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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
242/313

scene:241 クム領の迷宮

 デニスは雅也に頼まれて『召喚』の真名について調査することにした。複数種類の魔物を召喚できる真名が存在するのか調べるのだ。


 船でロウダル領の港まで行き、港からライノサーヴァントに乗って王都モンタールへ向かった。同行しているのは、従士ゲレオンとその息子ミヒャエルである。


「デニス様、王都の様子も少し変わってきましたね」

 ライノサーヴァントの上からミヒャエルが言った。ミヒャエルが言っているのは、街道を行き来する馬車を引いているもののことである。


 王都の近くにあるミモス迷宮には、骨奇馬という巨大馬のスケルトンが出る。その骨奇馬を倒すとボーンエッグが得られることが分かり、ミモス迷宮で骨奇馬の狩りが流行っているようだ。


 その骨奇馬のボーンエッグから誕生したのが、ポニーサーヴァントである。街道で馬車を引いている三割ほどがポニーサーヴァントだったのだ。


「ポニーサーヴァントの力は、どれほどなのでございますか?」

 ゲレオンが尋ねた。

「ライノサーヴァントの二割ほどだと聞いている。それでも普通の馬よりは力が強いらしい。それに飼葉かいばや水が必要ないので、骨奇馬のボーンエッグを購入する商人が増えていると耳にした」


「そうなのですか。しかし、軍人が乗るには小さすぎますな」

 ゲレオンはポニー程度の大きさしかないポニーサーヴァントに乗って、戦場を駆け回る姿を想像する。すると笑いがこみ上げてきた。


 ミヒャエルが笑っている父親に顔を向ける。

「少しおかしくはありますが、ライノサーヴァントを持たない者には便利そうですよ」


「まあな。便利そうではある。それより注目されていますぞ」

 この街道ではポニーサーヴァントより、デニスたちが乗るライノサーヴァントの方が珍しく目立つようだ。


 王都に到着したデニスは、屋敷で疲れを取ってから白鳥城へ行った。登城したデニスは、王族が生活の場にしている区画に案内される。


「デニス、少し見ない間に逞しくなったのではないか?」

 国王マンフレート三世の言葉で出迎えられた。

「ベネショフ領で迷宮探索ばかりをしていたせいでしょう」


 国王は顔をしかめてから頷いた。

「今はどこもそうだ。王都でも大勢の者が、ミモス迷宮と湖島迷宮に潜り迷宮主を倒そうとしている。岩山迷宮はどうなのだ?」


「十三階層を攻略し、十四階層へ下りたところでございます」

「ふむ、まだ迷宮主がいる最終階層には届かぬか。苦労が続きそうだな」

 デニスは溜息が漏れそうになって堪えた。


「このたびは、どのような目的で王都へ来たのだ? テレーザの顔を見に来たというのでも良いのだが」

 デニスは笑顔を浮かべて頭を下げた。

「迷宮の魔物と真名について、調査を行うために参りました」

「そうか。好きなだけ図書室を使うがいい」


 デニスは優雅に頭を下げる。

「ありがとうございます」

「テレーザのところへも顔を見せるのだぞ」

「そういたします」


 デニスはテレーザに会って少し話をしてから、図書室に向かった。真名事典を取り出して、テーブルの上に広げた。何度も見た本だが、全項目を確認した事はない。


 最初の頁から一つずつ真名を確認することにした。目が疲れるまで調べたが、目当ての真名を探し出せなかった。


「知られていない真名なのかな」

「何の話じゃ?」

 デニスはびっくりして、声がした方に目を向ける。賢人院の学者メトジェイが立っていた。デニスが賢人院へ行った時に知り合った学者の一人であり、専門は迷宮装飾品だったはずだ。


「いくつもの種類の魔物を召喚できる真名を探していたのです」

「そんな真名は聞いたことがないな。本当にあるのか?」

「分かりません。そういう真名があると噂を聞いたのです」


「なんだ、噂か。考えてみれば、そんな真名を持つ魔物がいるとすれば、それは魔物の王ということになる」


 その言葉を聞いたデニスは頷いた。

「魔物の王ですか。その名に相応しいのは、ドラゴンでしょうか?」

「いや、ドラゴンでさえ、魔物の王とは言えまい。そうだ、逆のことをする装置なら、あったはず」


 デニスは首を傾げた。

「逆と言うと?」

「魔物をどこかに転移させる魔導秘跡があるのだ」

 メトジェイ博士の話では、クム領のミトバル迷宮に魔導秘跡と呼ばれているものがあるらしい。それは巨大な門のようなものだという。


「その秘跡門に魔物を追い込むと、どこかに消えてしまうと言われている」

 デニスは、その秘跡門が怪しいと感じた。誰かが魔物を秘跡門に追い込んで始末しているとすれば、それが地球に飛ばされているという可能性がある。


「ふむ、面白い話です。その消えた魔物はどこに行ったのか分かりますか?」

「いや、誰も確かめた者はいない」

 確かめないとダメだな。だが、どうやって確かめる? デニスは考え始めた。


 デニスはメトジェイ博士に礼を言って、図書室から出た。白鳥城の通路を歩いていると、向こうから近づいてくるコンラート軍務卿の姿が目に入る。


「軍務卿、お久しぶりでございます」

「おお、デニス殿か。岩山迷宮の攻略は順調にいっておるのか?」

「ええ、ボーンソルジャーを手に入れてから、進み始めました」


「ヌオラ共和国の迷宮から、巨人スケルトンのボーンエッグを手に入れて、誕生させたボーンサーヴァントだそうだな。そんなに違うものなのかね?」


「かなり違います」

「見てみたいものだ。今日は持って来ているのか?」

「ええ、持っています」


「良かったら、見せてくれんか」

「もちろん、構いませんよ」

 軍務卿と訓練場へ向かった。訓練場では兵士たちが訓練を行っている。その兵士たちが軍務卿の姿を見て、訓練をやめ敬礼する。


 訓練を指導していた指導官が走って来て、軍務卿の前で敬礼する。

「何か御用でしょうか?」

「デニス殿が、新しいボーンサーヴァントを見せてくれるというので、場所を借りたいのだ」


「分かりました」

 指導官は訓練場一杯に広がっていた兵士たちを集めて並ばせた。

「どうぞ、お使いください」


 デニスはボーンソルジャーのボーンエッグを取り出して、軍務卿に見せた。

「ふむ、大きいな。ライノサーヴァントのボーンエッグに匹敵するのではないか」

 ライノサーヴァントのものよりは小さいのだが、軍務卿はそう感じたようだ。


 デニスはボーンエッグを空中に投げ上げると、ボーンワードを唱えた。空中でボーンソルジャーが生まれ、身長一九〇センチほどのスケルトンが訓練場に立った。


 兵士たちの中から、どよめきが上がる。軍務卿は迫力があるスケルトンを見詰める。

「これが巨人スケルトンのボーンサーヴァントか。強そうだな」

 デニスはボーンソルジャーに、訓練場にあった丸太を担ぐように命じた。一〇〇キロ以上ありそうな丸太である。ボーンソルジャーは軽々と担ぎ上げる。


「嘘だろ。兵士が二人がかりでないと持ち上げられない丸太なのに、あれほど軽々と持ち上げるとは信じられん」

 指導官が声を上げた。


 軍務卿は巨人スケルトンがいるヌオラ共和国の迷宮の事を詳しく聞いた。

「巨人スケルトンを狩りに行かれるのですか?」

「決めたわけではないが、それも一案として考えねばならないと思っている」


 デニスはボーンソルジャーの武器に関する技量を披露してから屋敷に戻った。

「デニス様、城での御用が終わったのですか?」

 ゲレオンがデニスに尋ねた。

「終わった。次はクム領の秘跡門を調べに行く」

「クム領ですか。分かりました。準備をします」


 ゲレオンはデニスが何を調べているのか知らないのに、全幅の信頼を置いて協力してくれる。デニスはありがたいと思った。



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