scene:247 遊園地
デニスたちはベネショフの町に戻った。彼らが迷宮攻略をしている間にも、この町は発展を続けている。工事中だった遊園地も完成して、営業が始まろうとしていた。
この国で初めての遊園地である。遊具はメリーゴーラウンドや迷路、お化け屋敷の他に普通の公園にもあるようなシーソーや回転遊具がある。
この遊園地で一番人気になると考えているのは長大な滑り台である。元々の斜面を利用した滑り台は、曲がりくねった変化のあるもので、ローラーを使っているのでスピードが出た。
迷宮探索で疲れたデニスが、着替えてリビングで寛いでいると、そこに妹のマーゴが来た。
「デニス兄さん、遊園地で遊べるようになるんでしょ。連れて行ってよ」
「遊園地が営業を開始する日には、連れて行くつもりだよ」
「本当に、やったー!」
マーゴは飛び上がって喜んだ。
遊園地が営業を開始した日、近隣の貴族たちや取り引きのある商人たちを招待した。これらの人々が、遊園地の楽しさを周囲に広めてくれるのではないかと考えている。
招待客が家族も一緒に連れてきたので、思っていた以上に人数が多くなった。クリュフ領のクリュフバルド侯爵がデニスの傍に来て挨拶する。
「噂は聞いていたが、中々面白いところだね」
「お忙しい中、招待に応えて頂き、ありがとうございます」
「いやいや、ベネショフ領で行われることは、我々にも勉強になるから楽しみだよ」
遊園地では小さな子供に遊んで頂き、植物園と公園では家族一緒に寛いで欲しいと言った。
「遊園地で大人が遊ぶのはダメなのかね?」
「もちろん、構いませんが、遊具のほとんどは子供向けのものが多いのです」
「なるほど、子供が遊ぶ場所か。この国では初めてのものだね」
「はい、食事ができる場所も用意してありますので、ご賞味ください」
この遊園地と公園の間に、フードコーナーのような場所があり、ライ麦パンを使ったハンバーガーやお好み焼き、餃子、唐揚げ、焼き貝などの新しい料理と元々あった料理が出されていた。
普通の飲み物は各種ジュースとお茶、酒はエールとワインだけである。こちらではワインをヴァイン酒と呼んでいる。味は白ワインに似ていた。
クリュフバルド侯爵家には、子供の親族が大勢いる。息子であるランドルフは結婚したばかりであり、まだ孫はいない。そこで小さな甥や姪を連れてきたようだ。
クリュフバルド侯爵自身は植物園を見て回るというので、植物園の管理をしている家臣を案内役に呼んで一緒に送り出した。
遊園地の中で甲高い声が響いた。この遊園地で一番力を入れた長大な滑り台の方角からである。確かマーゴとアメリアたちが行っているはずだ。
滑り台の方へ行くと、行列が出来ている。子供たちが目をキラキラさせて並んでいた。その並んでいる中には大人も混じっている。
ほとんどは小さな幼児と一緒に滑る親たちのようだ。但し例外もいる。ミンメイ領の領主ヨルン男爵の次男ハインツと仲間たちだ。
滑り台に成人した者が乗ったらダメだというルールはないので、乗るのは自由だ。だが、小さな子供たちに混じって並んでいるのは、ちょっと笑える。
マーゴとアメリア、そして、フィーネとヤスミンも並んでいた。フィーネとヤスミンは妹や弟たちを連れてきたようだ。
この世界にはジェットコースターがないので、その代わりに滑り台を造ったのだが、滑り台が人気化するなら本格的なジェットコースターを造ることも考えよう。
滑り台を滑る子供たちは、なぜか大声で叫んでいる。楽しそうな声なので、心配は要らないだろう。マーゴの順番になって、ブレーキ付きのソリに乗る。
怖がる子供もいるので、スピードの調整ができるようにしたのだ。マーゴが楽しそうに声を上げて、滑り下り始めた。あの声から判断すると、非常に喜んでいると分かる。
メリーゴーラウンドや迷路、お化け屋敷も子供たちを大喜びさせた。女の子はメリーゴーラウンドが気に入ったようだ。
植物園に行ったクリュフバルド侯爵は、珍しい草花を見て楽しんだようだ。温室で栽培している熱帯の植物もあり、それには目を細めて考え込んでいたらしい。
昼になりフードコーナーの混雑が始まる。初めは慣れ親しんだ料理を注文する者も多かったが、ハンバーガーやお好み焼きが美味しいという者が現れ、新しい食べ物を試してみようという者が多くなった。
大人の男たちは餃子、唐揚げ、焼き貝とエールやワインを注文して飲み始めた。エグモントはクリュフバルド侯爵に捕まり、エールを飲み交わしている。
「この餃子のタレはいいじゃないか。これを考え出した料理人は、ベネショフ領の宝だよ。大切にするといい」
侯爵はかなり餃子が気に入ったらしい。何回もお代わりをしていた。
「しかし、どうして遊園地や植物園を造ろうと思ったのだね?」
侯爵がエグモントに尋ねた。
「デニスは子供が遊べる場所を造りたかったようです。それに遊園地を目当てに、人々がベネショフ領を訪れるようになれば、宿屋や商店が潤うという考えもあったのです」
調べれば分かることなので、エグモントは正直に話した。侯爵は遊園地の周りにある宿屋やお土産屋に視線を向けると面白いと思ったようだ。
この遊園地の噂は近隣の町に広がり、大勢の人々がベネショフ領を訪れるようになった。最初は何でそんなものを、と思ったらしい。
だが、遊園地を目当てにベネショフ領を訪れる者が増えると、そういう事かと納得した。ベネショフ領を訪れた人々が、かなりの金額を使うことでベネショフ領の税収が増えたからだ。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
遊園地が軌道に乗ると、デニスは十五階層の攻略をどうするか考え始めた。湖の中にある島に行くには船が必要である。その船をどうやって運ぶかが問題だった。
「あの湖には魔物がいるのでしょうか?」
イザークが質問を上げた。
「どうだろう。だが、居ると仮定して、進めないとダメだと思う」
デニスの言葉を聞いたフォルカが、
「だとすると、頑丈な船が必要になります」
デニスが溜息を漏らした。あの湿原には船を造れるような木も生えていなかったからだ。
「ここで造って、持って行くというのは無理でしょうか?」
イザークが提案した十五階層まで船を運ぶというのは無理だ。ライノサーヴァントを活用しても難事業になるのは明白だ。
デニスは自分が持つ真名を確認して、その真名で何とかできないか考えた。
「そうだ、『冷凍』の真名が使えそうだ」
「まさか、湖を凍らせて歩いて渡ろうなんて言うんじゃないでしょうね?」
フォルカの言葉を聞いたデニスが笑った。
「それができれば一番安全なんだが、無理だろう。そこで氷の船を造ろうと思う」
イザークが首を傾げる。
「デニス様、氷は脆いものです。大丈夫でしょうか?」
イザークは魔物に攻撃された場合を心配しているようだ。当然のことなので、対策は考えると伝えた。




