scene:256 岩山迷宮の十六階層
岩山迷宮の十五階層を攻略したデニスたちは、十六階層に下りた。このエリアは草原に森が点在するエリアだった。しかも途轍もなく広大なエリアであり、そこに棲み着いている魔物はどういう化け物なのか?
デニスはイザークとフォルカに気を引き締めるように言った。この草原と森のエリアを見て、違和感を覚えたのである。
「しかし、広そうなエリアですね」
フォルカが見回して言った。草原の所々にある森は、巨木ばかりのように見える。
「まずは、あの森を目指して進もう」
デニスが一番近い森を指差した。その森に近付くと何か巨大な生物が歩く足音が聞こえてきた。デニスたちは武器を構え、用心深く進み始める。
森に入ってすぐに巨木を何かが殴ったような音が聞こえてきた。そして、ザザッという巨木が揺れる音が耳に届く。
「こんな巨木を揺さぶるような化け物がいるのか?」
イザークが青い顔をして言った。
「静かに、注意して行こう」
デニスが先頭になって進み、その化け物の正体が見れる場所まで来た。そいつは巨大なバッタだった。全ての足の爪を巨木の幹に叩き付けて幹にしがみつくように登り始めている。
この巨木に登り青々した葉っぱを食べようとしているのだ。また巨大バッタが巨木の幹に前足を叩き付けた。ドゴッという音が響き渡り、巨木の上の方が枝を震わせザザッと音を立てる。
デニスは『逃げるぞ』と手で合図した。イザークとフォルカは頷く。慎重に後退して、森から抜け出そうとしたのだが、今度は後方から重々しい足音が聞こえてくる。
「またか、木の陰に隠れるぞ」
デニスたちは巨木の陰に隠れて、今度はどんな化け物が現れるのか見守る。現れたのは巨大なトカゲだった。その大きさは成人男性の五倍ほどの大きさで、頭に角を持っていた。
ホーン大トカゲは獲物を探して大きな眼をギョロギョロとさせる。巨大バッタを見付けたホーン大トカゲは巨木に登り始めた。
巨大バッタが地上に飛び下りて逃げ始めると、ホーン大トカゲが追い駆ける。そして、巨大バッタを捕まえたホーン大トカゲは大きな口で噛み付く。
「なんてことだ」
この光景を見て、イザークが声を上げた。その声が聞こえたのか、ホーン大トカゲがこちらに視線を向けた。
デニスたちは声を上げずに顔を引っ込める。だが、完全に気づかれたようでホーン大トカゲがバッタを咀嚼しながら近づいてきた。
「仕方ない。戦おう」
デニスが決断した。三人は爆噴爆砕球で攻撃。その攻撃がホーン大トカゲに命中して、ダメージを与える。ホーン大トカゲの腹から体液が流れ出し、怒った化け物が突撃してきた。
デニスたちは避けるためにバラバラに逃げ出す。ホーン大トカゲが選んだのは、イザークだった。イザークを追って走り始めたホーン大トカゲの後ろから、爆噴爆砕球で攻撃する。
苦痛に悶えたホーン大トカゲが動きを止めた瞬間、フォルカが放った赤外線レーザーが化け物の頭を焼いた。その一撃は大ダメージを与えたようだ。
ふらふらするホーン大トカゲの首に、デニスが飛び込んでルインセーバーを叩き付ける。巨大な頭が宙を飛んだ。ルインセーバーが首を切断したのである。
ホーン大トカゲはドロップアイテムを残した。腕の長さほどのクロスボウで、ボルトと呼ばれる短い矢は付いていない。
「クロスボウだな。普通の武器なのか?」
首を傾げたイザークが、拾い上げてクロスボウの弦を引いて弦受けにセットする。空撃ちして、ちゃんと動くか確かめようと思ったのである。
すると、ボルトをセットする場所に透明な水晶で出来ているような太い矢が現れた。
「えっ、これは迷宮装飾品のように特殊な力を秘めた武器なのか」
デニスも興味が湧いて近付き、クロスボウを見た。
「あの巨木に向かって試してみせてくれ」
「分かりました」
イザークはクロスボウを肩の高さまで持ち上げ巨木を狙って引き金を引く。その瞬間に水晶矢が光となって前方に飛び出した。その光は巨木の幹に命中し頑丈そうな幹に焼け焦げた孔を開ける。
デニスたちは狙った巨木に近付き穴を調べた。その痕跡は【レーザー射撃】で攻撃した時のような感じだったが、威力はクロスボウの方が上のようだ。デニスは『レーザークロスボウ』と名付ける。
「その武器は、弓が一番得意なイザークが使ってくれ」
「よろしいのですか?」
「得意な者が使う方が、戦力になる」
イザークは納得して、レーザークロスボウを紐で背中に固定する。
デニスたちは森を探索し、巨大バッタが多数棲み着いていることが分かった。
「この調子だと、トカゲの他にも巨大バッタを獲物にしている化け物が居そうだな」
イザークが不吉なことを口にする。
「やめてくださいよ。馬鹿デカイ化け物はトカゲだけで十分です」
フォルカが軽口で返した。
デニスたちは森の奥へと進み、今度は巨大なカマキリと遭遇。
「くっ、今度は馬鹿デカイカマキリか。このエリアにはデカイ魔物しか居ないんじゃないですか」
「フォルカ、愚痴を零していないで戦え」
「そりゃあ、戦いますけど、こんなのが数多く居たんじゃ、野営する場所が心配です」
「野営する場所は、こいつを倒してから考えろ」
イザークはレーザークロスボウを構えて、巨大カマキリを狙う。少し距離はあるが、急所の頭に命中できれば、仕留められそうだ。
デニスとフォルカが巨大カマキリの足元に爆噴爆砕球を叩き付けた。巨大カマキリは足にダメージを受けて地面に転がる。そこにレーザークロスボウの攻撃が放たれ、頭を撃ち抜く。
「イザーク、見事だ」
デニスがイザークを褒めた。イザークが嬉しそうに笑う。
「この武器は使えそうです」
そろそろ野営の準備を始めることになり、デニスたちは場所を探した。初めは草原に野営しようかと考えたデニスたちだったが、草原には中型犬ほどの虫が居ることが分かった。
蟻に似た虫で、強力な顎で何でも噛み切ってしまう危険な魔物だった。
「あそこはどうでしょう?」
フォルカが巨木が密集しているところに、枝が絡み合って工夫すれば寝られる箇所を見付けた。




