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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
227/313

scene:226 巨大な脅威

「デニス様は、このオーガから『怪力』『治癒』の真名を手に入れたんですよね?」

 フォルカが質問した。

「そうだ。一度に二つの真名を手に入れるなんて、珍しいらしい」


 オーガは力が強く信じられないほどタフである。だが、初めてオーガを倒した時とは、経験が違っている。今のデニスなら苦労せずに倒せるはずだ。


 そうでないと迷宮主など倒せない。そんなことを考えていたデニスに、オーガが襲いかかってきた。その前にイザークとフォルカが立ち塞がり、オーガを迎え討つ。


 二人が爆裂球を放ち、オーガに命中させる。オーガの胸に大きな傷が出来た。だが、仕留められず、オーガの傷から噴き出ていた血がすぐに止まる。


「おいおい、それはないだろ」

 イザークがオーガの再生能力に文句を零す。デニスが宝剣緋爪を構える。

「任せてください」

 デニスが攻撃に加わるのを、フォルカが止めた。


 フォルカは本気でオーガの真名を欲しがっているようだ。イザークがもう一度爆裂球を放ち、長巻を構える。フォルカが爆裂球を放った瞬間、イザークが飛び込んだ。


 オーガの胴体で爆裂球が連続して爆発した直後、イザークの斬撃がオーガの首に叩き込まれる。食い込んだ刃を首の筋肉が噛んで受け止めた。


 フォルカが爆裂球で出来た傷に長巻の切っ先を差し込み力を入れる。切っ先が心臓まで届いた時、オーガが血を吐き出し死んだ。


 イザークとフォルカが大きく息を吐きだした。

「フォルカ、真名を手に入れられたのか?」

 デニスが尋ねると、フォルカが笑みを浮かべた。

「はい、『怪力』の真名を手に入れました」


「この調子で行こう」

 デニスたちは、十一階層の草原を歩き回り下へ向かう階段を探した。その途中で赤狼二匹とオーガ三匹を倒した。


 草原の半分ほどを確認した時、巨大なムカデと遭遇した。人間など一口で呑み込んでしまいそうなほど巨大なムカデだ。


 フォルカが、あまりのデカさに大口を開けたままムカデを見つめている。

「戦闘態勢を取れ!」

 デニスの叱咤で、慌てて長巻を構えるフォルカ。


 デニスは『装甲』『頑強』『怪力』『爆砕』『光子』の真名を解放し、いつでも真名が使えるようにして備える。


 巨大ムカデが地響きを立てながら迫ってくる。デニスは『光子』を使って光を集め、共振させ増幅した光束を巨大ムカデに向けて解き放つ。制御しきれず溢れ出した光がフラッシュのような強い光を放った。


 強烈なエネルギーを持つレーザー光が巨大ムカデに命中し、巨大ムカデの一部を炭化させ穴を開けた。だが、その敵は巨大過ぎた。レーザー光での一撃は致命傷にならなかったのだ。


 キチキチチッと大顎を擦り合わせて甲高い音を響かせる。不快な音だった。次の瞬間、身体が巨大ムカデに引き付けられる力を感じた。


「何が起きている?」

「デニス様、あいつに引き寄せられています」

 イザークが大声を上げた。巨大ムカデに向かって草の切れ端や土砂、折れた木の枝などが引き寄せられている。


 デニスは『怪力』の真名を使って抵抗するが、抗えない。両足を踏ん張っても地面に溝を作りながら引き寄せられていく。そこで爆砕球を巨大ムカデの頭に向かって放った。爆砕球は狙い通り、巨大ムカデの頭に命中して爆発する。


 引き付ける力が切れた。

「今だ。総攻撃するぞ」

 デニスたちは爆裂球と爆砕球を放ち、もう一度レーザー光を放った。


 それらの攻撃を浴びた巨大ムカデは全身から体液を流し、捨て身の攻撃を仕掛けてきた。デニスたちに向かって突貫したのだ。デニスたちは爆裂球と爆砕球を放って迎え撃った。だが、突貫は止まらずデニスたちは巨体により弾き飛ばされる。


 デニスは宙を舞い地面に打ち付けられて止まった。展開していた装甲膜と『頑強』の真名により大怪我はしなかったが、全身に無数の擦り傷を負った。


「ムカデ野郎が!」

 デニスは闘志を剥き出しにして起き上がる。神剣を引き抜き巨大ムカデ向かって走り出した。それを目にした巨大ムカデは大顎をキチキチチッと動かし、デニスに襲いかかる。


 デニスは大顎を神剣で斬り飛ばした。一緒に触手のようなものに傷をつけたのだが、それが急所だったらしい。のたうち回って苦しみ始める。


 チャンスだと感じたデニスは、もう一度レーザー光を放った。その攻撃が巨大ムカデの胴体に穴を開ける。苦しんでいた巨大ムカデがデニスを睨んで最後の力を振り絞る。


 あの力を使い始めたのだ。デニスの身体が引き寄せられる。よく見ると巨大ムカデの頭部から少し離れた場所の空間が歪んでいるように見える。


「何だ、これは?」

 デニスが疑問の声を上げ、その空間に向けてレーザー光を放った。そのレーザー光が曲がる。空間が歪んで見えるのではなく、本当に歪んでいるようだ。


「まずい、あんな空間に引きずり込まれたら、確実に死ぬ」

 デニスは爆砕球を巨大ムカデに向かって放った。爆砕球が危険だと学習した巨大ムカデは、歪んだ空間を動かし、その特殊な空間に爆砕球を吸い込んだ。


 爆砕球が歪み消滅する。デニスはゾッとした。

 それがあまりにも危険なものだと分かったからだ。巨大ムカデは生まれたての赤ん坊のように、自分の武器の使い方をよく理解していないようだ。


 デニスが絶体絶命だと思った時、巨大ムカデの背後から爆裂球が飛んできて頭に命中した。その瞬間、歪んだ空間が消える。


 デニスは爆砕球を巨大ムカデに向かって放った。息を吐く暇もなく連続で放つ。巨大な魔物に命中した爆砕球はムカデの外殻を破壊し体液を噴き出させた。


 のたうち回る巨大ムカデが、その動きを止めた時、デニスの頭に真名が飛び込んだ。どうやら巨大ムカデを仕留めたらしい。


 デニスはイザークとフォルカを探した。フォルカは地面に倒れている。イザークは片膝を突いて、こちらを見ている。どうやらイザークが、爆裂球で援護してくれたようだ。


 デニスはフォルカの所へ行った。生きているのを確かめ、ホッとする。

「イザーク、大丈夫か?」

「あまり大丈夫じゃないです」


 イザークも怪我をしているようだ。デニスはイザークとフォルカの傷の手当をしてから、自分の手当もした。


 イザークとフォルカの様子から、今回の探索はここまでだと考えた。

「デニス様、あの化け物を倒して、何か真名を手に入れたのですか?」

 イザークが尋ねた。


「ああ、よく分からない真名を手に入れたようだ」

「よく分からないというのは?」

「我々の言葉の中に、当て嵌まるものがないのだ」


 前回の『光子』もゼルマン王国の言語に翻訳すると説明するのが難しく、『光の粒』と翻訳した。だが、今回はより難しかった。


 手に入れた真名は『空間歪曲』だったからだ。イザークに何と説明したらいいのか分からない。歪んだ空間? 空間という概念、しかも空間が歪曲なんて説明する語彙ごいがない。


 デニス自身も何ができる真名なのか分からなかった。ただ巨大ムカデがものを引き寄せていたのは、この真名が関係しているのだろうと推測していた。


 フォルカが目覚めた。

「デニス様、申し訳ありません」

「いや、敵が強かっただけだ。僕もイザークの援護がなければ、死んでいたかもしれない」


 デニスはイザークに感謝した。

「当然のことをしたまでです。それより、これからどうしますか?」

「今回の探索は、ここまでにしよう。一旦地上に戻る」


 デニスたちは十一階層へ下りてきた階段へ戻り、そこで休憩した。体力を取り戻してから、地上に向かって戻り始めた。


 デニスたちが地上に戻ったのは、翌々日だった。かなり体力を消耗していたのだ。

 ボロボロになって戻って来たデニスたちは、ブリオネス家の家族に心配をかけたようだ。


「デニス兄さん、少し休んだ方がいいんじゃないの」

 アメリアは、探索を休止することを提案した。


「心配してくれるのは感謝するよ。でも、大丈夫だ」

 だが、少し疲れを感じていたデニスは、三日ほど休むことにした。



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] 迷宮の主が次から次へと強力な真言つき刺客を送り出してくれたらデニスがじゃんじゃん強化されて超美味しい件。
[一言] 空間湾曲と言えば、某破壊神な勇者!! 巨大なマイナスドライバーを腕に装備して大地を割れるなwww
[一言] 『空間歪曲』って、質量に起因しない重力場なのか? 普通に『重力』で良いような気がするけど? わざわざ『空間歪曲』って名前なんだから、何かあるのかな?
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