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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
243/313

scene:242 ミトバル迷宮の迷宮主

 デニスたちは船でクム領へ向かった。

「デニス様、クム領の秘跡門というのは、何なのですか?」

 ミヒャエルが尋ねた。


「その秘跡門を潜った魔物が、消えてなくなるという代物らしい」

「へえー、何でも消えるのですか?」

「いや、魔物だけだと聞いている。人間まで消えるなら、大変な事になっていただろう」


 クム領の港に到着したデニスたちは、テオバルト侯爵に会いに行った。

「お久しぶりでございます」

 テオバルト侯爵の屋敷で、侯爵自身に歓迎された。


「デニス殿、このような時にどうされた?」

「気になることがあり、秘跡門を調査に参りました」

「秘跡門を……どこが気になるのですかな?」

「消えた魔物は、どこに飛ばされるのかということです」


 侯爵が首を傾げた。

「飛ばされる? 魔物は消滅するのではないのか?」

 侯爵は秘跡門を潜った魔物は消滅すると考えていたようだ。


「王都の学者から聞いたのですが、どこかに飛ばされるのではないか、と聞きました」

「それは迷信だ。秘跡門で消えた魔物が、どこか別な場所で発見されたという事実はない」


 もし、秘跡門で消えた魔物が地球に転移されたということなら、この国で魔物が発見されるということはなかっただろう。


「今、秘跡門を使っているのですか?」

 デニスが侯爵に確認した。

「魔物はどこか別の場所に飛ばされるのだ、という迷信が広がっていたのを、儂が間違いだと訂正して使えるようにしたのだ」


 余計なことを、と思いながら詳しい状況を聞いた。秘跡門は石の壁により封鎖されていたらしい。その壁を壊して使えるようにしたのが、テオバルト侯爵だという。


 デニスは秘跡門にどんな魔物を入れたか尋ねた。

「ミトバル迷宮が特徴的なのは、地上に広がる迷宮だという事だ。そして、様々な魔物が棲息している」

 秘跡門に追い込んで消えた魔物は、ストーンゴーレム・死神ワイト・オーガ・蛙面巨人・ブルードラゴンなどだと言う。


 それを聞いたデニスは確信した。消えた魔物は地球に転移したのだ。

「これから先も、秘跡門を利用されるのですか?」

「迷宮主を倒すまでは、利用するつもりだ」

「まさか、迷宮主に対しても、秘跡門を使おうと考えているのではないでしょうね」


 侯爵がデニスをジッと見た。

「それが悪いのかね?」

「ミトバル迷宮の迷宮主は、七頭竜だったはず。迷宮主を倒せば『転写』の真名が手に入るのです」


「『転写』の真名より、領民の命が大事だ。私の考えは間違っているかね?」

「いいえ、その通りです」

 侯爵が秘跡門を利用しなくなるようにすることは無理なようだ。


「そうだろう」

 その言葉を聞いて、デニスはミトバル迷宮を調べることにした。テオバルト侯爵に資料を見せて欲しいと頼むと承知してくれた。


 デニスは調査を始めた。その結果分かったことは、ミトバル迷宮の特殊な構造である。この迷宮は八区画に分かれているのだが、その中心に遺跡区画というものがある。そこに秘跡門があるのだが、その遺跡区画は他の七つの区画へ繋がっている道があった。


 テオバルト侯爵の黒旗領兵団は、他の区画から魔物を遺跡区画へ移動させ秘跡門を潜らせていたようだ。但し、さすがに迷宮主を遺跡区画へ誘い出すことには成功していなかった。


 ここの迷宮の構造からして、遺跡区画からなら迷宮主がいる区画へは、いつでも行けるらしい。ただ迷宮主の区画には、オーガやブルードラゴンも一緒にいるので、まずオーガなどを始末しないと迷宮主には手が出せなかったという。


 侯爵の書斎を借りて魔物の分布などの資料を調べていた。そこに侯爵が訪れる。

「何を調べているのかね?」

「ミトバル迷宮に棲み着いている魔物の分布を調べていました。この迷宮は広さの割に魔物が少ないようですね」


「そうかもしれん。だが、迷宮主の七頭竜は手強い相手だよ」

「確か、蛇のような七つの頭を持つドラゴンでしたね?」

「そうだ。その七つの頭全てを切り落とさないと死なないと言われている」


 しかも、口から『死の叫び』と呼ばれる特殊な声を出すので恐れられていた。デニスは『死の叫び』というのは、強烈な超音波に類するものではないかと推測している。


「迷宮主がいる区画から、他の魔物を始末したようですね?」

 迷宮で始末された魔物は、時間が経つと復活するのが普通である。ゴブリンやコボルトならば、翌日には復活するが、オーガやゴーレムは復活するのに時間がかかるという。


「やっとだよ。明日には迷宮主を誘い出して、秘跡門で始末できる」

「侯爵様、その作戦を見学することを許してもらえませんか?」

「しかし、迷宮主は危険な存在ですぞ」


 デニスは笑った。

「これでも故郷の迷宮で、迷宮主を倒そうと頑張っているのです。心配は無用です」

「そうでしたな。見学を許可しましょう」


 翌日、デニスとゲレオン、ミヒャエルの三人は、黒旗領兵団と一緒に迷宮へ向かった。黒旗領兵団は、侯爵の弟であるバステル団長が指揮を執っている。


「デニス殿、この作戦はクム領の運命がかかっている作戦です。おとなしく後ろで見学していてください」


「分かっています。迷宮主は手強い。ご武運を」

「ありがとう」

 数十人の黒旗領兵団の精鋭が、遺跡区画から迷宮主がいる区画へ向かった。あの中で何人が生き残るだろうか。そんなことを考えながら、デニスたちは見送った。


 遠くから戦いの気配が聞こえてきた。その気配が近付いてくる。

「デニス様、我々が援護しなくて良いのですか?」

 ミヒャエルが人の断末魔の声を聞いて尋ねた。


「手を出すな、と言われている。自分たちの身に危険が及びそうでない限り、彼らに任せよう」

 そんなことをデニスたちが話していると、遺跡区画に迷宮主が姿を現した。誰であろうと恐怖を感じてしまうほどの殺意を全身から放っている化け物だ。


 その化け物に向かって、黒旗領兵団の精鋭たちが攻撃を加えていた。その人数は八人に減少している。

「念のためだ、『装甲』と『頑強』の真名を解放し、装甲膜を展開しておこう」

 デニスが指示をすると、ゲレオンとミヒャエルが頷いた。


 バステル団長が秘跡門の後ろに回り込めと命令を出す。精鋭たちは攻撃しながらも、移動する。それを追って迷宮主が進み始めた。


「デニス様、迷宮主の七つの頭が、一つも失われていません」

 ミヒャエルが指摘した。デニスは厳しい顔をして頷く。バステル団長が豪火球を迷宮主に叩き込んだ。よく使われる火炎球の五倍ほどの威力がある放出系真名術である。


 迷宮主の真ん中の頭に命中した豪火球は大きな爆発を起こす。爆炎が収まった後、迷宮主は軽い火傷ができた程度で、ほとんどダメージを負っていなかった。


「なんと、あの爆発でほとんど傷を負っていないとは、呆れるほど頑丈ですな」

 ゲレオンが驚きの声を上げる。

「父上、驚いている場合ではありませんぞ。デニス様、本当に見ているだけでよろしいのですか?」


 迷宮主の真ん中の頭が口を大きく開けた。

「まずい……」

 デニスは迷宮主が『死の叫び』を放つつもりだと気付いた。バステル団長も同じタイミングで気づき、顔色を変える。


 このままでは黒旗領兵団が全滅すると確信したデニスは、『爆砕』と『爆噴』の真名を解放し爆噴爆砕球を、口を開けている頭に向かって放った。


 爆噴爆砕球は狙い通り頭に命中して爆発する。その破壊力は豪火球よりも上だった。それでも迷宮主は軽い傷を負っただけで、爆噴爆砕球の爆発を耐えた。


 だが、『死の叫び』の発動は阻止したようだ。

「感謝する」

 バステル団長の叫び声がデニスのところまで届く。


 迷宮主が動きを止め、七対の目でデニスを睨んだ。


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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[一言] こいつに敵わない様では岩山迷宮の主はとても 倒せそうにない。 転写、いただきましょう。
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