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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
219/313

scene:218 ハイネス王子の頑張り

 王子と王女がベネショフ領を訪れると決まると、王家の持ち船から御座船が決まり、護衛やメイドが選ばれた。王子たちがベネショフ領へ行くと決まってから時間がかかったが、御座船がベネショフ領に到着する。


 御座船から降りたハイネス王子は、ベネショフの街を見渡した。辺境の街だと知っていたので、もっと長閑のどかな風景が広がる場所だと思っていた。


 だが、目の前の風景は綺麗に整備された住宅地だ。大きな道路と綺麗な街並み、整備された港湾などが広がっている。


「テレーザ、住みやすそうな街じゃないか」

 王女はジッと街並みを見て笑みを浮かべていた。

「はい、綺麗な街です。本当に楽しみです」


 ブリオネス家が総出で王族を出迎えた。アメリアが満面の笑顔でテレーザ王女に近付き、声をかけた。

「テレーザ殿下、お久しぶりです」

「また会えて嬉しいわ」


 エグモントは王族とギュンターが率いる近衛兵を新しい領主屋敷へと案内した。ちなみに、海岸付近にあった古い領主屋敷は、商人たちが泊まる宿屋になっている。


 新しい領主屋敷は、大斜面の最上段にある。王族を歩かせるわけにはいかないので、ライノサーヴァントを用意した。ライノサーヴァントが引く馬車というのも考えたのだが、馬車よりライノサーヴァントに騎乗する方が喜ばれると思ったのだ。


 テレーザ王女はアメリアのライノサーヴァントに一緒に乗ってもらうことにした。ハイネス王子は、デニスのライノサーヴァントに乗ってもらった。テレーザ王女のように二人乗りではなく単独である。

 近衛兵とメイドは、馬車に乗せて領主屋敷に向かう。


 大斜面の開発は、貯水池・道路・用水路・紡績工場・工員と家族が住む下町・領主屋敷・領庁などが完成していた。今建設中なのは、機織り工場である。


「道の両側に植えてあるのは、何の木なのです?」

 テレーザ王女が質問した。アメリアが木に目を向けた。

「あの木はイシバとスガイの木です。秋になると、イシバが黄色く、スガイが赤く紅葉するので、美しい並木道になるんですよ」


「素敵なところね」

「新しい領主屋敷も、気にいると思います」

 領主屋敷に到着すると、エグモントが王族を客室に案内した。


 新しい領主屋敷には、貴族の来訪もあり得るので、貴族用客室も用意してある。その部屋を王族二人に使ってもらう。デニスは近衛兵とメイドたちを客室に案内する。


 客室の一つ一つに発光迷石ランプが備え付けられているので、近衛兵やメイドたちは驚いていた。


 客室に荷物を運び終わると、テレーザ王女とハイネス王子はリビングでデニスと話を始めた。

「デニス、神剣を手に入れたと聞いたが、見せてくれるか?」

「はい、殿下。これが神剣でございます」


 デニスは迷宮で手に入れた神剣をハイネス王子に渡した。鞘がなかった神剣は、ベネショフ領で作られた鞘に納められている。綺羅びやかな鞘ではないが、蒼鋼製だった。


 ハイネス王子が鞘から神剣を抜いた。赤い宝石で出来ているかのような刃に、王子が息を呑んだ。テレーザ王女も目を見開いて神剣を見つめる。


「これが、神剣か……」

 王子が呟き、大きく息を吐きだしてから鞘に納めた。


 デニスは神剣を返してもらい、王子の予定を尋ねた。

「その神剣が本物かどうか、明日にでも試してから、岩山迷宮で修業したいと思っている」

 王子はいくつか欲しい真名があると言う。護衛は近衛兵が務めるので不要だそうだ。


 近衛兵の部隊長であるギュンターが、カーバンクルのいる階層を尋ねた。

「父から聞いています。キザク迷宮の迷宮主を倒すために、『雷撃』の真名が必要だそうですね。カーバンクルは五階層です」


「感謝する。ここの迷宮は、どこまで攻略したのですか?」

「九階層まで攻略しています。湖まである広大な森林なので、一〇階層へ下りる階段を見つけるのに、苦労しています」


「我々に協力できることがあれば言ってください。陛下から協力するように言われておるのです」

「感謝します。ですが、今のところは大丈夫です。貴殿たちには一刻も早くキザク迷宮の迷宮主を倒し、迷宮主をなくした迷宮がどうなるか、確かめてもらいたい」


「分かりました。全力を尽くします」

 ギュンターは根っからの軍人で、王家に忠誠を誓っているらしい。テレーザ王女の婚約者であるデニスには敬意を払っている。


 翌朝、朝食を済ませてからハイネス王子とギュンターを連れて訓練場に向かった。その訓練場には人の胴体ほどの丸太が用意されていた。


 その丸太を神剣で斬り、その切れ味を確かめることになっていた。

「まずは、私の剣で仕掛けがないか確かめてもよろしいでしょうか?」

 ギュンターが王子に確認した。


「デニスが変な仕掛けを仕込むことはないと思うが、許そう」

 ギュンターは剣を抜いて丸太に斬りつけた。蒼鋼製らしい刃が丸太に深く食い込んだ。


 デニスは苦笑してから、王子に神剣を渡して忠告する。

「殿下、神剣の切れ味は恐ろしいほどですので、切った手応えがありません。剣は軽く振って、基本通りに止めてください」


 振り抜いて足でも怪我をされると困るので、デニスは忠告した。

「分かった」

 神剣を構えた王子が丸太に向けて振り下ろした。エグモントが丸太を切った時は通り過ぎたように見えたが、王子の一撃では丸太が真っ二つに分かれて、ドスンと地面に落ちた。


 剣の軌道が不安定だったために、丸太が切られたと同時に滑り落ちたのだ。ハイネス王子が信じられないものを見ているかのように、二つに切り分けられた丸太を見ている。


 ギュンターは低い唸り声を上げ始めた。自分では気付いていないようだ。

 デニスは王子の手から神剣を受け取り、鞘に納めた。

「これが神剣の切れ味か。これなら、どんな魔物でも倒せる」


 その言葉を聞いたデニスは、どうだろうと疑問に思った。近付くことさえ許さない魔物もいるはずだし、大きな魔物は致命傷を与えられない場合もあるだろう。


 思ったことを王子に伝えると、感心したように頷いた。

「さすがに、実戦経験が多い者は違うな」

「殿下、私も試してもよろしいでしょうか?」


 ギュンターも切れ味を試したくなったようだ。ハイネス王子がどんな魔物でも倒せると言ったので、気になったのだろう。


「デニス、よいか?」

「はい、構いません」

 デニスは神剣をギュンターに渡した。ギュンターは丸太を神剣で断ち切り、また唸り声を上げた。唸り声は、ギュンターが驚いた時の癖らしい。


「神剣と呼ぶに相応しい切れ味でございました」

 神剣の事は秘密にしてくれと、デニスからも頼んだ。

「なぜでございます? この神剣があるということで、領民は安心感を持つと思いますが」


 ギュンターが疑問に思ったようだ。

「そういう領民だけならいいが、中には盗み出して売ろうと考える不埒者も出てくるはず。用心のために秘密にしておいて欲しいのです」


「分かりました」

 王子とギュンターは承知した。

 神剣を確認した王子は、その日から岩山迷宮へ行き修業を開始した。


 一方、テレーザ王女は、エリーゼやアメリアから料理を習ったり、硬化樹脂を使った装飾品作りを習ったりした。そして、偶にアメリアたちと一緒に迷宮へ行くこともあった。


 ハイネス王子は最初反対したのだが、アメリアやフィーネ、ヤスミンが多くの真名を手に入れているのを知って、そんなものなのかと思い直し許可した。


 国王や王妃なら絶対に許可しなかっただろうが、ハイネス王子は妹王女に対して甘かった。驚いたことにテレーザ王女は瞬く間に、『超音波』『装甲』『雷撃』と真名を手に入れた。


 それだけの才能があったらしい。追い付かれそうになったハイネス王子は、必死になって迷宮の攻略を進め、七階層の雪原エリアで大雪猿を倒して『剛力』を手に入れた。


 ハイネス王子は是非手に入れたい真名があったらしい。それは爆裂トカゲから手に入れられる『爆裂』である。ただ『剛力』を手に入れないと、影の森迷宮の爆裂トカゲとは戦わせられないという決まりが、ベネショフ領にはあるとクルトから聞いていたので、大雪猿を頑張って倒していたのだ。


 エグモントから許可が出たハイネス王子は、カルロスに案内されて影の森迷宮へ向かった。


 ギュンターが案内をするカルロスに尋ねた。

「ベネショフ領の兵士は、『装甲』『雷撃』『頑強』『剛力』『爆裂』の真名を持っていると聞いたが、本当なのか?」


 カルロスは頷いた。

「ええ、その五つの真名は、最低でも取得するように鍛えています」

 ギュンターの顔が引き攣った。その五つを持っていれば、近衛兵に合格しそうだったからだ。


「ゼルマン王国最強の兵は、ベネショフ領の兵士だというのは本当だね」

 ハイネス王子が言うと、ギュンターが顔をしかめた。ゼルマン王国最強は近衛兵だという建前になっていた。



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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[一言] お姫様は結構お転婆な様で、爆裂とかも 欲しがりそう。 ハイネス王子も頑張りますね、爆裂が欲しいとは ベネショフ骨騎兵団への憧れかな?。 あせる近衛騎士団長、頑張れ‼。
[一言] 間違いではないですが、43行目付近の デニスは迷宮で手に入れた神剣をハイネス王子に渡した。鞘がなかった神剣は、ベネショフ領で作られた鞘に納められている。綺羅びやかな鞘ではないが、蒼鋼製だっ…
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] なるほど。 ベネショフ領で兵士として暮らすには近衛兵と戦える事が最低ラインである、と。
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