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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
223/313

scene:222 スパイと宇宙

 冬彦の探偵事務所が調べた西根総合病院には、某大国から来た二人の医者が働いていた。その二人の医師が怪しいと思った雅也は、徹底的に調べさせた。


 調査させた二人というのは、内科医であるリャオ・イエンと、研修医であるジャン・ダオミンだった。調査の結果、ジャン・ダオミンが真名能力者ではないかという疑いが出てきた。


 ジャン・ダオミンは周囲に二十五歳だと言っているが、実際は三十二歳なのだ。しかも、見かけが十代に見えるという化け物だった。


「あれは、『若作り』の真名を持っているに違いない」

 雅也が断言した。

 冬彦が首を傾げている。


「単に童顔だというだけじゃないですか。それだけで判断するには無理があると思うけど」

「俺は宇宙に行くための訓練をしなきゃならないんだ。時間がないから、強引に白状させてしまおう」

「具体的にはどうするんです?」


「二人を呼び出して白状させる。呼び出してくれ」

「また、面倒なことを……でも、仕方ないか。報酬を弾んでくださいよ」

「任せておけ」


 その夜、冬彦は二人の医者を病院近くの公園に呼び出した。

「私たちを呼び出したのは、あなたか?」

 外見は若いジャンが雅也を見て尋ねた。


「そうだ。俺を知っているのか?」

「あんたは、経済界じゃ有名人だからな。聖谷雅也、マナテクノの宇宙事業担当常務、それにマナテクノの真の支配者だ」


「支配者だなんて、とんでもない。代表は神原社長だ。そんなことより、うちの社員でおかしな行動をする者が見つかった。その者たちは、君らと関係している。正直に白状しろ」


 ジャンがニヤッと笑う。

「あなたの言っていることは理解できません。マナテクノの社員と話したことはありますが、それだけです。その人たちがとったというおかしな行動と、私たちとは関係ありませんよ」


 ジャンが反論している横で、リャオが不機嫌そうな顔をしていた。リャオが中国語で何か言う。

「俺は中国語は分からないんだ。日本語で言ってくれ」

「ふん、お前を捕らえて、秘密を聞き出せばいいと言ったんだ」


 どうやら二人とも某大国のスパイだったらしい。

「二人ともスパイだとは思わなかった。日本でスパイ防止法が成立した後で、良かったよ」


 スパイ防止法の成立には、マナテクノも関連していた。動真力エンジンを開発した頃から、外国の政府や企業から、マナテクノの企業機密を盗もうという活動が激しくなった。


 そこで警察や政府に訴えたのだが、中々具体的な行動を取ってもらえなかった。そこでトンダ自動車や川菱重工と組んでロビー活動とソーシャル・ネットワークでの世論作りを強力に進めたのだ。


 その目的はスパイ防止法の成立である。与党の一部政治家や野党の政治家の反対があったが、反対する政治家を調べ上げ、探し出したスキャンダルで攻撃すると次第に反対は消滅した。


 今までの日本企業は、政治への介入をほとんどしなかったが、マナテクノはあらゆる手段を使って自社を守るという方針があった。これは雅也が決めたことだ。


 雅也は敵だと決めた相手に対して容赦しない性格に変わっていた。これは異世界のデニスの性格が影響しているのかもしれない。


 こうして反対勢力が消滅した与党は、スパイ防止法を成立させた。

 この二人を捕まえて情報管理捜査局に突き出せば、取り調べられ裁判にかけられて処罰されるだろう。今までできなかったことだ。


「何を言っている。スパイ防止法など関係ない。捕まるのはお前で、俺たちではないんだからな」

「犯罪を犯したのは、君らだよ。当然、捕まるのは君たちだ」

「誰が捕まえると言うんだ。お前が捕まえるのか?」


「そうだ、俺が捕まえる」

「できると思っているのか? そうか、お前は空手か柔道を習っているんだな。馬鹿な奴だ」

 リャオがそう言うと、何かの真名を使おうとしている気配を感じた。


 たぶん『豪腕』か『剛力』の真名だったのだろう。雅也の腕を掴もうとしたので、左足の脹脛ふくらはぎにローキックを叩き込んだ。いわゆるカーフキックと呼ばれている蹴りだ。


 蹴りがまともに決まり、リャオが悲鳴を上げる。本格的に格闘技をしている者でも、決まればダメージが大きな技だ。リャオは痛みで地面を転げ回っている。


 宮坂師範から、決まれば一撃で勝負がつくと言われたが、本当だったようだ。鳩尾に蹴りを入れて気絶させた。

「リャオ!」


 仲間の名前を叫んだジャンが真名を使った。以前にガオ・ユーハンが使っていた邪眼である。ジャンの目が禍々しいものに変わり、怪しい光が宿っている。雅也は、自分の精神が侵されているのを感じた。


 この真名術に対する防御方法は分かっていた。雅也は『言霊』の真名を解放して叫んだ。

真名術をやめろ(▼▼▼▼▼▼▼)

 雅也の強制力を持つ言霊は、威力を増していた。ジャンの邪眼が止まる。


 何が起こったのか分からないジャンは呆然としている。雅也はその顎にパンチを入れた。ジャンも気絶したので、拘束バンドを使って二人を拘束し『言霊』の力を使って、呪いと言っても良い能力を発動させた。


 それはキーワードを言うと、正直に答えるというものだ。本人がとぼけたり、誤魔化したりしているつもりなのに、キーワードを聞くと真実を話してしまうというものだ。警察や検察だったら、喉から手が出るほど欲しがるものだった。


 スパイ防止法が成立すると同時に作られた情報管理捜査局に連絡し、二人を引き渡した。その時、キーワードも教えた。その結果、二人は全てを話し、某大国は慌てる事になった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 大型起重船が八回目の有人飛行から戻って来た。そして、雅也が宇宙へ出る許可が下りる。

「やっと、宇宙へ行ける」

 小雪が心配そうに顔を曇らせた。


「本当に大丈夫なんでしょうか?」

「もう八回も人を乗せて宇宙に行っているんだ。問題ない。地球にいても交通事故に遭うことだってある。心配したらきりがない」


「雅也さんが参加するミッションは、小惑星ディープロックまで行って、その構成物質のサンプルを採取して戻ってくることですよね」


「そうだ。アメリカ・フランス・イギリスとの合同ミッションになる」

「日本以外は欧米人ですか。何かバランスが悪いですね」

「仕方ないさ。宇宙に関する研究が進んでいる国となると、どうしてもそうなるんだ」


「あんな遠くまで行って、石を採取して帰るだけなんですか?」

「いや、日本で開発した宇宙望遠鏡を運んで、衛星軌道に設置することになっている。この宇宙望遠鏡は可視光も観測するが、赤外線が本命だ」


 ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、赤外線観測用のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡というのがあったのだが、隕石に破壊されて今は存在しない。


 大型起重船は最大八人と荷物を乗せて宇宙へ飛び出せるが、そのミッションでは六人が小惑星ディープロックへ行く事になっている。


 大型起重船を駆使すると、ディープロックまで三日ほどで到達する。ディープロックでの作業時間は三時間ほどなので往復で六日の旅である。


 雅也はミッションに備えて、訓練を行っていた。他のクルーより訓練期間は短かったが、教官が驚くような早さで訓練を熟し課題をクリアしていた。


 ミッション開始の日、分解された宇宙望遠鏡が載せられた大型起重船が、打ち上げが始まるのを待っていた。雅也は宇宙服に着替えて、他のクルーと一緒に乗り込んだ。


 クルーはアメリカのハーシェル医師と理学博士レミントン、イギリスのジョンソン大佐、フランスのジュベル中佐、日本の理学博士伊藤と雅也である。


 打ち上げは予定通り行われた。

 重力を感じなくなった雅也は、身体に違和感を感じていた。ちょっと頭がぼーっとして、鼻風邪を引いたような変な感じがする。


 重力が無くなったので、血の循環が普段と変わったのだ。

 窓から見える宇宙の光景は、神秘的で惹き込まれるほど美しいと感じた。

「美しい。私は宇宙に憧れて、このミッションに志願しました。聖谷さんはどうしてです?」

 雅也の横に座っているハーシェルが宇宙を見つめながら尋ねた。


「この宇宙にマナテクノと日本の未来があると思っています。なので、この目で確かめたいんです」

「宇宙開発は、日本を中心に進むんでしょうね。羨ましい」


 日本の経済は長い年月停滞してきた。それには様々な要因があるのだが、雅也は日本人が新しい事を始める勇気が持てなかったからではないかと思っている。


 リスクを恐れて足を踏み出せなかった日本に、マナテクノが動真力エンジンという新しいものを提案した。その時、日本は最後のチャンスだとばかりに飛び付いた。それがトンダ自動車や川菱重工との共同事業へと繋がったのだ。


 そして、マナテクノが宇宙事業を始めると、日本のほとんどの国民が応援を始めた。中には某大国などの味方をして、妨害するような連中もいるが、基本的にマナテクノという会社を誇らしいと思ってくれているようだ。



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しい二周目でした。 更新お待ちしております。 [一言] ポチっとな★★★★φ(-ω-。`) 作者様からのお知らせがあったので、カクヨムの他作品にも顔出してきまーす。
[一言] この程度の工作員に手を貸した国内勢力が軒並み逮捕される事態に成ったなら、風通しも良くなりそうだな。
[一言] 杜撰というか迂闊というか、自分がスパイだと 語るスパイが居るかッ。 真名能力者をスパイに転用したせいで 諜報技術がまったくないな、 性格的にも向いてないようだし。 念願の宇宙に行けたけれど…
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