scene:237 ボーンソルジャー
「ほう、大きなボーンサーヴァントだ。これなら迷宮で護衛として使えるだろう」
エグモントが感心したように声を上げた。
「問題は、こいつの装備ですね。巨人スケルトンは大剣を使っていたので、剣が使えると思うんですが」
「剣か槍だと思うが……防具はどうするのだ?」
「蒼鋼の備蓄があるので、それでスケイルアーマーを作成しようと考えています」
エグモントは同意するように頷いた。
「弱点の首や頭部を守るような防具が必要だ」
デニスが賛成した。
巨人のボーンサーヴァントを庭に連れ出し剣と槍を使わせてみると、両方とも使えるようだ。デニスは武器として蒼鋼製の槍を選んだ。大型の魔物を相手にする時は、槍が良いと思ったのだ。但し、迷宮は狭い場所もあるので、柄は短めにしようと考える。
「こいつは普通のボーンサーヴァントではないので、何と呼ぶのがいいかな?」
エグモントとデニスが考えていると、アメリアとマーゴが来た。
「これ、なあに?」
マーゴが首を傾げている。アメリアは見上げて、
「こんな大きなボーンサーヴァントがあるんだ。でも召使いというより戦士だね」
それを聞いたデニスは、こいつを『ボーンソルジャー』と呼ぶことにした。
「これはボーンソルジャーだよ。巨人スケルトンのボーンエッグから生まれたんだ」
「ふーん、サーヴァントの大きいのだ」
デニスが誕生させたボーンソルジャーは、大きいだけではなかった。『光子』の真名の力を注入したことにより、レーザー射撃が行える特別な存在となっていたのだ。
デニスとイザーク、フォルカの三人は、それぞれが二体ずつボーンソルジャーを誕生させた。イザークのボーンソルジャーは水撃刃を放ち、フォルカのボーンソルジャーは爆速爆裂球を放てるようになった。
デニスたちがボーンソルジャーを連れて迷宮を攻略するようになると、そのスピードが上がった。十一階層の草原エリアを瞬く間に調べ上げ階段を発見した。
十二階層は荒野だった。荒れ果てた大地が広がり、枯れた草が風で飛ばされるのが見える。
「寂しい風景ですね」
イザークが暗い口調で言った。
荒野エリアを奥へと進み始めた。先頭を歩くのは三体のボーンソルジャーである。蒼鋼製のスケイルアーマーと兜、それに槍を持つ頼もしい盾役だ。
エグモントが、盾役として使うなら本当に盾を持たせたらどうだと提案したが、残念なことにボーンソルジャーは盾の扱いが苦手だった。
このエリアで最初の魔物に遭遇する。全長二メートルの岩石ゴーレムだ。ボーンソルジャーたちが岩石ゴーレムの足を止め、デニスたちが放出系真名術で仕留める。
岩石ゴーレムには、フォルカの爆速爆裂球やデニスの爆噴爆砕球が有効だった。ここにはゴーレム系の魔物しか居ないようだ。狼型のゴーレムや蜘蛛型のゴーレムがいた。
ただゴーレム系は爆裂球や爆砕球の攻撃に弱いらしい。あっさりと攻略して十三層に進む。
攻略スピードが上がった要因は、ボーンソルジャーだけではない。デニスのルインセーバーが思った以上に使える武器だと分かったのだ。
切れ味だけで言えば神剣が一番なのだが、神剣のリーチは短い。五メートルもあるルインセーバーが使いやすいのだ。
十三階層は岩場だった。大小様々な岩が一面に並んでおり、岩から岩へ跳び移って移動できる地形である。
ここでもボーンソルジャーが活躍した。ここで遭遇する魔物は巨大な吸血ヒルだったのだ。デニスたちはボーンソルジャーに戦わせるようにして、十三階層を攻略した。
このようにデニスたちの迷宮攻略は順調に進み始めた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
その頃、雅也は面白い研究を始めていた。人工重力発生装置の開発である。『空間歪曲』の真名をデニスと共有することになった雅也は、引力による空間の歪みを宇宙空間で再現できるか研究していたのである。
強度を高めたチタン合金の板に魔源素の微小結晶をコーティングした後、『空間歪曲』の真名の力を転写したものが、人工重力発生装置には使われている。
この研究は源勁結晶の研究担当だった真島主任に任せることにした。源勁結晶の研究は、一段落したのだ。
雅也と真島主任は、小型起重船に乗って宇宙空間まで上昇した。衛星軌道にまで到達すると、雅也たちはシートベルトを外して座席から浮き上がる。
「これが無重力なんですね?」
真島主任がふわふわと浮きながら声を上げた。
「なあ、真島主任。これって世紀の大発明だと思うんだけど、世間は何で注目しないんだろう?」
「人工重力発生装置について公表した日が、四月一日だったからじゃないですか」
「はあっ、エイプリルフールだと思われたのか?」
「そうだと思いますけど」
「日本の企業に、エイプリルフールを楽しむ習慣はないんだけどな」
「そうでもないですよ。最近は大手企業の中にもエイプリルフール企画というものを行うところがあるんです」
「……知らなかった」
雅也は実験に成功したら、もう一度発表しようと考えた。まずは実験を成功させることだ。
一メートル四方の人工重力発生装置をケースから取り出して、小型起重船の床に設置した。無重力空間で人工重力発生装置を起動させる。船の中で泳いでいたボーンサーヴァントが、ストンと人工重力発生装置の上に落ちた。
「おっ、今の動きを見たか?」
「ええ、あれは引力が発生したんですよ」
装置の名前は人工重力発生装置だが、発生するのは引力である。
雅也は人工重力発生装置の上に乗った。その瞬間、身体が重力を感じる。但し、地球上の重力の八割程度だろう。
「成功だ。これで宇宙開発が大きく前進する。真島主任も試してみろ」
雅也が言うと、真島主任も人工重力発生装置の上に乗って装置が正常に作動したのを確かめた。
「この人工重力発生装置を何に使うのですか?」
小惑星ディープロックから採掘される金属を製錬する装置に組み込もうと思っている事を伝えた。
「なるほど、製錬の全行程を無重力では行うのは難しいので、工程の一部を重力がある環境で行うということですか」
無重力環境金属製錬装置は、日本の金属製錬メーカーが共同で開発しているものだ。かなり開発は進んでいるのだが、無重力状態ではできないと思われる工程があったのだ。
宇宙から戻った雅也は、財界人のパーティーに招かれた。川菱重工の恩田社長やトンダ自動車の社長も出席するというので、参加することにした。
恩田社長とは何度も話しているのだが、トンダ自動車の殿田社長とはほとんど話したことがない。一度じっくりと話したかったのだ。
パーティー会場のホテルに到着すると、顔見知りを探した。すると、冬彦の父親である物部会長を見つけた。
「久しぶりだな。元気にやっているようで、良かった」
「忙しすぎて目が回るようですが、元気です。冬彦はどうです?」
「あいつも元気でやっているよ。仕事も順調なようだ」
「最近、忙しくて会ってなかったので、心配していたんです」
そんな話をしている時、殿田社長が現れて話に加わった。殿田社長と物部会長は顔見知りらしい。
「聖谷常務とは、一度会って話したいと思っていたのだよ」
「私もです。アメリカに工場を建設するそうですね?」
「マナテクノさんの真似というわけではないのだが、スカイカーは日本より国土の広いアメリカで需要が多いようだからね」
雅也は頷いた。国土が広いだけではなく、日本人の金持ちとは桁違いの金持ちが多いのだ。スカイカーの高級モデルがバカ売れしているらしい。
「殿田社長、緊急事態です」
一人の男が話に割り込んできた。雅也は見覚えがなかったが、殿田社長は知っているようだ。
「永田君、怖い顔をして、どうしたのだ?」
「九州工場で魔物が暴れている、という報せが入りました」
殿田社長が顔をしかめた。
「それは冗談かね?」
「事実です。熊の魔物が暴れているのです」
どこかの真名能力者が魔物を召喚したのだろうか? 雅也は真相を突き止めなければ、と思った。




