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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
224/313

scene:223 宇宙のテロ

 衛星軌道まで上昇した雅也たちは、宇宙望遠鏡の組み立て作業を始めた。

 雅也は船内にある小さなロッカーのような入れ物の前に移動した。無重力なので、空中を泳ぐような移動である。ロッカーを開け、中でジッとしていたボーンサーヴァントを外に出した。


 それを見たハーシェルは、興味を持って寄ってきた。

「それがボーンサーヴァントかい。宇宙服を着ているんだね」

「ええ、温度調節と、宇宙線からボーンサーヴァントを守るために必要なんです。人間が船外活動をする時に着る宇宙服とは違い、シンプルなものです」


「このボーンサーヴァントは、誰が命令を出しているのだね?」

「地球にいるマナテクノの関係者ですよ」

 雅也が言った瞬間、ボーンサーヴァントが動き始めた。


 大型起重船の貨物室から宇宙望遠鏡の分割された部品が取り出され、宇宙空間でボーンサーヴァントにより組み立てられた。ボーンサーヴァントは中村主任たちが開発した超小型動真力エンジンを組み込んだ推進装置で移動しながら作業している。


 宇宙を飛び回るボーンサーヴァントを窓から見ていたジョンソン大佐は、渋い顔をしていた。

「どうしたんです?」

 雅也が尋ねると、

「日本ならロボットを使って組み立てるだろうと思っていたのに、ちょっと予想外だな」


 宇宙望遠鏡が組み立て終わり、正常に稼働するか確かめた。竜之島宇宙センターから連絡があり、正常に稼働したと分かる。


「さて、これからが本番だ」

 雅也たちが乗る大型起重船が、小惑星ディープロックへ向けて飛翔を開始する。大型起重船は数時間加速して、音速の数倍という速度に達した。


 大型起重船の大型高出力動真力エンジン四基が停止した。目標とする速度に到達したからだ。ディープロックの近くまで飛翔したら、逆推進で速度を落とす事になる。


 無重力状態にも慣れたので、雅也は宇宙を眺めながら異界の最高神から与えられた知識についてチェックを始めた。他のクルーは所属する政府や研究組織から指示された仕事を熟している。


 その仕事というのは無重力環境での実験だったりするのだが、皆は忙しそうだ。雅也の仕事は大型起重船のチェックと緊急時の手動操縦なので、緊急時や異常発生時でないと暇なのだ。

 ちなみに通常時の操縦は自動操縦である。


 脳内にある知識をチェックしていた雅也は、その中に魔源素についての知識があることに気づいた。そして、魔源素を媒質として伝わるメルバ震と呼ばれるものが存在することが分かった。


 メルバ震は魔源素間を伝播する音波のような存在である。メルバ震は発生源から四方八方に伝播する。但し、音波とは違い、特異な性質を持っていた。魔源素同士が接触している必要はなく、離れていても最も近い位置にある魔源素に伝播するのだ。


「メルバ震か、よく分からないものだな。何の役に立つんだ?」

 雅也はぶつぶつと言いながら、記憶を探り始めた。調べているうちに、メルバ震に指向性を与えられることが分かった。


 メルバ震の指向性というのは、ある方角にだけ進ませるということではなく、目標を決めるとその目標に向かって進むというものだった。つまり目標が動いても追尾して到着するのだ。


 このメルバ震は共振データデバイスに使っている共振迷石にも関係しているということが分かった。共振迷石は振動エネルギーをメルバ震に乗せて送信しているのではないか? そうなると乗せられるのは、振動だけなのかと考え始めた。


 雅也は小惑星ディープロックに到着するまで、メルバ震について調べ続けた。そして、雅也の脳はオーバーヒートを起こして、ダウンする。


「ダメだ。同じところをぐるぐる回っているようで、気持ち悪くなってきた」

 そこに医師であるハーシェルが近付き声をかけた。

「おい、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」


「あっ、大丈夫だ。ちょっと難しいことを考えたら、脳がオーバーヒートしただけだ」

 それを聞いたハーシェルが笑った。

「その考えたことを学会で発表したら、ノーベル賞がもらえるんじゃないか」


 ハーシェルは冗談で言ったのだろうが、メルバ震について纏めた論文を発表すれば、本当にノーベル賞がもらえそうだ。


 さて、久し振りに仕事の時間となった。手動操縦に切り替え小惑星に近付いていく。雅也は慎重に小惑星ディープロックの周囲を周り、他のクルーと着陸地点を検討した。


 出発前に候補は挙がっていたのだが、実際に肉眼で確かめてから決定することになっているのだ。

「やはりC5がいいんじゃないか?」

 ジュベル中佐が平になっている地点を提案した。雅也も賛成だった。


 そこに着陸することに決まり、その地点をロックオンする。着陸に関しては自動操縦で行う。精密な操作が必要なので、自動操縦装置が適しているのだ。


 人間を乗せた宇宙船が初めて小惑星に到着した。雅也たちクルーは大いに喜んだ。アポロの月着陸と同じくらい偉大な出来事だったからだ。


「なぜか、地球ではあまり盛り上がっていないんだよね」

 クルーの一人である伊藤が、少し不満そうに呟いた。

「仕方ないですよ。ハト座流星群の騒ぎで、宇宙に関しては盛り上がりすぎたんですよ。ずーっと宇宙のニュースばっかりだったんで、宇宙の話題に飽きているんです」


 それが悲しい現実だった。もう少し時間が経てば、世間も称賛すると思う。それまでの我慢である。


 またボーンサーヴァントを出して、サンプルの採取をさせた。ボーンサーヴァントは不安の欠片も見せずにサンプルを集めて、回収してきた。人間なら不安になるものだが、ボーンサーヴァントは大胆に宇宙空間を飛び回っている。


「何か、日本人はずるいな」

 ハーシェルが言った。

「何がずるいんです?」

「自分たちだけ、こんな便利なものを持っているのが、ずるいと思うんだ」


 それを聞いた雅也は苦笑する。この映像が地球に届いたら、スケルトンを召喚する真名を持つ魔物を探し始める外国が増えるだろう。


「しかし、近くで見るとディープロックは大きいな。これが金属の塊なんだろ?」

「ええ、チタンが一番多く、次に鉄・ニッケルが多いようです」


 回収したサンプルをケースに入れ、船内に保管する。その量は一トンを超えた。

「さあ、帰還する時間だ」

 雅也は大型起重船を旋回させ、地球へ進路を向ける。


 地球への旅も順調だった。しかし、静止衛星軌道まで戻った時、もっと低い軌道を周回していた衛星がおかしな動きをした。こちらに向かって火器管制レーダーを照射したのだ。


「おい、どういう事だ。あの衛星がこっちをロックオンしたぞ」

 ジュベル中佐が大声を上げた。

「何だって!」


 雅也は自分の目でチェックして、本当にロックオンされているのを確認した。まずい、非常にまずいことが起きているという不安が、雅也の心に渦巻く。


 レーダー照射している衛星が、ミサイルを発射した。

「嘘だろ」「ミサイルだ!」「どこの国だ」

 伊藤たちが騒ぎ始めた。だが、ミサイルは無情にも迫ってくる。


 雅也は何ができるか考えた。デニスが『光子』の真名で攻撃したのを思い出し、宇宙船の内部から迎撃できるかもしれない、そう思った。


 雅也は『光子』の真名を解放し、周りから光を集める。雅也が集めているのは、宇宙船内部の光ではなく太陽から降り注ぐ太陽光だ。


 太陽光の光束を共振させ増幅し、ミサイルに向けて解き放つ。制御できなかった膨大な光が閃光弾のような強烈な光を放ち、高威力のレーザー光がミサイルを貫いた。


 宇宙空間でミサイルが爆発した。ミサイルに搭載されている燃料がレーザー光で起爆したのである。ミサイルの破片が宇宙船の機体を叩き、喧しい音を立てた。

 伊藤が雅也に視線を向ける。


「今のは、君が撃ち落としたのか?」

「ええ、俺は真名能力者なんですよ」

 理学博士のレミントンが興味を持った。

「宇宙空間でも使える真名能力か。初めてだよ」


「それより、宇宙船のチェックをしましょう」

「そうだな。異常がないかチェックだ」

 雅也たちは急いでチェックした。チェックを始めた途端、竜之島宇宙センターから、何が起きたのかという問い合わせが来た。分かっていることを伝えると、地上も大騒ぎとなったようだ。


 チェックの結果、異常なしと分かりホッとする。着陸シーケンスが始まり、大型起重船はゆっくりと高度を落とし始める。

 大型起重船は無事に竜之島宇宙センターに着陸した。



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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] ビームを撃てる会社の役員とかかっこいいですね
[気になる点] 専用のポーズとかするのかな? [一言] 雅也はウ○トラマンだった説が出そうですね。
[一言] これ、動真力エンジン船で助かりましたね。 普通の宇宙船なら耐熱シールドの損傷とかに凄い気を使ったでしょうし。
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