に載せる。


 そして、輸送車が走り出した以降、ブリック大尉やリックウッドたちからの連絡が途絶えた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その数週間後、アメリカの西海岸から出発した船が日本の津軽海峡を抜けようとした時、海上保安庁の船に臨検で止められた。


 この臨検は書類を確認するだけの通常のものだったが、その船の乗組員が銃を出しいきなり撃ち始めた。海上保安官の一人が銃弾を受けて倒れ、巡視船は攻撃してきた船から離れようと操船する。


 海上保安官が撃たれたという連絡が巡視船から発せられ、救難翔空艇が発進して巡視船へ向かう。巡視船では撃ち合いが始まっていた。


 不審船は津軽海峡を通過するのを諦め南下する。巡視船はそれを追い掛け始めた。若干だが不審船の方が速い。ジリジリと差が開いているが、ここは日本の近海である。


 今頃は近くの巡視船が集まってきているはずだ。巡視船の船長である赤澤は、不審船を双眼鏡で観察した。

「あの船は、どこの船なんだ?」


 その不審船には商船旗などがなく、どこに所属する船なのか分からなかった。普通、密輸などを行っている船でも何らかの所属を示す旗を掲げているものだが、おかしいと思い臨検することにしたのだ。


 追跡している間も近付いてくる救難翔空艇には位置を知らせ続け、救難翔空艇が目視できる位置まで来た。ヘリコプターほど風の影響を受けない救難翔空艇は、走っている船に着地した。今日は風が強かったのに安定した着地だ。


 負傷した海上保安官が運ばれて来て救難翔空艇に乗せられると、また離陸して病院を目指して飛ぶ。その救難翔空艇を見送った赤澤はホッとして不審船に目を向けた。


「また距離が開いたな。あいつらどこへ行くつもりなんだ?」

 部下の一人が海図を見てから答える。

「このままだと、岩手の三陸海岸付近でしょうか」


 その辺りにマナテクノの工場が建設されていた。高速迎撃ドローンを製造する予定になっている工場である。この件はマナテクノにも連絡が行き、雅也たちも知ることになった。


 雅也は緊急時の指揮を執るために、建設中の工場へ向かうことにする。



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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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