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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
247/313

scene:246 イザークとフォルカの戦力強化

 クム領のミトバル迷宮で迷宮主の七頭竜を逃したデニスは、クム領の領主であるテオバルト侯爵から感謝された。他領の迷宮主を退治している余裕はなかったのだが、結果的にそうなったというだけだ。


 テオバルト侯爵の屋敷で一泊してから、デニスはベネショフ領に向かって船を出した。その船の上でゲレオンがデニスに声を掛ける。


「デニス様、申し訳ありません。我々の力不足で七頭竜を逃してしまいました」

「ゲレオンたちのせいではない。テオバルト侯爵が迷宮主を仕留めに動くのは、もう少し先だと思っていた僕が、間違っていたのだ」


「ですが、『転写』の真名を手に入れたかったのではないのですか?」

 ゲレオンはデニスが転写の真名を手に入れるために、クム領へ来たと勘違いしたようだ。


 七頭竜が地球へ転移したのなら、雅也が仕留める可能性がある。それを信じるしかなかった。

「心配するな。あれだけの傷を負わせて、迷宮でない場所へ飛ばしたのだ。そこで死ねば、僕が仕留めたことになり、真名が手に入るかもしれない」


 ゲレオンが首を傾げた。

「そんなことがあるのでしょうか?」

「まあ、可能性は低いが、絶対にないとは言えんだろう」


 それから船がゴルツ半島の東側にあるベラトル領に近付いた時、デニスは『転写』の真名が手に入ったことを知った。雅也が七頭竜を倒したのである。


 デニスがにこやかな顔で甲板に出てくると、ゲレオンが首を傾げた。

「ご機嫌な様子ですが、何かありましたか?」

「七頭竜が死んだ」

「まさか……では、『転写』の真名を手に入れられたのですか?」


 デニスは大きく頷いた。

「手に入れた」

「本当でございますか?」

「証拠を見せてやる。『治癒』の真名をゲレオンに転写する」


「えっ、そんなことが?」

「できる。静かに目を閉じて待て」

 デニスはそう言ってから、『転写』の真名を解放して精神を集中した。自分の中にある『治癒』の真名を探し、それを『転写』の真名の力でゲレオンの精神に転写する。


「おっ!」

 ゲレオンが驚きの声を上げる。デニスは深呼吸してから緊張を解いた。

「どうだ、『治癒』の真名が転写されたはずだ」

「驚きました。本当に『転写』の真名を手に入れられたのですね」


 ベネショフ領に着くまで、デニスは『転写』の真名をいろいろ試してみた。そして、この真名も万能ではないことが分かった。


 転写に失敗する場合もあるのだ。それはデニスと精神的な相性が、良いか悪いかで違うらしい。そして、強い力を持つ真名ほど転写が難しいようだ。


 これはデニスが『転写』の使い方に習熟していないことも原因だった。なので、時間が解決してくれるかもしれない。


 ベネショフ領に到着したデニスは、父親のエグモントに報告した。

「そうか、『転写』の真名を手に入れたか。その真名を使えば、デニスの持っている真名を転写できるのだな」


 デニスは頷き、エグモントに『怪力』と『頑強』の真名を転写してみせた。それを確認したエグモントは真剣な顔になる。


「これは大変な事だ」

「父上、どういう意味です?」

「こんなことが可能なら、ベネショフ領は最強の戦士団を作ることができる」


「そうかもしれませんが、まずは迷宮主を倒さねば、ベネショフ領に未来はありません」

 エグモントが溜息を漏らした。

「そうだな。まずは迷宮主だ」


 デニスは迷宮主討伐に参加しているイザークとフォルカに、戦闘に役立つと思われる『怪力』『加速』『治癒』『爆砕』『爆噴』『光子』『空間歪曲』の真名を転写しようとした。


 だが、この七つの真名の中で『空間歪曲』だけは転写できなかった。この真名は転写に時間がかかりすぎて、集中力を保てなかったのだ。但し、他の六つは転写できた。


 これで戦力が増強できる。真名は取得しただけでは戦力にならない。その真名を使い熟せるようになって初めて戦力になるのだ。


 イザークとフォルカは、デニスから新しい真名の説明を受けた後、使い熟すための練習を始めた。新しい真名の中で『加速』と『光子』が大変だったらしい。


 『加速』は慣れるのに苦労し、『光子』は光子という概念を理解するまでが大変だったようだ。光子についてはデニスが何度も説明することになった。


「デニス様、こんな難しい真名を、よく一人で使えるようになりましたね」

「王家の図書室も使って、学んだからな」

 イザークは王家の図書室と聞いて、納得したように頷いた。王家の図書室なら、そういう知られていないような情報もあるのかもしれないと思ったのだろう。


 イザークとフォルカの二人が十分に真名を使い熟せるようになってから、デニスは迷宮に潜った。九階層で野営して休息を取り、翌日は九階層の森から出発して十三階層まで進んだ。


 巨人スケルトンのボーンサーヴァントであるボーンソルジャーの力を借りて、十三階層の端まで進み十四階層に下りた。すると、草原が広がっていた。


 前回来た時には、草原だけ確認して戻ったので、ここにどんな魔物がいるのかも分からない。デニスたちは慎重に前へ進み始めた。


 最初に遭遇した魔物は、オーガだった。イザークとフォルカが任せてくれと言うので任せる。二人は蒼鋼製長巻を構えて前に進み出た。


 オーガとの距離が縮まった時、二人の動きが驚くほど加速した。左右に分かれて跳躍した二人が、両側からオーガの脇腹を狙う。オーガが右側から攻めたイザークの長巻を防いだが、フォルカの長巻による攻撃を受けて、脇腹に深い傷を負った。


 オーガが左側を庇うような動きを見せたので、背後に回り込んだイザークが背中を袈裟懸けに斬る。オーガが吠えた。交互に切り込むイザークとフォルカは、多数の斬撃をオーガに叩き込み勝利をものにした。


「『加速』の真名は、だいぶ使えるようになったみたいだな」

 フォルカが嬉しそうに笑う。

「兵たちにも手伝ってもらって、徹底的に鍛えましたから」


 二人は二十人の兵を相手に竹刀の長巻を使って戦い、『加速』の訓練をしたらしい。

「さて、先に進もう」

 デニスたちが草原の奥へと進むと、コボルトの群れと蛙面巨人の集団に遭遇した。身長五メートルの蛙面の巨人は、手に棍棒を持っている。


 最初にコボルトたちがデニスたちに向かって襲い掛かった。デニスたちはボーンソルジャーに迎撃するように命じる。


 デニスが巨人に目を移す。巨大な眼をギョロギョロと動かしてデニスたちを発見した巨人たちは、柱のような棍棒を振り回して襲ってきた。


 三人は爆噴爆砕球を放った。三発の爆噴爆砕球は、それぞれの巨人に命中する。その威力は大きく三匹の巨人が戦闘不能になった。


「残りは三匹だ。確実に倒すぞ」

 デニスが宝剣緋爪を抜いて叫んだ。爆砕球を放つには距離が近すぎるので緋爪で斬り付ける。太い脚を薙ぎ払うように斬り付けると、蛙面巨人が棍棒を放り出し、手で傷口を押さえながら倒れた。


 デニスが走り寄って、倒れた巨人の首を刎ねる。イザークとフォルカの様子を見ると互角以上の戦いをしていた。デニスは安心して、最初に爆噴爆砕球で戦闘不能にした蛙面巨人にトドメを刺した。


 すると、緋鋼がドロップアイテムとして残った。そして、イザークとフォルカが蛙面巨人を仕留める。


「あっ」

 イザークが声を上げた。イザークが倒した巨人が、同じく緋鋼をドロップしたのだ。


「連続して緋鋼がドロップするなんて、珍しいな」

 デニスが言うと、イザークとフォルカが頷いた。イザークがデニスに顔を向けた。

「この緋鋼は、どうされるのですか?」


「イザークとフォルカの武器を作ろう。ここから先は蒼鋼製の武器では、通用しなくなるかもしれない」

 迷宮主は緋鋼製の武器も通用せず、神剣が必要なのだ。蒼鋼製武器に頼っていると、痛い目に遭うかもしれない。


 コボルトたちと戦っていたはずのボーンソルジャーは、撃退したらしい。静かに次の命令を待っていた。


 デニスたちは十四階層を探し回り十五階層へ下りる階段を見付ける。十五階層は湿原だった。中央に大きな湖があり、その中央の島に建物が建っていた。


「あの建物に何かありそうだな」

 デニスの言葉にフォルカが頷いた。

「ですが、どうやって島まで渡りますか?」

「船を用意しなきゃならないか。一度街に戻って考えよう」



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[気になる点] 蛙面巨人?コロニストかなw [一言] 多次元層を超えれる種族が居るせいで可能性がw
[一言] 真にやばいのは転写それ自体を転写できる場合ですね……!
[一言] これでどんどん強くなってくれると読む方も安心です。 出し惜しみで死ぬなどあり得ないですし。 苦戦なんて修羅でもない限りしない方がいい。
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