scene:261 戦闘ロボット
迎撃ミサイルの件を社長や他の重役たちと話し合い、国民の命に関わるものだからということで引き受けると決まった。
「しかし、何でうちに依頼してきたんだ。元々ミサイルを開発製造しているところがあるのに」
神原社長は疑問を口にした。それを聞いた雅也が苦笑いする。
「我社は開発が早いからだそうです」
「それは動真力エンジン以外、既存の技術で済ますからだろう」
社長の意見は身も蓋もないが、真実だった。
「開発が早いということは、全体のコストが安くなるということなので、金のない防衛省にとっては、最重要なのだそうです」
日本が開発した兵器は高いというのが定説になっている。現に日本で開発されたミサイル六本の迎撃システムワンセットが、五百億円という値段だと雅也は聞いたことがある。
「ロシアの件もあったのだ。補正予算で、ドカッと金を注ぎ込むんじゃないのか?」
「財務省が渋るのではないかと、心配しているようです」
雅也は財務省対策を行うかと考えた。
マナテクノにはいろいろなところから取材の申込みが来ている。その多くは多忙という理由で断っているのだが、世論を喚起するために情報を流そうかと考えたのだ。
財務省が安全保障に掛ける予算を渋っているという情報が、世間に広まると国民の命に関わる問題なのに、何を考えているのだという世論が盛り上がった。
そのおかげで迎撃ミサイルに関しては、膨大な予算が注ぎ込まれることになる。そして、マナテクノの技術人と防衛装備庁が話し合って、迎撃ミサイルではなく『高速迎撃ドローン』を開発しようと決まる。
迎撃ミサイルと高速迎撃ドローンで何が違うかというと、ロケットエンジンやジェットエンジンを使うか使わないかの違いらしい。動真力エンジンだけで飛ばすと方針が決まったので、名称が『高速迎撃ドローン』に変わったようだ。
大型宇宙船サガミに搭載する予定の超高出力動真力エンジンは、大きさと値段の関係で使えないことが分かり、その代わりに小型高出力動真力エンジン一基と超小型動真力エンジン四基を組み込むことに決まった。
全体的な形は二等辺三角形でシンプルな戦闘機という感じである。公式発表の動力源は、バッテリーと高性能発電機から出力する電気になる。射程は三百キロほどと発表されるだろう。
だが、マナテクノにはメルバ送電装置があるのだ。射程は無制限となり、地球上のどこでも攻撃可能となる。
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一方、戦闘ロボットを開発したアメリカだったが、装甲を厚くした関係で重くなった。そこでマナテクノに協力してもらい、ロボット内部に動真力エンジンを組み込もうというアイデアが出たのだが、マナテクノから協力を断られて独力で改造することになった。
戦闘ロボットの形体は、四本足のクモ型戦闘ロボットである。背中に小型のガトリングガンを載せており、凶悪な威力を発揮する。
開発の担当責任者であるリックウッドは、渋い顔をしてクモ型戦闘ロボット『スパイダーソルジャー』を見詰めていた。
「リックウッド博士、日本から小型動真力エンジンが届きましたよ。これから会議が始まりますから来てください」
「分かった。すぐ行くよ」
リックウッドは工場の作業台を離れ、会議室へ向かった。
主要な開発メンバーを見回したリックウッドは、日本から届いた小型動真力エンジンの実物を見ながら説明を聞いた。この小型動真力エンジンは、スパイダーソルジャーを改造する際に参考にしようと思い購入したものだ。
「小型動真力エンジン一基じゃ不足だな。五基は必要だ」
リックウッドが言うと、開発メンバーの中で予算を管理しているロイスが首を振る。
「待ってください。スパイダーソルジャーを飛ばすつもりなのですか?」
「そうじゃないが、高い障害物を乗り越えるためには、必要だと思うんだ」
ロイスがジロリとリックウッドを睨んだ。
「その障害物というのは、ワールドトレードセンターじゃないんでしょうね」
リックウッドが黙って目を背ける。そのリックウッドにロイスが追い打ちをかける。
「小型動真力エンジンを五基も組み込むとなると、ほとんど設計からやり直しになる」
「設計からやり直したいくらいなんだ。何で装甲をあそこまで厚くする必要があるんだ」
「軍の要望です」
「そのせいで丸太を乗り越えるのに、五分もかかるようになった。まあいい、改造案がある者は手を挙げてくれ」
若い技術者が手を挙げる。
「フォスター、どんなアイデアだ?」
「ガトリングガンの真下に、小型動真力エンジンを組み込むんです」
「あそこは弾倉だろ。ガトリングガンの弾数が減るぞ。軍人さんが嫌がる」
フォスターは不満そうな顔をする。
「弾倉は、スパイダーソルジャーの背中に追加すればいい」
「それは弱点を作ることになる」
侃々諤々の議論が始まるが、結局フォスターのアイデアを使うことになった。小型動真力エンジンを組み込んで様々なテストを行っている最中に、スパイダーソルジャーを使いたいという軍からの要望が上がった。
別世界から転送された魔物が、また発見されたらしい。これは最近転送されたというのではなく、未発見のまま山の中をさまよっていたようだ。
「その魔物は、どんな奴なんです?」
リックウッドが軍の要望を伝えに来た連絡官に尋ねた。
「大した魔物じゃありませんよ。ファングボアというデカイ猪の群れなんです」
軍はファングボアの群れなら、スパイダーソルジャーのテスト相手として相応しいと思ったようだ。
リックウッドは嫌な予感を覚えた。どうも軍ではスパイダーソルジャーのプロジェクトを打ち切りたいと思っている軍人がいるようだ。ファングボアを相手に倒せないようならプロジェクト終了となるかもしれない。




